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「これは絶対いいぞ!」って思えるものに出会えるまで、書くね

HIROBA TALK 
水野良樹×高橋久美子

2019.04.22

いきものがかりのメンバーとして歌詞を書くこと。他者への楽曲提供で、グループから離れてひとりのソングライターとして歌詞を書くこと。そのふたつの違いについて考えたときに、話を聞いてみたいと思ったのが、高橋久美子さんでした。

同世代の作詞家としてチャットモンチー在籍時から交流があった高橋さんとは、2018年に大原櫻子さんのアルバム収録曲「夏のおいしいところだけ」で一緒に曲をつくらせてもらいました。そのときに感じた、彼女にしか書けない言葉の数々。

他者に届けること、そして自分の書いた言葉と自分自身の距離について、このHIROBAで、彼女と会話をしてみました。

やっぱりこの3人はそれぞれ意志を通していくんだ

水野 今日はHIROBA TALKにお越しいただき、ありがとうございます。

高橋 こちらこそ、ありがとうございます。

水野 HIROBAというのを始めたのね。いきものがかりは仲間たちとつくりあげていくもので、それはそれとしてあって。もう少し自分自身という個人に近いところで音楽をつくってみたいなとか、グループの外側にいる人たちに話を聞いてみたいなとか。そういうことがなかなかできなかったから。

高橋 ああ、そうよね。

水野 いろんな人と曲づくりをさせてもらったり、お話を聞いたりとかする場所が欲しいなと思って、それでこういう場を立ち上げて。

高橋 遊び場っぽいのね。

水野 そうそう。

高橋 公園というか、みんなが空き地で集まっているみたいな感じを思い出して。

水野 うん、そうそう、そんな感じ。「考えること」「つくること」をフランクに楽しむ場所というイメージなんだよね。

高橋 ああ、なるほどね。

水野 それで、今日は久美子ちゃんにお話を聞きたいなと思いまして。

高橋 ありがとうございます。HIROBAに呼んでくれて、うれしいです。

水野 こちらこそ出てくれて、ありがとうございます。いちばん最初の出会いはチャットモンチーのメンバーだった頃。

高橋 ああ、そうだったね。

水野 一回だけ、いきものがかりとチャットモンチーでみんなで一緒に食事に行ったじゃないですか。ちゃんと話をしたのはあれが最初だったよね。

高橋 そうそう、覚えてるよ。

水野 でも、それ以外は意外とつながりはなかったよね。

高橋 うん、フェスとかで何度か一緒になった記憶はあるけど、ジャンルがばっちり合うってわけでもないから、出るフェスも違っていたからね。

水野 僕らの印象としては、いきものがかりがデビューする1年くらい前に、チャットモンチーがデビューしていて。

高橋 そうね。ちょっとだけチャットのほうが先なのよね。

水野 同世代のチャットモンチーという新人がデビューして。音楽雑誌の表紙をいくつも飾ってるぞ!なんだよ、羨ましいな!って(笑)。

高橋 あ、そうか。そうだったっけ?

水野 うん。それが印象としてあって背中を追っているような感じだったんだよね。

高橋 本当!?

水野 そうそう。すげぇなって。まだそのときはうちらは地元にいたからさ。

高橋 私たちはタワーレコードとかに挨拶に行くときに、渋谷のスクランブル交差点のモニターに「SAKURA」を歌っているいきものがかりが映っているのを見て、「これ、誰や!?」って3人で話してて。

水野 ははは。そうなんだ。

高橋 Tシャツ着てたよね?

水野 着てた、着てた!あの頃は吉岡が必ず黄色のTシャツを着てたんだよ。

高橋 「Tシャツで歌っとるぞ〜」って言ったりね。

水野 ははは(笑)。最初はどんな印象でした?

高橋 なんか大学からポーンと飛び出してきたみたいな子たちだなって思ったよ。「つくられていない感じ」がしたんよね。

水野 ああ。

高橋 そういうところがチャットと少し似ているなと思ったよ。

水野 はいはい。

高橋 デビューの頃って、大人たちの関わり方とか不安もあるじゃない。

水野 うん。

高橋 そこが、すごくのびのびとやれているのかなと思ったんだよね。チャットもそうだったし。

水野 そうなんだ。チャットはのびのびとやってた?

高橋 やってたね。

水野 ああ、そう!

高橋 うん、わりとね。

水野 お互い3人組だったこともあって、ジャンルは違うけど意識していた部分があって。

高橋 うん、うん。

水野 一緒に食事をしたときに面白かったのは…思っていたよりも3人がとがってたんだよね。

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高橋 うわぁー。それ、みんなに言われるのよー!

水野 ははは。なんか、ごめん。もっと柔らかい感じかなと思っていたら、ちゃんと核を持っていて「私たちはこういうことがやりたい」とか、はっきり意見を持っていて。

高橋 ああ、そうね。

水野 むしろ、うちらのほうが、周りの意見に合わせてきたという意識も強かったから。

高橋 そうだ。そういう話、したね。

水野 そうそう。

高橋 そのとき、水野くんは「君たちは全員が楽器を持って、3人だけで音を鳴らしていることがすごくかっこいいと思っている」って言ってくれて。

水野 うん。

高橋 「自分たちも本当はもっととがりたいんだけど、とがれないんだよ」っていう話もしてくれて、意外だなって思ったんだよね。

水野 ええ。

高橋 そんなこと思ってるんだ、すごく楽しそうにやっているように見えるのにって。

水野 ははは。楽しいは楽しいんだけどね。あのときのチャットの3人のストイックさというか、「自分たちでつくってるんだ」っていうことへの自負というか。

高橋 あったね。それはものすごくあったね。大人の人と対立することがたくさんあって、でも、ほぼ自分たちの思うように進んできたというのは、やっぱり戦って納得のいくように話し合ってきた結果で。

