「TOKYO NIGHT PARK」 長谷川白紙さん対談 HIROBA編集版 前編
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「TOKYO NIGHT PARK」 長谷川白紙さん対談 HIROBA編集版 前編

シンガーソングライターの長谷川白紙さんを迎えた
J-WAVE「TOKYO NIGHT PARK」の対談。
長谷川さんの作品に息づく“混沌”が、混沌のまま成立しているのはなぜなのか?
その背景についてじっくりと伺いしました。
頭をフル回転してオーバーヒート寸前の内容を
前後編のHIROBA編集版としてお届けします。

【前編】ポップスとして成立させるために必要な軸
水野 長谷川さんとお話しするのは今回が初めてになりますね。よろしくお願いします。

長谷川 ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします。

水野 長谷川さんご自身の言葉を聞くことができる機会はあまり多くないイメージがあります。

長谷川 そうかもしれないですね。

水野 貴重な機会をいただき、うれしいです。

長谷川 ありがとうございます。

水野 ちょっと緊張してしまいまして(笑)。

長谷川 (笑)

水野 長谷川白紙さんは2016年にSoundCloudに作品を公開してネットを中心に話題を集め、10代最後となる2018年には初CD作品「草木萌動」をリリースされました。

長谷川さんのサウンドに惹かれている方も大勢いると思いますが、そんな中で2020年5月に弾き語りカバー集「夢の骨が襲いかかる!」をリリース。現在は音大で学びながらソロアーティストとして活動されています。

長谷川 はい。

水野 今、弾き語りというサウンドを削ぎ落としたスタイルの作品をつくるのはどういった理由からだったのでしょう?

長谷川 単純に歌うのが楽しくなってきたというか。

水野 ああ、そうなんですね。

長谷川 自分で歌うことで、音色をコントロールするバリエーションが以前よりも増えてきて、それが楽しいですね。

水野 なるほど。「草木萌動」やその他の作品を聴いて、歌が中心の一元的な作品というよりは、全ての要素がそれぞれ多元的に存在しているようなサウンドだと思いました。「歌がなくても成立する音楽もつくれる方なんじゃないか」と思ったりもして。ご自身の歌声にこだわるのはどういう理由なのかなと。

長谷川 自分が歌うことで(作品を)ポップスとして成立させようとしている大きな理由は、ポップスという形態が最も多くの要素を無節操につなぐことができると思っているからです。

水野 はい。

長谷川 自分で歌うということが私にとって一番強力な接着剤のようなもので、どれだけ変なことをしていても自分で歌っていれば、それを構造化できるという意識があります。

水野 構造化したいという気持ちはどこからくるものでしょう。

長谷川 私が今使った構造化という言葉は、様式や形式のつじつまを合わせるというニュアンスが近いですね。                        世の中には脈絡が全くなく散らかっていく音楽もたくさんあると思います。そういう音楽を聴いているとすごく楽しいですが、逆に多様性を認識できない瞬間が訪れてしまうんですよ。

水野 なるほど。

長谷川 筋が通っていないと「いろいろある」ということが認識できないんですよね。個人的には「いろんなものがそのままある」とか「どちらでもなかったり、どちらでもあったり」という状況が好きなので、それをパッと全部認識する、つまり、より精度を高く混沌というものを実現するためには、共通のテーマというか、何かを通す軸が必要だと思っています。

水野 基準というか軸というか。

長谷川 そうですね。それが私にとっては歌だったと。

水野 僕は音楽理論的なことは疎くて全然わからないですけど、「この混沌が成立しているのはなぜだろう」と思ったんですよね。サウンドが混沌としていて複雑すぎて、生身で受けたら情報量を処理できないなと思って聴いていました。

長谷川 はい。

水野 ただ長谷川さんの作品が他と違うのは、そこに統一性があることで「この混沌を混沌のまま成立させているものはなんだろう」と思ったんです。それが長谷川さんの作品のすごさなのかなと、わからないなりに感じたんです。ご自身の歌がキーポイントになっているということなんですね。

長谷川 そうですね。とっても重要なポイントだと思います。


水野 もともと音楽に興味をもったきっかけはなんだったんですか?

長谷川 記憶があるのはだいぶ遅くなってからで。

水野 はい。

長谷川 中学1年生の冬くらいからなんです。

水野 けっこう遅いですね(笑)。

長谷川 そうなんですよ。なので、まだ10年も記憶がなくて…。幼少期からピアノを習っていたと親から聞かされましたが、中学1年生の時点で音楽はけっこう好きでした。

ただ、何か明確にひとつのポイントがあって音楽に興味を持ったという経験は実はなくて。グラデーションでここまで来ている感じですね。

水野 幼少期からピアノを習って、記憶がある前から音楽に触れていて、音楽自体が長谷川さんのアイデンティティーをつくっていったという感じですか?

長谷川 そうですね、私がやっていることなので私にフィードバックされないわけがないというか。音楽が私のアイデンティティーを形成している部分ももちろんあるとは思います。

水野 最初に自分の作品を他の人に聴かせたのはいつくらいでしたか?

長谷川 小学生のときにピアノで適当に弾いた曲を自分の曲だと言って、両親や祖母に聴かせていたみたいですね。

水野 音楽を始めるときって、だいたいは動機が不純というか。路上ライブをするにも「女の子にモテたいから」「こんなミュージシャンになりたいから」とか、目的がなんとなくある。その目的はそのうちどうでもよくなるんですが、成果物を得たいがために音楽を始めたという人が多いと思います。

長谷川 なるほど。

水野 長谷川さんの場合は、ご自身の中に内包されているものというか。

長谷川 そうですね、とても。自分の生命を回すサイクルの中に音楽が入っちゃっている状態というか。

水野 ああ、すごいですね。それは苦しくないですか?

