見出し画像

松井五郎さんにきく、歌のこと 3通目の手紙「なぜ、書くのか」 松井五郎→水野良樹

2020.05.25

作詞家の松井五郎さんに、水野良樹がきく「歌のこと」。
音楽をはじめた中学生の頃から松井五郎さんの作品に触れ、強い影響を受けてきた。
もちろん、今でも憧れの存在。
そんな松井五郎さんに、歌について毎回さまざまな問いを投げかけます。
往復書簡のかたちで、歌について考えていく、言葉のやりとり。
歌、そして言葉を愛するみなさんにお届けする連載です。

3通目の手紙「なぜ、書くのか」
松井五郎→水野良樹

水野良樹様

 晴れた日は夏の気配すら感じる空が広がっています。幾分涼しい風にほっとしますが、感染症も収まらないのに、猛暑や台風に対する備えもしておかねばなりませんね。緊急事態宣言の解除の声が聞こえてきても、かつての日常をとり戻す事は難しいのでしょう。そことは違う未来を構築して行かねばならないのだと覚悟をしています。その世界で歌はどんな価値を持つのでしょう?

 技巧的な話が多かったので精神的なテーマにと自分で振っておきながら、なぜ歌を書くか?と返ってきた問いに狼狽えています(笑)。どんな答えが自分に在るのか探るために、少しまわり道をさせてください。

 よくなぜ作詞家になったのかとか、どうやって作詞家になったのかと訊かれる事があります。そう訊かれて考えてみるのですが、作詞家になりたいと思った事も、作詞家を目指したという自覚も、実はないのです。

 以前もお話したかもしれませんが、若い頃は水野君のように、作曲もし、ギターも弾き、所謂シンガーソングライターの真似事をしていました。ただ、それはプロになりたいという明確な意志があったわけではありません。当時はまだ音楽業界はイコール芸能界でもあり、フォークブームではあったものの、それを仕事にするのは想像し難い時代でした。きちんとした音楽教育も受けていないし、現在のように誰もがライブハウスに出演できる時代でもなかったので、その未来は現実的ではなかったわけです。

 そんな時代でしたから、作詞家や作曲家になる方法は有名な先生に弟子入りしてなるものだと、そう信じ込んでいました。つまり、音楽は好きで演っていましたが、現在の人たちと違い、プロになるなんてただの妄想に近かったですね。時期がくれば、長い髪を切り、スーツを着て就職活動をはじめる。まさにユーミンの『「いちご白書」をもう一度』の世界です。

 それでも僕はどこか楽天家だったのでしょう。夢を見るモラトリアムが過ぎても、アルバイトをしながら音楽を続けていました。将来の不安はないわけではありませんでしたが、好きな事をしてる時だけは自由でいられたのだと思います。作曲もしていましたが、歌詞や詩の方をたくさん書きましたね。ノートは必ず持ち歩いて、狭い街の中をうろうろしながら、精神だけはウディ・ガスリーやボブ・ディランを気取っていたものです。

 そうこうしてる内に出逢った仲間とバンドを作り、コンテストに出るようになりました。ただ、まだその頃もプロになるためというより、演奏する場所が欲しいからという理由が先にありました。とはいえ、落選すると、やはり悔しさは残ります。コンテストで入賞して、広い会場でライブができたりレコーディングをしてもらえる人たちを身近で見るようになると目標は明確になりました。コンテストで入賞するためにはどうしたら良いか?その方法としてあったのが、ひとつは自分よりうまいボーカリスト、そしてもうひとつは優れたバンドメンバーだったわけです。長くなるので省略しますが、結局、具体的な目標ができるたびに、淘汰されていった僕の能力で、最後に残ったのが詞でした。

 しかし、必要とされたのが詞だったからといって作詞家になろうとしたわけではありません。そんなに簡単なものではないですよね。ただ、量は書いていたと思います。感じた事、目に入った物、聞こえた物をなんでも詞に書いていた、五感で捕らえた世界を言葉にする。そんな感じだったと思います。今見ればどれも稚拙ですが、その熱量はあったように見えます。なぜ、そんなに夢中になれたんでしょう?

 面白かった。

 そう、あっけないほど簡単です。なんの束縛も受けず、たった一枚の紙に自分の「世界」を記す事ができる。言葉は僕にとって自由であるための道具でした。そして、それはいつしか、よくある自分探しの道にもなり、そのために必要な他者とめぐり逢う磁力も与えてくれました。

 なぜこうなったのか?どうやってこうなれたのか?歩く前からわかっていた道ではありませんでした。ただわかっていたのは書く事が面白かった。それだけです。それはきっと今も変わらず、書く事は面白いし、作る事は楽しい。

 水野君のように-自分という存在を超えたい-と言うほど、明確な意志はないかもしれません。僕の想像と創作の根源にあるものは、もしかしたら遺伝子レベルの単なる快楽。

 水野君の問いに結びつけるとすれば、「書く」事に対して「なぜ」の答えはなく、「いつ」と「どう」そして、「どれだけ」「なにを」があるだけ。極端に言うと、生命の衝動のような感覚。現実には依頼があったり、思う事があって筆が動き出しますが、最初の一言を紙面に置いた時、そこに意識のようなものはあまり感じない。たぶんそこは水野君も同じではないですか?