水野 ああ、そうなんだね。

高橋 鵜呑みにして「分かりました」ということは、ほとんどなかったような気がする。戦って負けるようなことはあったけど。例えば、どっちの曲をシングルで出すか、とかね。

水野 はいはいはい。そういう話を聞いて「自分たちは自立できているかな」って気持ちが当時はすごくあったから、この3人はすごいなと。印象深く覚えているんだよね。

高橋 そうなんだね。

水野 そのあと、久美子ちゃんがチャットモンチーをやめることになって。

高橋 うん。

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水野 新しいことを始める、文章や言葉の世界に行くということを聞いて。それで残るメンバーも2人でチャットモンチーを続けると。「ああ、やっぱりこの3人はそれぞれに意志を通していくんだな」って。

高橋 ああ、そうね。

水野 ひとりで出ていくときの…もちろん残る方もなんだけど、覚悟が必要じゃない。

高橋 そうね。

水野 それぞれの道を、意志をもって選んでいく人たちのすごさを感じたんだよね。あれは久美子ちゃんが脱退する前の、なにかのイベントライブだったかな。3人では武道館で演奏するのが最後になるっていうステージを、いきものがかり全員で見に行ったんだよ。

高橋 えー!来てれくれてたんや。

水野 そのときの3人がすごく前向きに見えたの。久美子ちゃんは脱退するんだけれど、3人とも前向きで。それが印象深くて。

高橋 そうなんやね。

水野 そのときはまだ歌詞を書いてもらって一緒に曲をつくるとか、久美子ちゃんと関わっていくということは想像できていなかったんだけれど。そのあと、出版した本を送ってくれたりして。自分のほうもひとりの活動というのを考えていくようになっていったから。

高橋 うん、うん。

水野 それで何年越しかの告白みたいになっちゃって恥ずかしいんだけど、いつか一緒につくってみたいなと思っていたんだよね。

高橋 わー!

水野 だから今、何作かご一緒できて、素直にうれしいです。

高橋 いやいや、こちらこそ。

水野 本題に入るんだけど、文章の世界には最初から憧れがあったの?もともと自分のいる場所は文章の方だという思いだったのかな?

高橋 うーん、そうね。中学生のときから詞を書いていて、友だちもあまりいなくて、詞に助けられている部分もあって。

水野 ああ。

高橋 音楽の世界に入って「歌詞を書いてみる?」って言われて、「じゃあ、書く」となって。自分の書いた歌詞が曲になるっていうことがうれしかったし、楽しかったし。

水野 うん、うん。

高橋 ただ、3人でできることと、ひとりでできることって違っていてね。

水野 はいはい。

高橋 だんだん、ひとりの方の分量が大きくなっていったのかなって思う。というのと…ずっと全速力で走り続けるでしょ。

水野 そうだよね。

高橋 いきものがかりはパタって休止したじゃない。それはすごい選択だなと思ったんよね。

水野 ははは。

高橋 私はそういうふうにはできなくて、チャット自体も休むということができない人たちやから。走り続けて、私は「休むね」ではなく「やめるね」になったんよね。

水野 ああ、そういうことか。

高橋 やっぱり…疲れもあったとは思う。単純に。

水野 なるほどね。グループって難しくて、いつも同じ速度で全員が走れるわけじゃないというか。

高橋 そうね。

水野 ある瞬間はこの人が先頭を走って、またある瞬間は別の人が先頭を走って…って。時期によって違うじゃない?

高橋 そう!誰が引っ張るかによっても、変わったりするもんね。

水野 そのバランスっていうのはすごく難しい。

高橋 そうねぇ。休むことで変わることもきっとあると思うんだけど、そっちはどうだった?

水野 グループでいうと放牧して3人の距離感は変わったかな。戻ったというか。3人全員が全速力で走っているときってさ、お互いのことを引っ張る余裕がないんだよね。自分の持ち場をしっかり頑張ることに集中しちゃうというか。うちの場合は3人とも気を遣うタイプだから「とにかくメンバーに迷惑かけちゃいけない」みたいな緊張感がお互いにあって。

高橋 そうか、そうか。

水野 それがあんまり良くないなみたいなのはあったんだよね。でも、放牧を決めたことによって力が抜けて、高校生のときに戻っていくような感じというか。

高橋 ああ。

水野 高校生のときはリハが終わったら3人でラーメンを食べに行くとかさ。自然に会っていたのに、3人で会うことがなぜか特別なことになってしまっていたから。

高橋 うーん、そうかぁ。

水野 3人で会うとなったら、まわりが「大丈夫か!?」みたいな(笑)。なんか大事なことでも話し合うんじゃないかって。放牧中はそういった緊張感も軽減されて、家に遊びに来たりとか、「今、何してるの?」ってたわいもない話をしたりね。

高橋 そっか。それまでは3人で会うってことがなかったんやね。

水野 なかったね。

高橋 曲つくったりとかは3人でやるじゃない?

水野 いきものがかりの場合は特殊で、詞曲はひとりでつくるからさ。チャットの場合は3人で一緒にやるじゃない。

高橋 そっか。

水野 ソングライターとシンガーが一緒のグループにいるんだけれど、それぞれはひとりで完結しているというか。

高橋 なるほど。一曲完成させてから、みんなに渡すということ?

水野 そうそう。

高橋 それで、みんなから異論が出たりしないの?

水野 しないの!

高橋 しないのか!

水野 異論は出さないという文化なの。

高橋 うわー!

水野 お互いを尊重するから。

高橋 アレンジまでひとりで決めるの?

