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関取花 連載第22回 ニュルニュルでモヤモヤ

私は単純な人間なので、天気によってその日の気分が如実に変わる。晴れれば嬉しいし、曇りだとどうも冴えない。雨なんてもうそれだけでだめだ。ベッドから立ち上がるのさえ嫌になる。つまり梅雨は地獄の季節というわけだ。

例年だったら軽く飲みにでも行ってストレス発散するのだが、今は世の中の状況的にまだ気が引ける。毎日モヤモヤは溜まっていく一方で、何をしてもやる気が出ない。だからここ最近はYouTubeで猫の動画ばかり見ていた。はじめのうちはそれだけでなんとなく満たされた気分になれたのだが、やはり徐々に物足りなさを感じるようになっていった。

猫の動画はたしかに癒やされる。でも、晴れた日に何kmも歩いて汗を流したり、シーツ類を洗って思い切り干せた時のあの爽快感が圧倒的に足りない。そう、私が今求めているのはほっこりではなくスッキリなのだと気付いたのだ。それから私は、スッキリできそうな動画をYouTubeで探し始めた。

そして見つけたのが、『角栓を除去する動画』である。角栓をピンセットで除去していくだけの動画なのだが、気持ちよく抜けた時の爽快感がなんともたまらないのだ。

イラスト一枚め

もちろん決して美しい映像ではないので、苦手な方は見ないことをお勧めする。私も初めはそうだったのだが、30秒もすると不思議と慣れてきて、「あの右端の角栓取ってくれないかな」とか、「おいおい根元までちゃんと抜こうぜ、諦めたらそこで試合終了だぞ」とかいろんな感情が湧き上がってくるのだ。たかが角栓、されど角栓。コメント欄を見てみると、他の視聴者さんもそれぞれ様々な感想を抱いているようだった。

「〇分○秒、×分×秒、私のお気に入り」
「こんだけ抜くと角栓抜いた後体重減ってそう」
「この人、この日のために気になる角栓を抜かないよう頑張って我慢したんだろうな」
「マンネリ化を避けるために終盤からピンセットを押し当てて抜く方法にシフトしていく所にエンターテインメント性を感じる」

などなど秀逸なコメントがたくさんあって、言われてみればといちいち確認しているうちに、気付けば私は30分以上もこの動画を眺めていた。関連動画も入れたら1時間近く角栓に関する動画を見ていたと思う。その間、集中しすぎてマネージャーさんからかかってきた電話を一度無視した。日頃お世話になりまくっている人からの電話よりも、顔も知らない誰かの角栓を優先した私。完全に人として終わっている。穴があったら入りたい。なんなら毛穴でもいい。角栓だけに。やかましいわ。そしてふと我に返った時、こう思った。「自分、何やってんだろう」と。

イラスト2枚め

急激に襲ってきたその虚無感は、動画を見ながら感じていた爽快感をはるかに上回るものだった。この時間で他に何ができただろうか。晩ご飯の準備は確実にできたはずだ。掃除だってできたはずだ。なぜあんなものに夢中になっていたのだろうか。最終的には変な自己嫌悪に陥って、スッキリするどころか余計にモヤモヤしてしまった。やはり梅雨は何をしてもだめである。

関取花アー写1912小

関取花(せきとり・はな)
愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けているミュージシャン。NHK「みんなのうた」への楽曲書き下ろしやフジロック等多くの夏フェス出演、初のホールワンマンライブの成功を経て、2019年5月にユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。
ちなみに歌っている時以外は、寝るか食べるか飲んでるか、らしい。
関取花オフィシャルサイト
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ソングライター水野良樹が主宰するHIROBAの公式noteです。 『考えること、つながること、つくること』 その3つを豊かに楽しむための広場=HIROBAをつくっていく試みです。 定期購読マガジン『HIROBA公式マガジン』のご購読もよろしくお願いします。

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