 書くことは「目的」ではないということです。創作そのものは最早「手段」ですらなく。恐らく、その瞬間を離れ、分析をすれば、理由と言える事が見つかるかもしれませんが、今はまだ「なぜ」の答えになるものが僕には見当たらない。過去をふりかえってここまでの道筋を見ても、創作は、そうだな「快楽」が一番ぴったりくる。誰かが楽しんでくれたりとか、誰かの力になるようにとか、それは作品として形になった次の段階の目標値であって、書く時にそういった事は考えてないかもしれません。だから、たぶん続けてこられたと。

 仕事の話をすれば、作品を聴いて貰うための具体的なアイデアも口にします。それが生業としての戦略と捉えられるかもしれないけど、僕はいつもシンプルに考えています。書いた物がすべて。勿論、インフラなど器がしっかりしていて成功するのも事実ですが、中身が枯渇すれば、結局立ち行かなくなる。その中身とは僕にとっては詞です。依頼されて書く物だけでは実は追いついていない。1年後、10年後に聴かれるかもしれない作品も同時に書き続ける。いま必要とされる事に応えながら、いまない物を探す。それを続けるには、自分を楽しむ力、つまりシンプルに快楽が必要なんだと思います。

 ただ、自分の作品が結果を残したり、評価されたりすれば、それは嬉しいです。誰かに喜んでもらえる、それがなぜ書くかの答えになるのも事実ですね。でもそれも快楽だと言えますよね。

 さて、またひとつ聴いてみたい事があります。
 すべてを知っているわけではないので失礼になるかもしれませんが、作家水野良樹の作品は、他者に提供する作品と「いきものがかり」の作品に、水野良樹らしさがあると思います。それは良い意味で個性ですが、別の見方をすると、水野君の可能性を狭めているとも思えるのです。と言うのも、五木ひろしさんと坂本冬美さんの作品で、僕の詞先に水野君が付けてくれた曲があまりにそれまでの印象と違ったのに驚いたからです。

 ヒット曲はありがたい反面、イメージを決めつけられる怖れがあります。安全地帯がヒットした頃、安全地帯の作品のイメージの依頼が多くありました。自分で自分をコピーしなければならない感覚に苦しんだ時期があります。
「いきものがかり」の成功は、作家水野良樹の成果ではあるものの、もしかしたら作家としての呪縛になっていないか?ほんとうはもっと違ったタイプの曲を書きたいのに、「いきものがかり」のような曲を依頼される事はないのだろうか?「放牧宣言」をして見えた景色。それは作家水野良樹をどう変えたかに興味があります。

 時代が求める歌もあるでしょう。特に現在のような状況では、きっとそれは応援歌のようなものかもしれません。そういった歌が生まれる必然性と、作家としての動機。そこに距離はあまりないとしても、想像力はもっと自由にとも思います。水野君も僕も愛や感謝の歌をたくさん書いてきました。その上で、これから僕らが記すべき歌とはなんでしょう…


松井五郎

この続きをみるには

この続き: 0文字
この記事が含まれているマガジンを購読する
ソングライター水野良樹が主宰するHIROBAの公式マガジンです。2019年春からスタートした水野の個人メディアHIROBA(http://hiroba.tokyo)の記事の他、水野良樹の公式SNSとしても機能します。HIROBAや水野個人の活動に興味をもって、ご支援してくださる方は、ぜひご購読ください。

このnoteに掲載されるHIROBAの記事が全て読める公式マガジンです。このHIROBA公式noteでは約7割の記事はご購読せずとも、ご覧…

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
1
ソングライター水野良樹が主宰するHIROBAの公式noteです。 『考えること、つながること、つくること』 その3つを豊かに楽しむための広場=HIROBAをつくっていく試みです。 定期購読マガジン『HIROBA公式マガジン』のご購読もよろしくお願いします。

こちらでもピックアップされています

HIROBA公式マガジン
HIROBA公式マガジン
  • ¥800 / 月

このnoteに掲載されるHIROBAの記事が全て読める公式マガジンです。このHIROBA公式noteでは約7割の記事はご購読せずとも、ご覧いただけます(ですが一定期間を過ぎると試し読み区間を狭くします)。3割はクローズドな限定記事です。HIROBAの活動、水野良樹の活動に、より強い興味をもって頂けた方は、ぜひご購読ください。

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。