水野 アレンジの方向性は3人で相談するんだけれど、俺の歌詞とかメロディについて他のメンバーがダメ出しをするということは、ほぼゼロなんだよね。逆もない。山下にダメ出しとかしない。

高橋 ああ、それはチャットもないわ。歌詞とメロディに関しては。

水野 あっ、そうなの?

高橋 まったくない。

水野 でも、そこから先は3人でディスカッションしていくでしょ?

高橋 それは、そう。恐ろしいくらいにディスカッションしていくね。

水野 そうなると自分の手から離れていく感じで。

高橋 そうよね。曲もガラッと変わるよね、アレンジで。

水野 そうそうそう。そこは、バンドだもんね。うちは純粋なバンドって感じじゃなくて、ソングライターとシンガーっていう構図のほうが強いから。

高橋 ふーん。それが高校生のときみたいに集まって、終わったらご飯食べてってなったのね。

水野 そうだね。

高橋 めちゃくちゃ健康やね。

水野 ははは。健康なのかな。

高橋 健康でしょ、それは(笑)。

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「新しい扉を開いてもいいはず」と思って、少し冒険している感じ

水野 今はチャットモンチーの関係は、どうなの?

高橋 今は自然に遊ぶようになっているね。

水野 完結ライブにも出ていたじゃない。続けていった2人のもとに、久美子ちゃんが入っていって。すごくいい関係だなって思うよね。

高橋 でも、それまでは遊ぶとかもなかったし、覚悟をもって私も抜けているし、二人も同じくらいの覚悟で「じゃあね」って言っているから。

水野 それは、あえて。

高橋 うん、あえて会ったりすることもなくて。「最後のライブに出てほしい」という話の前に「歌詞を提供してほしい」という依頼があったのね。それは「作詞家として書くぞ」って思いでやったんよね。

水野 そうか。メンバーとしてではなく。

高橋 そう。作詞家としてね。私もちょうど本を出したときで、えっちゃん(橋本絵莉子)に解説を書いてもらったり、そういった相互交換ができるようになっていたんよね。

水野 ああ。

高橋 お互いそれぞれの道に進んで7年くらい経った頃かな。離れた位置でチャットのメンバーとしてではない関係でリスペクトし合えるようになったから。

水野 新たに作詞家として提供した歌詞と、チャットのメンバーのときに書いた歌詞で、何か違いはあった?それとも同じだった?

高橋 いや、全然違うね。

水野 ああ、違うんだ。外から見ている感じになるの?

高橋 そうね。外から見た感じになるね、やっぱり。前はもっと自分のことを言っている歌詞だったね。

水野 うーん。

高橋 90%くらいが自分だったからね、チャットのときは。

水野 そうなんだ。

高橋 でも今は、過去のチャットのこととか全部を俯瞰して見て書いている歌詞だったし、二人への感謝の気持ちだったり、尊敬の念だったり。そういうところから湧き出てきた歌詞だったなと思うから。

水野 うん。どっちの方が書きやすいんだろう?

高橋 うーん。他の人に提供するときはまた違うモチベーションがあって、普通は3日か4日くらいで書いていくんだけれど、チャットに最後に提供した歌詞は1カ月半くらいかかったね。

水野 ええー。まじか。

高橋 びっくりした。自分でも。何回も書いて、書き直して「いったいどんな気持ちで書けばいいんだろう?」「どの気持ちが正解なんだろう?」って。

水野 ああ。どの気持ちというのは、自分の言葉と自分の距離感みたいなことなのかな?メンバーとして書いていた頃は自分の要素がすごく多くあって、でも提供曲は自分とは違う歌う人がいて。そこに距離があるじゃない。

高橋 うん、あるよね。

水野 久美子ちゃんは、チャットモンチーであったけれど、でも今はチャットモンチーではない。その難しさなのかな。

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高橋 うん、そうだと思う。「これは誰に向けて書けばいいんだろう?」って思ったんよねえ。

水野 ああ。そういうことか。

高橋 最初はファンの人に向けて書くのが正解なんだと思って、そういう歌詞を書いていったんだけれど、ファンの人というよりは二人に向けて書いたものが正解なんじゃないかと思って、最後は二人に向けて書いたんよね。

水野 うん。

高橋 それは前面に出すわけではなくて、聴く人が聴けば分かるかなぐらいの感じでね。そういう塩梅を調整する技術みたいなものも作詞家になって身についたんだと思うんよね。

水野 そうか。

高橋 分かる人は、二人に向けて書いたラブレターと思うだろうし。分からない人も、それを自分のことと受け取るかもしれないし。どちらもいい。

水野 なるほどね。

高橋 でも、1カ月半かかるって、すごいなと。

水野 いや、すごいよね。それはどこで悩むの?細かいニュアンスとか?

高橋 やっぱりテーマよね。

水野 ああ、テーマなのか。なんか軸の置き所がはっきりしないみたいな感じなのかな。

高橋 そう。36歳になった今の自分を書いた方がいいのかなと思ったりね。

水野 ああ。

高橋 そういう自分の生活のなかのことだったり、社会に向けてだったり、いろいろ書いてはみたけれど、しっくりこなくて。

水野 それで、結果、二人へのメッセージというか。

高橋 そう、感謝の気持ちみたいなことだったかな。

水野 それは、すごく面白いね。ちょっと自分にもリンクするなと思うのは、いきものがかりで書いているときの自分が迷ったことと近いなというか。

高橋 ああ、そうなの?

