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Good Night

唐突に思い出す、8年前のこと。

いや、唐突ではないのかもしれませんね。それこそ、今日みたいな夜は。

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8年前のロンドンオリンピック。
最初に見た競技は柔道だったかな。たしか、柔道だったと思います。
1試合、1試合、会場で見ているとわりと淡々と試合が進んでいくんです。
他国代表の、名前も顔も知らない選手の試合だと、さすがに座席につくなり、すぐに気持ちを高めて試合を観れるかというとそうでもなくて、「日本人選手が出てくるのはいつなんだろう?」とか「売店はひとが並んでて飲み物買えないかな」とか、けっこうどうでもいいことを考えながら、それこそ神宮球場かどこかで、盛り上がるちょっと手前ぐらいの野球の試合を、ぼーっと眺めているくらいのテンションで、競技をみつめている。でも、ある瞬間に、急に、ふと気がつく。

勝敗が決したとき、会場の一角が必ずワッと湧く。
その選手の母国の応援団の方々が、歓声をあげる。それ以外の観客たちは、あまり変わらないのだけど、そこだけがパッと花火があがるみたいに。

試合が終わるたびに、会場のどこかで花火が咲く。
さっきはあちら、今度はこちら。みたいな感じで。
そりゃ、そうですよね。僕らだって日本人選手が勝利すると、両手をあげて、ちょっと大きな声を出して、喜んだりする。

勝利した選手が、そんな花火が咲いた観客席に駆けていく。泣きながら。
母国の国旗を肩にかけたりして。受け止める観客も泣いていたりする。

この選手。母国に帰ったら、英雄なんだろうな。

あ、これ、今、ひとの人生が変わっていく瞬間なんだ。

そう気づいたときから、淡々と進んでいるように見えた試合が、とても荘厳なものに見えて。言い方が正しいかわからないけれど、少し”こわさ”を覚えたりして。
畏怖という言葉のほうがいいかもしれません。
とんでもないものを見ているのかもなと。

毎試合、毎試合、次から次へと、誰かの人生が変わっていく。
人生が変わっていく瞬間が、メドレーのように。パレードのように。

「誰かの人生」というものは、エンタメの本質のひとつなのかもしれません。
あのときオリンピックで、何に熱狂したかといえば。
「誰かの人生」を見て、熱狂していました。

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少し話が飛躍するけれど、「誰かの人生」を見て熱狂するはずだったオリンピックが遠のいていって、きびしい春だけが、今、ここに残っています。

そのきびしさも自分から”遠い”ものだったら、もう少し違ったのかもしれません。だけど、この春に起こっていることは誰にとっても”遠さ”を与えてくれません。

今までも、日常を揺るがすようないくつもの災害や事件…つまり悲劇は起きてきました。だけど、その多くはどんなに大きなものでも、いくらかの“遠さ”を持ってそこに存在している悲劇でした。同時代に生きていても、たとえその悲劇にいくら手を伸ばし、関わろうとしても、ほんとうの当事者でないかぎり、必然的に、それらは「誰かの」悲劇であったように思います。計り知れない悲しみは共感なんてできなくて、できると思うのなら、それはおそらく傲慢といっていいものでしょう。

この春に起きていることは否応なく、ひとりひとりを当事者にさせてしまいます。物語の主人公にさせてしてしまいます。玄関のドアを開け、ひとたび足を一歩進めてしまえば、その瞬間に、僕らは何らかの不安を風のなかに感じ取ってしまう。

この悲劇は誰にとっても、「自分の人生」につながっています。直接に。

そこに”遠さ”はない。
すべては、僕の、あなたの、こと。

「誰かの人生」をみて熱狂するはずだった夏はもう来なくて、僕らはひとりひとり「自分の人生」をどうするのか、考えていかなくてはならないようです。

この、きびしい春のなかで。

難しいことです。ほんとうに。


でも、希望のようなことを軽々しく言うつもりはないんですけれど。
”みんな”という言葉で表せるぐらい多くのひとが「自分の人生」を守っていって、その先において、いつかこの厳しさを通り越して、乗り越えて、晴れ晴れとした夏をむかえることができたなら、それは本来の意味で”ひとりひとりがつくりだした”未来、なんじゃないでしょうか。誰かが用意したレトリックではなく、本当の意味で。

「誰かの人生」に熱狂する未来も素敵ですけれど、
「自分の人生」を祝福できる未来もとても素敵なはずです。

予防して、気をつけて、僕も日々を送りたいと思います。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
どうか、ご自愛ください。


水野良樹





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