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関取花 連載第20回 サボテン五兄弟

2020.05.13

サボテン五兄弟

4月頭くらいから、サボテンを種から育てている。本屋のレジ横にあった、「君はサボテンのうぶ毛を見たことがあるか」というポップの文字に妙に心惹かれてしまい、気付いたらこれもくださいと言ってしまっていたのである。

ネットで調べると10日前後で芽が出るとのことだったので、それからはただ待ちわびる日々が続いた。思い返せば、種から植物を育てるなんて小学生の頃の朝顔の観察以来だ。どうして朝顔を育てましょうとあの時先生が言ったのかなんて、全然覚えていない。でも多分、こうやってみんな少しずつ成長していくんですよ、ということを伝えたかったのだろう。私はまだ見ぬサボテンに想いを馳せながら、そんなことをぼんやり考えていた。

二週間が過ぎた。一向に姿を現す気配のない様子を見てさすがに不安になってきた私は、より風通しが良く日当たりの良い場所へとサボテンを移動させることにした。
本当に恥ずかしい話だが、ズボラで忘れっぽい性格のせいで、私は何度か花を枯らしたことがある。そんな私が、まだ姿も見えないサボテンのためにこういった行動を起こしたのは、自分でも少し意外だった。
その日の夜、友人とオンライン飲み会をした際にこの話をしたところ、「母性だね、それ母性。人に会わなさすぎてサボテンに抱いちゃったわけだ」と言われた。なるほど、たしかにそうかもしれない。でも相手がサボテンだとしても、母性は母性だ。どうせならしっかり育もうということになった。

そこで私は、生まれてくる赤ちゃんの名前を想像するように、先にサボテンの名前を考えておくことにした。そうするとより愛しさが増すと思ったのだ。いろいろと候補は出たが、最終的にはカズオに決定した。チューリップの「サボテンの花」という私も大好きな楽曲があるのだが、それを書いた財津和夫さんからお名前をいただいた。

20日ほど経った頃、今日こそはと思いながらカズオの様子を見に行くと、ついに緑色の小さな物体を発見した。想像していたようないわゆる芽、というより、2ミリほどの球体という感じだった。少し透けているようなプニプニした様子からは、多肉植物らしさがすでに漂っていて、とにかく可愛い、愛しい、守りたい、と思った。母性爆発の瞬間である。

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もっと近くで我が子を見たいと思った私は、家にたまたまあった虫眼鏡を手にとった。すると、カズオよりもさらに小さい芽が二つあることに気がついた。カズオには兄妹がいたのである。
私は大きな喜びを感じると共に、すぐにこの子たちにも名前をつけてあげなければと思った。長男のカズオのたたずまいはなんだか堂々としていたが、この子たちはやや控えめな感じがしたので、女の子な気がした。私は彼女たちに、カズコとカズミという名前をつけた。一体どんな子に成長するのだろうか。いつか彼らのうぶ毛を発見した時には、初めて赤ちゃんに乳歯が生えた時のような気分になるのだろうか。この先のいろんなことを想像するだけで、胸が躍った。

25日ほど経ったあたりだろうか。ちょうどその日は土の表面の水分がなくなってきたタイミングだったので、私は軽く水をあげることにした。水をあげる前になんとなく表面を綺麗に整えようと指でサッとなでたところ、私は驚いた。三兄妹の他に、あと二つも小さな芽が出ていたのである。これは早急にまた名前をつけてやらねばならない。カズオ、カズコ、カズミと来ていたので、やはりカズの流れは残したいところである。

新たに発見した二つのうち一つは、やや細長く、そのせいなのかどうかわからないが、虫眼鏡でよく見ると少し斜めに生えていた。他の子たちとは違うそのたたずまいには、なんだか異彩を放っているというか、オーラを感じた。私はその子に、カズレーザーという名前をつけることにした。長いから呼び名はレーザーだ。それはそれは真っ赤な花を咲かせることだろう。

もう一つは、育成キットのアクリル容器の端っこにいて、外の世界を黙って見つめているような子だった。色も少しだけ他の子たちに比べて薄く、なんとも言えない儚さがあった。でもどんなに憧れても、この子はこの箱の中から飛び出すことはできない。野生にはなれないし、この世界の中で生きていくしかないのだ。私はなんだか切ない、どうしようもない気持ちになった。
そういえば、こんな小説を読んだことがある。そうだ、「わたしを離さないで」だ。そしてその著者は、カズオ・イシグロ。私はなんだか運命めいたものを感じた。でも待て、カズオはダメだ。長男と同じ名前はさすがによくない。でもこの不思議な縁を無視することはできない。この子だけは特別にニックネームというかたちをとって、イシグロという名前をつけることにした。ノーベルサボテン賞があれば受賞するのは間違いなくこの子だと思う。なんだそれ。

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こうして私は、五人、いや五サボテンの母となった。カズオ、カズコ、カズミ、レーザー、イシグロ。彼らが今後どんなサボテンになっていくのか、とても楽しみである。とりあえず、レーザーからはそろそろ金のうぶ毛が生えると思う。

関取花アー写1912小

関取花(せきとり・はな)
愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けているミュージシャン。NHK「みんなのうた」への楽曲書き下ろしやフジロック等多くの夏フェス出演、初のホールワンマンライブの成功を経て、2019年5月にユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。
ちなみに歌っている時以外は、寝るか食べるか飲んでるか、らしい。
関取花オフィシャルサイト
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ソングライター水野良樹が主宰するHIROBAの公式noteです。 『考えること、つながること、つくること』 その3つを豊かに楽しむための広場=HIROBAをつくっていく試みです。 定期購読マガジン『HIROBA公式マガジン』のご購読もよろしくお願いします。

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