水野 うちの場合は吉岡が歌うでしょ。俺は自分の書いた言葉を、自分では表現しない。他人が表現するということを頭に入れなきゃいけない。逆に吉岡は自分が書いていない、自分とつながっていない言葉を表現しなきゃいけないという。そういう難しさがあるんだよね。

高橋 性別も違うしね。

水野 そうそう。シンプルに恋の歌を書いても男女で違うしね。いきものがかりはお客さんに楽しんでもらいたいっていう気持ちが強かったから、そこからさらに「広く、広く」ってなっていって。どんなふうになるかって言うと、30代の女性が10代の女性の恋の歌を歌っているという状況も普通に生まれてくるんだよね。

高橋 うん、うん。

水野 自分たちと曲のテーマとの間の距離がすごく大きくなってしまって、これはどこを軸にして、どこを主語にして、歌を書けばいいんだろうって。「誰かのものになった方がいいから、いっそ主語みたいなものは消していこう」と考えたりしたこともあって。

高橋 ああ。

水野 そこで、すごく迷いがあって。どこに自分の立ち位置をとったらいいか分からなくなっていた感じなんだよね。まぁ、いまだにその迷いのなかにはいるんだけど。

高橋 合唱コンクールの曲もやってたやろ?あのときは20代後半?

注釈:「YELL」 2009年9月リリースのいきものがかりのシングル。NHK全国学校音楽コンクール中学校の部の課題曲として制作された。

水野 うん、20代後半だね、26歳くらいかな。

高橋 10歳くらい年下の子たちが歌うわけだもんね。

水野 そう。だけれど、世の中の人たちはいきものがかりの曲としても聴くわけだから。そういう矛盾というか、難しさを乗り越えていかなきゃいけないという悩みって、もしかしたら久美子ちゃんの話にも近いのかなと。

高橋 うん、あるよね。それはチャット以外でもあることだからね。

水野 ああ、そうか。

高橋 他の人の曲を書くというときに、その人には絶対になり得ないし、それは性別関係なく、自分は自分にしかなれないから、他の人が歌うときにどうやってそれを聴く人に届けるのか…。

水野 提供するときの歌詞には、どのくらい自分の要素が入っているの?

高橋 作詞家になったばかりの頃は、提供する相手のファンの人たちがどういう層なのかとかをしっかり調べて、そこに届けるという目的を明確にして書いていたんだけど、でも最近は「そのファンの一人一人の何を知っているんだろう、私は」って思うようになってね。

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水野 ああ、なるほどね。それは真面目だなぁ。

高橋 なんとなく、この歌い手さんのファンはこういう子たちかなって考えるんだけど、私はその歌い手さんの本質を見ているわけではないし、テレビで歌っているところしか知らなくて、少し話をするくらいでは何も分からなくて。

水野 はいはい。そりゃそうだ。

高橋 そうなったときに、「そのファンの人たちを、知らない世界に連れて行ってあげる方が、うれしいんじゃないかな」って思いはじめたのね。だからチャレンジするようになってきている。

水野 ああ。

高橋 「この子たちが知らないことを歌っても、きっといいはず」「新しい扉を開いてもいいはず」と思って、少し冒険をしている感じかな。

水野 自分が把握したイメージ像から離れていくというか。

高橋 うん。でも、わざと離しているというわけではないんよね。私ね、自分の感情が動いたときに思ったことをいつもメモするようにしていて、そういうノートがいっぱいあるのね。そこから「きっとこの子はこういうものを歌ったら面白いかな」って思うものを拾っていく感じかな。

水野 そうなんだ。

高橋 だから、(大原)櫻子ちゃんのときもね、水野くんからお話をもらって。そういうふうに書いていって。

水野 「夏のおいしいところだけ」って…出てこないなぁ、俺は。

注釈:「夏のおいしいところだけ」2018年6月にリリースされた大原櫻子の3rdアルバム「Enjoy」に収録された楽曲。高橋久美子作詞、水野良樹作曲。

高橋 ありがとう。

水野 やっぱりそこはすごいなって思ったよね。

高橋 いやいや。

水野 確実に久美子ちゃんのフィルターを通っているんだよね。

高橋 ああ、そうかもしれないね。

水野 そのアーティストに会ったときに、「この人にはこれが合うかもしれない」って久美子ちゃん自身が思うんだろうね。久美子ちゃんの実感がちゃんと加味されているというか。

高橋 そうじゃないと、やっぱり嘘っぽくなるというか…。

水野 ああ。

高橋 想像だけで書くのが、いちばん危険なことだと思っていて。

水野 難しいよね。

高橋 本当に自分の琴線に触れたりとか…。そういうのがないと。

水野 いやぁ、反省するわ(笑)。自分はいい加減だなぁ。

高橋 ははは。私の場合はリアリティがある言葉だったり、ちょっとでも自分が見たり体験したことを“混ぜる”ということなんよね。全部は無理でも混ぜていくということを最近はしているかな。

水野 “混ぜる”か。面白いなぁ。自分の体験談から言うと、外から見て分からなくても、自分が見るとその歌詞にどれだけ自分が入っているか、本当のことがどのあたりに混ざっているかって分かっちゃうものじゃない。その手応えも大事だよね。

高橋 うんうん。

水野 書いたものの手応えがそのまますんなり世の中に届くのか…すごく手応えがあるのに届かないこともあるじゃない。

高橋 ある!

水野 逆もあるじゃない。

高橋 それも、ある!

水野 ははは(笑)。

高橋 それは、歌い方にもよるし、曲が出来上がって「あ、こういう感じになったんだ」みたいにイメージと違うこともあるし。

水野 うん、うん。

高橋 「めちゃくちゃいいのが書けた!」と思っても、その子たちにはまだ早かったということもある。

水野 ああ、なるほどね。

高橋 「ああ、この子たちがあと5歳年をとっていたら!」みたいな。私が言わんとすることが、まだ歌いきれていないというか。まだどうしても若くて分からないんだなということはよくあって、そこは反省するね。

水野 そうか。

高橋 今はまだ、もうちょっと楽しい感じだけを歌っていればよかったんだなと。でもきっと年を重ねていったときに絶対にピタッとハマるときがくるから。今買った本が10年後に読んでみたらピタッとハマった!みたいなことになったらいいなって思っとる。水野くんはどう?そういうことある?

水野 手応えに関して言えば、手応えあるって自分で言ったやつは…だいたいダメなんだよね(笑)。

高橋 そうなんや。

水野 でも、手応えあったときとか、自分の熱いものを乗せられたなと思った曲が、スタジオとかで初めて他人に聴いてもらったときとかに「これ、いいですね」って言われると、それはすごくうれしい。

高橋 ああ、そうね。「この曲、好きです」ってね。

水野 そう。それが欲しくてやっているんだけど、なかなか…(笑)。

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「これは絶対いいぞ!」って思えるものに出会えるまで、書くね

高橋 意外と軽い感じで書いたものが、すごく届いたりすることもあるでしょ。

水野 そうなんだよね。「ありがとう」はまさにそうだから。

高橋 ああ!聴いた人たちが、ものすごく頭で考えて分かっていくというタイプの歌ではなくて、スーッと入っていく歌やもんね。

水野 自分でも「何も書いてないじゃん、これ」みたいに思って(笑)。今だから言えるけど、つくったときは平たい感じに見えたんだよね。なんにもないな、この歌って。なんにもない歌を俺はつくってしまったって、すごい自信がなくて。それが幸運にも届いて。

高橋 幸運なことは、いいことよ。

水野 俺の場合は思ってもいないかたちで、それがいい経験になったんだよ。「ああ、何もないからこそ、聴く人がそこに感情を乗せるのか!」ってことに気がついたんだよね。

高橋 そうか!なるほどね。余白をいっぱい置いているんだね。

水野 うん。そうそう。

高橋 あの曲は確かにそう!自分の風景が全部浮かぶね。

水野 そういうことだったみたい。それを経験して知ることができて。その気づき自体はとても良いことだったんだけれど、そこから「余白の方がいいんじゃないか」と考えて…たぶん、またズッコケちゃったんだよね。

高橋 ズッコケちゃった?

水野 本当はもっと書かなきゃいけないのに、書かない方がいいんじゃないかっていうね。バランスが大事なんだけれど、極端にやってしまうのね。

高橋 ああ。

水野 自分を前面に出したりとか、自分の熱いものをそこにプリントしない方がよい。構造だけというか、外枠の骨組みの部分だけを提供するほうがいいんじゃないか。そんなふうに思って、どんどん迷っていくという。

高橋 うーん。

水野 その迷いに入ったときに、自分自身の感情を歌のなかに書いている人だったり、久美子ちゃんのようなエッセイとか文章みたいな自分とは違うジャンルの言葉を書いている人だったり。俺とは逆で、自分という存在から言葉を紡いでいる人が、どんな考えで言葉を書いているのかを聞いてみたいなと。

高橋 ああ。

水野 そういうことに、今すごく興味があって。

高橋 いま水野君が構造って言ってたじゃない。作詞にもきっと構造みたいなものはあって、その感じにハマりすぎるとだんだんマシーンみたいになってくるというか。

水野 そうだよね。

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高橋 そうなったときに、だんだん詞が書けなくなった時期はあったかな。

水野 ああ、ちょっと技術に寄るというか。

高橋 そう、技術に寄った時期はちょっとあったね。でも、そうではなくて。いい歌詞というのはあとから決まるもので、グチャグチャなものだっていっぱいあるでしょ。

水野 はいはい。

高橋 けっこうバンドの方たちが書いているものってグチャグチャだけど、真心がこもっているから、それで「楽しい!」ってなるし。

水野 うん、よく分かる。

高橋 だから、それでいいんだって。そういう作詞家になってもいいんだって、私は思ってる。

水野 そうなんだ。

高橋 だから、「これは絶対いいぞ!」って思えるものに出会えるまで、書くね。

水野 書くんだ。

高橋 だから、前川(清)さんの歌詞も2つ書いちゃったのね(笑)。

※現在、水野と高橋は、それぞれ作曲家、作詞家としてタッグを組み前川清さんの楽曲を制作している。

水野 ははは(笑)。2つともよかった!

高橋 ありがとう!

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水野 今回は詞先でね。久美子ちゃんに歌詞を先に書いてもらって、それがびっくりしたんだけれど2篇もくれて。2つともよかったのに…。

高橋 修羅シュシュシュ(笑)。

水野 そう、修羅シュシュシュという、すごいワードが出てくるやつ。ひとつしか選べず…。本当だったら2曲つくったらよかったんだけど。

高橋 いやいや。水野くんだからこそ、あっちを選んだっていうのはあったよね。「水野くんなら分かってくれるかも!」思って。

水野 もうひとつもすごくよくて。まず最初にそれを見て「いい意味で、うまいな!」って思って。

高橋 うわぁ、ありがとう。

水野 作品として完璧だなって思って。でも、コメントが添えられていて「もし、よかったら、こっちもできちゃったから送るけど…」みたいな。そのコメントを読んだ瞬間に「あ、たぶんこっちなんだな」って。

高橋 そうなの!よく分かってる!

水野 俺たちみたいな人間がそう言うときって、本当はそっちに熱があって。

高橋 そうなんよ!

水野 絶対そうだよね(笑)

高橋 歌詞を旦那さんに見せたときに「これはヤバいでしょ!前川さんに修羅シュシュシュ言わせたらまずいでしょ!」って(笑)。

水野 ははは(笑)。

高橋 でも「どうしても水野くんに送ってみたい!」って言って。分かってくれて本当にうれしい。ありがとう。

水野 いや、素晴らしいなと思って。その怖がる感じもすごく分かって。

高橋 うん。

水野 「これを出していいんだろうか」とか、「(前川さんが)怒ってしまわれるんじゃないだろうか」とか。

高橋 そうそう。

水野 「これは、一緒に戦わなきゃ!」って思ったんだよね(笑)。俺も面白いと思ったし。理屈じゃなくてね。怒られるのどうのこうのより、いいものはこっちだからって。

高橋 そうなのよ。

水野 プラスの量が修羅シュシュシュの方が飛び出ているというか。

高橋 でも、マイナスの量も多くて。

水野 あはは。そうかな?

高橋 伸るか反るかの幅が大きいというか。でも、その幅が大きい方が面白いと、いつも思っちゃうんよね。

水野 それは絶対そうだよ。

高橋 それをやめてしまったら、私が書く意味がなくなっていくというか。

水野 ああ、なるほどね。

高橋 他の人でも書けるものになっていくから。

水野 2年前かな、作詞家の阿久悠さんを追う企画があって。そのとき秋元康さんに初めてお会いしたんだけど。

高橋 うん。

水野 「ヒット曲には勇気が必要だ」って。そうおっしゃっていて。

高橋 ああ、素晴らしい!

水野 秋元さんのその言葉が今、パッと浮かんだ。修羅シュシュシュって久美子ちゃんが一歩踏み込まないと書けない歌詞じゃない。

高橋 そう!

水野 覚悟というか勇気を出して踏み込んでいるからこそ生まれる熱さがあって。

高橋 うん。

水野 大サビのあたりで「適当に時代にふりまわされて 適当に…思い出すから」ってあるでしょ。“適当に”って言葉が使われているんだけど、あの距離感が前川さんらしいというか。

高橋 うん、うん。

水野 年配になっていろんな経験を重ねて、きれいごとだけじゃ世の中進まないということが分かってきて、100%頑張るだけが人生じゃないってことも分かってきて、その人が言う“適当に”ってものすごく深い愛情があるんだよね。

高橋 うん。

水野 重い現実への理解もあって。ちょっとしたユーモアもあって。すごくいいなと思ったんだよね。でも、それは踏み出さないと書けないというか。“適当”って捉え方によっては微妙な言葉だからね。勇気がないとそれは書けない。そこは届くんじゃないかなと。

高橋 そうやね。意外とそっちの方がみんなに届くんじゃないかなって思いもあって。同じ世代の人たちが思っているかもしれないしね。でも思っているけど言えないこともあるでしょ。

水野 あるよ。

高橋 なんとなく今って閉ざしちゃう風潮があるじゃない。

水野 はいはい。

高橋 だから、「前川さんが歌ってくれたらな」って思いはあったのよね。

水野 勇気は必要だよね。

高橋 そういうことよね。本当よね。

水野 うん。

高橋 秋元さんはいつもチャレンジされていて、リスクを背負った歌詞を出されているよね。ガツンとくるというか。

水野 ああ、確かに、そうかもしれない。若輩がこういう言い方をするのは正しいかは分からないけど、秋元さんっていちばん正当に評価されていない作詞家さんかなって思うんだよね。

高橋 えっ!評価されていない?

水野 まず、実績がすごすぎるじゃない。

高橋 そうよね。

水野 企画家としての実績がすごすぎて、そっちに目がいくじゃない。

高橋 ああ、確かにそうね。

水野 ビジネス的なことの成功も大きすぎる。だから世間にはそういう人だと見られていて。

高橋 そうか。。

水野 そこでのすごさはもちろんあると思うんだけど、「川の流れのように」を書いた人だし。

高橋 そうよ。30歳になったばかりの若さであれを書くっていうね。もう恐ろしいよね。

注釈:「川の流れのように」 1989年1月に発売された、美空ひばりの生前最後のシングル。秋元康作詞、見岳章作曲。

水野 本当にいちクリエイターとしてフラットに見られているかというと、どうしても企画やビジネスの部分も含めての実績だというように見られてしまうから。

高橋 器用になんでもできてしまうっていうイメージで見られちゃうよね、きっと。

水野 作り手としてすごいのは誰が見ても当たり前なんだけど。それが、かすむというか、そこにちゃんと視点を置かれないというか。

高橋 そうか。私たちは作詞家だから、秋元さんのことを「すごい!」って思うけど、一般的には「AKB48の仕掛け人」っていうイメージなのかな。

水野 うん、そういう時代の仕掛け人みたいなイメージの方が強いんだと思う。

高橋 作詞だけじゃないっていうのは、逆に信頼できるところだと思うんだけどね。

水野 どういうこと?

高橋 いつも何かを考えているからこそなんだろうなと。作詞はその一環なんだろうなって思うよね。

水野 ああ、なるほどね。作詞は総合力の結果だもんね。それは、本当にそうかもしれない。

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本当の気持ちを書くってことが大事だと思う。それに勝る詞はない

水野 他の作詞家さんのことは、意識するの?

高橋 前は意識して読んだりしていたし、もちろん今もしているけど、最近はあまりしなくなってきたかな。

水野 「より自分の作品に」っていう志向になっていったのかな。

高橋 うん、向いていっていると思う。人の作品を読むよりも、外を歩いて観察するね。

水野 ああ、そうなんだ。

高橋 人間観察をして「すごいなぁ」って思ったり。

水野 それはどういう作業なの?ネタを拾う作業なの?

高橋 そうそう。ネタを拾ってくる作業ね。

水野 俺はよく喫茶店に行くんだけれど、例えばそこで別れ話をしているカップルがいるとするじゃない。

高橋 うん。

水野 でも、そこでの会話をそのまま歌詞にするわけではないと思うんだよね。

高橋 そうね。

水野 自分がそれを歌詞にするときって、カップルを見て「男性の方が未練があるな」とか、そういう微妙な空気感を見るじゃない。

高橋 うん、見るよね。

水野 二人がすごく厳しい空気感で話をしている。女性の方は前を向こうとしていて、でも男性の方は未練がある。話してはいるんだけれど二人が見ている景色が全然ちがう。その二人を取り囲む喫茶店は二人の緊張感とは関係なく、すごく騒がしくて…みたいな。その空気感を拝借して、そこにしかない空気の切なさをネタにする感じなんだけど。

高橋 ああ。

水野 久美子ちゃんはどういうふうに要素を拾っていくのかなと思って。

高橋 ああ、要素か…。

水野 久美子ちゃんが本でも書いていたけど、帰り道の空の寒さや空気感で書けることもあるというか。

高橋 そうだね。

水野 それはどういうことなんだろう?

高橋 例えば、マンションの3階の排水管から水が流れる音とか…。「うわぁ、人間ってすごい!」って思う。

水野 そ、それは…水が流れている様子を見て「人間ってすごいな」って思うのは…。

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高橋 人間には孤独というものはないなって思うのよね。

水野 おお、そういうことか!

高橋 誰かの水があなたの隣を流れているんです。だから人間というのは孤独はないんだよっていう。

水野 はは、すごいな。それはどうやって詞に展開するの?

高橋 もうそこから、そのまま書いていって、余計なものをどんどん省いていくね。

水野 省いていくんだ。

高橋 歌詞全体をマンションの3階にしたらマズいじゃない(笑)。

水野 そうそう、どうするのかなって(笑)。

高橋 Aメロだけで使うとか、サビで使うのも面白いかも!って。

水野 そっか。でも、わりと詳細に言葉にしていくんだね。

高橋 そうね。一日にノートいっぱいになるくらい、いくらでも発見があって。

水野 それはすごいね。

高橋 面白いよ。

水野 それは能力だわ。

高橋 いやいや。でもボーッと歩くときもあってね。でもボーッと歩くときは何も見えないの。

水野 へー!

高橋 何も見えないんよ。パンはパンなんよ。

水野 パンはパンか。それは作詞をするうえではとても重い言葉だね。パンがパンじゃなくなる瞬間があるんだね。

高橋 何かが絡んでくるときが、あるのよね。

水野 それを書いちゃうんだね。

高橋 うん。

水野 俺の場合は「孤独じゃないんだ」と気づいたとするじゃない。それをそのままは書かずに、気づいたときに湧き上がった感情の色合いなのか、温度なのかが…。

高橋 かたちを変えるということ?

水野 そう。かたちを変えるね。

高橋 そうすると細かいディテールはなくなっていくということ?

水野 そうだね。ディテールは書かないし、書けないね。

高橋 でも、かたちを変えたら、全部同じようなかたちにならない?具現化されたものをどんどん抽象化していったら。

水野 ああ。でも違う気がするんだよね。

高橋 違うのかぁ!へぇ。

水野 説明が難しいんだけど…「ありがとう」を例にするとね。

高橋 うん。

水野 「ありがとう」を聴いて、みなさんが思い浮かべる印象ってそれぞれ違うと思うんだけど、例えば結婚式で新郎新婦がご両親に花束を渡して「ありがとう」って伝える気持ちと、長年連れ添った老夫婦がいて、おじいちゃんがおばあちゃんが亡くなるときに「本当にありがとうな」って伝える「ありがとう」があったとして。それは言葉にすると同じ5文字の「ありがとう」なんだけど、そこに入っている感情は全然違うじゃない。

高橋 ああ、そうよね。

水野 そのシチュエーションは聴く人によって全部違っていて。感情は水みたいなもので、定型物じゃないんだよね。つかみとれないもの。ゆらいでいるもの。100人いたら100通りの感情があって、それをかたちある言葉に無理やり当てこめているんだと思っているんだよね。

高橋 うん、うん。

水野 だから、排水管を見て何か気づきがあって、思い浮かべた感情は唯一無二のもので、そこをヒントに書いていくという方が自分は近いと思うんだよね。

高橋 いやぁ、なるほどね。

水野 同じようなシチュエーションでも相手が違えば、湧き上がる感情も違うし。

高橋 そうね。

水野 その、感情の種類をストックするというのはあるね。

高橋 感情の種類のストックかぁ。

水野 久美子ちゃんの場合は気づきがあったら、そこから言葉をどんどん出していくわけじゃない。

高橋 うん。

水野 その言葉を表現していく、デッサンしていくような。

高橋 そうね、デッサンね。そこから少しずつ拾っていくようなね。

水野 そうか。

高橋 感情は流動的でかたちが変わるっていう部分はすごく面白いね。確かにそうで。誰と向き合うかで全然違うもんね。

水野 そうなんだよね。

高橋 でも、それを書くのはすごく難しそう。

水野 抽象的になると同じところにたどり着くというのは、確かにあって、歌詞が似通ってきちゃうから、そこも難しいよね。

高橋 でも「ありがとう」を他の言葉に置き換えるかって考えたら、やっぱり「ありがとう」は「ありがとう」しかないよね。

水野 そうだよね。

高橋 作詞講座じゃないけど、若い子に自分の書いた詞を見てくださいって頼まれることもあるのね。

水野 うん。

高橋 そういう詞を見て、私も「好き」だったら「好き」って言ったらいいと思うし、うまく書かなくていいんよね。本当の気持ちを書くってことが大事だと思う。それに勝る詞はないと思っているんよね。

水野 それは芯を食っているよね。「好き」を言わないで「好き」を表現するのが作詞だろうって言う人もいるけれどさ。それは技術論としてはまさにそうなんだけれど。それ、表層だよなって。さっきの熱量の話と近いと思う。

高橋 そうなのよ。

水野 そこと向き合うことが大事だよね。

高橋 ブルーハーツなんかは「好きだ、好きだ」って同じことを言っても、一つ一つに魂がこもっているじゃない。

水野 うん、空々しくないよね。なんでだろね。

高橋 そう、それ!空々しくないんよね。身を削って「明日死んでもいいです」っていうような思いで「好き」と言っていることが伝わるというか。

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水野 ああ、難しいね。説明できない。

高橋 そう、難しいのよ。でも、詞を書くってことは、それくらいのことなんだって思う。

水野 反省するわ(笑)。

高橋 もちろん余白も大事だしね。私も余白に挑戦してみたいと思っているよ。水野くんに前に言ったでしょ。「電車の名前をハッキリと歌詞の中に書いているの、いいよね」って話をしたじゃない。

水野 ああ!

高橋 「これはスタッフに提案されて書いたんだけど、僕は余白があった方がいいと思うんだよね」って言ってたよね。

水野 そうだ、そうだ。

高橋 あのときから、余白についてはすごく考えていて…真面目だな、私(笑)。

水野 ははは(笑)。デビュー曲だ。

注釈:いきものがかりのデビュー曲「SAKURA」の歌詞に「小田急線の窓に 今年もさくらが映る」という一節がある。

高橋 「SAKURA」ね。

水野 あれも、気づきがあったね。小田急線って書くと東横線乗っている人も、京王線乗っている人も、みんな自分の使っている路線のことを考えるっていう、予想したのとは違う余白のかたちがあったという。

高橋 そうね。

水野 面白いよね。

高橋 本当にそうよね。

水野 最後になるけど、文章と作詞は全然違う?長さの違いってことだけなのかな?

高橋 やっぱり違うと思う。小説を書いて、編集者に見せると「高橋さん、これは歌詞だわ」って言われるの。

水野 ああ。

高橋 「高橋さんには感覚的には分かっても、みんなには説明をしっかりしないと分からないですよ」って。

水野 はいはい。

高橋 私は「説明したら、野暮ったいじゃないですか」って言うんだけど、「でも、小説ってそういうものだからね」って。だから、私は感覚的なものだったり、断片的なものをつなぎ合わせることが好きなんだなって思ったのよね。

水野 そうか。それはまた新しい気づきがあるよね。説明したり、描写を加えていくということを通して、詞にも転換されるだろうしね。

高橋 そうなんよね。

水野 より解像度が上がったりするのかな。

高橋 長い文章を書いているときに、作詞の依頼が来ると、めちゃくちゃうれしい!(笑)。

水野 ははは(笑)。

高橋 長い文章は放ったらかして、詞を書いて、すごくいいのができて、「ああ、うれしい!」って。そんな感じなん。やっぱり、全然違うものだと思う。

水野 これからもどんどん変わっていくんだろうね。

高橋 そうね。お互いにね。
詞を書いているときと曲をつくっているときはどっちが楽しい?

水野 うーん、曲かな…。

高橋 ああ、やっぱり音の人なんだね。

水野 かもしれないね。でも、文章は好きなんだよね。書くことはすごく好きで。

高橋 そうよね。連載もやっているしね。

水野 長い文章に対してはすごく憧れがあって。

高橋 小説なんかも?

水野 うん、書いてみたいなって思ってる。

高橋 この前、編集者と話したときに言ってたよ。「水野くんは文章が書けるよね」って。

水野 わ!間接的に褒められた(笑)。

高橋 「そうなんです、書けるんですよー!」って言っておいた(笑)。書いたらいいと思うな。

水野 ありがとう。お互いの言葉がいい意味で変わっていくといいよね。

高橋 そうね。

水野 それについても、またお話できたら、うれしいです。

高橋 本当そうね。

水野 そして、また一緒に曲がつくれたら。

高橋 そうよね!もっと攻めたり、実験的なことを水野くんに投げてもいいんだって思っとるよ。

水野 うん。もしよければ、HIROBAでも、ぜひ。

高橋 ぜひ!

水野 歌い手さんを決めないで曲をつくったりするのも面白いなと思っていて。HIROBAじゃないとできないような実験的なこともできたらね。

高橋 うん、楽しそう。やりたい!

水野 今日は本当にありがとうございました。

高橋 ありがとうございました。すごく面白かった!

(おわり)

高橋久美子(たかはし・くみこ)
1982年生まれ。作家・作詞家。
2004年、チャットモンチーにドラム、作詞家として加入。
2011年、チャットモンチーを脱退。以降、アーティストへの歌詞提供や、エッセイ集の出版など、精力的に活動。
2019年4月から、さまざまなアーティストの“歌詞”にスポットを当てる音楽番組「うたことば」(NHKラジオ第1/毎週日曜午後1:05)のMCを務めている。
高橋久美子オフィシャルサイト
高橋久美子Twitter

Photo/Kayoko Yamamoto
Text/Go Tatsuwa
Hair & Make/Yumiko Sano
Styling/Miwa Nakayama

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ソングライター水野良樹が主宰するHIROBAの公式noteです。 『考えること、つながること、つくること』 その3つを豊かに楽しむための広場=HIROBAをつくっていく試みです。 定期購読マガジン『HIROBA公式マガジン』のご購読もよろしくお願いします。
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