長谷川 めちゃくちゃ苦しいですね。本当に苦しいです。「この曲を書き終わったら、もう一生曲を書かない」と毎回思っているのにやめられないので…矛盾しているんですよね。

水野 (笑)やめられないのは、つくりたくなっちゃうからですか?気づいたら鍵盤に触れているというか。

長谷川 いろいろですね。「もうやだ、何があっても絶対に1カ月は休む!」と自分で決めて休んでいても、誰かの新譜を聴いてみて「あ、これいいな!どうなってるんだろう?」と思って、気づいたら書き出しているみたいなこともたくさんあって(笑)。

水野 なるほど(笑)。

長谷川 しっかり矛盾してるんですよね。なんなんでしょう(笑)。

水野 曲をつくりながら「これを書いたら終わりにしよう」と思って苦しんでいると。でもその最中にも自分の価値基準があると思うんですね。完成する。つまり終わりにするためには「終わった」となるために何かの基準があるはずで。作品は音源にした段階で一瞬ピリオドを打つじゃないですか。

長谷川 そうですね。

水野 ピリオドを打つということは、自分の中で何かしらの基準を超えたり、何かの判断があってのことだと思います。

長谷川 はい。

水野 今度はその曲を発信すると、聴く人の判断が入ってくる。自分が下した価値判断とは別のものが。そこで、いい、悪いといった評価みたいなものが聞こえてくると思いますが、そういった評価や反応というものは、ご自身の中でどのように処理していますか?ポジティブなものになりますか?

長谷川 「この曲よくないね」って言われて最初の3日くらい泣きながら寝込むんですけど(笑)、そのあとに「でも、確かにそういう見方もできるな」と思えるところがあって。全部を情報として取り入れるわけではないですけど、すごく信頼している方々の意見は参考にすることもあります。

ただ、どんなエンタメもそうですが、観賞している人を度外視することは原理的にできないと思っていて。そういう意味で反応がもらえるとうれしいですけど、「反応をもらいたい!」と思ってやることは少ないですね。「参考になる」と「うれしい」というステータスは自分の中では別のものですね。

水野 どのくらい他者がいるのかというのも気になるところです。言い方は悪いですが、曲をつくるときに、僕は商業的なほうにすごく寄っているんですよね。気軽に手に取ってもらいたいからこそ、他者の立場に寄ってつくりたいと。

長谷川 はい。

水野 一方で他者がいなくても存在する音楽があるのかなって思ったりもします。他者を意識せず、自分の中にあるものをただ表現することで完成するものというか。例えば、作品を外に出さない、発表しないということだとしたら作品は変わってきますか?

長谷川 そうですね。実は「エアにに」とか、「夢の骨が襲いかかる!」を出すときも、表に出ている作品の2倍か3倍くらいは出していない曲があって。

水野 はいはい。

長谷川 スタッフに聴かせることすらしない。

水野 なるほど。

長谷川 大学でやっている作曲は、主に譜面で作曲していくものです。つまり、実際には音を出さないほうが多いようなことをやっている。

水野 はい。

長谷川 そう考えると、むしろ人に見せていない曲のほうが多いんじゃないかと思うくらいです。

水野 ああ、そうか。

長谷川 大学で書いている曲を聴いたら、みんな逃げ出しちゃうんじゃないかと。

水野 (笑)逃げ出すというのは、どういう意味ですか?

長谷川 全ての人が嫌悪感を示すんじゃないかというか。

水野 へぇ!不協和音の連続みたいなことですか?

長谷川 その進化系のような。

水野 そうなんですね。

長谷川 不協和音が連続していることは長谷川白紙名義の曲でもけっこうあります(笑)。

水野 聴いてみたいと思っちゃいますね。ファンの方々は聴きたいんじゃないですか。

長谷川 困りますね、それは(笑)。

水野 聴かせたくないという気持ちがあるんでしょうか。見せたくないものを見せるような感覚というか。

長谷川 それとはちょっと違うかもしれないですね。長谷川白紙として曲を出すときは、ポップスとして混沌を成立させなければいけないという、なんていうか「これは長谷川白紙の曲として世に出していいもの」とラベルを貼っているというか。認可済みラベルを貼れる曲じゃないと、出すべきではないと思っています。もちろん私だけじゃなく、制作スタッフの判断も重要ですし、聴いた方の反応も取り入れなければいけないですけどね。

水野 はい。

長谷川 なので、私が長谷川白紙として活動して出す曲の基準とは違うものという感覚で、絶対に見せたくないという感情はないですね。

水野 「長谷川白紙」さんの奥に作り手がいて、その人のフィールドは例えば大きな楕円だとして、その中のある一部分が「長谷川白紙」というカテゴリーというか社会への接続点として存在していると。

長谷川 そうですね。

水野 面白いですね。「長谷川白紙」をやろうとした理由はなんでしょうね?

長谷川 うーん。

水野 全部、自分でもいいわけじゃないですか。でも、わざわざ「長谷川白紙」というカテゴリーをつくったのか。

長谷川 ああ、そうですよね。

水野 ポップスとしてのカテゴリーを自分の中につくり出す理由はなんだろうなと。

長谷川 「形式を限定したほうが、むしろ発展性が強くなる」という私の根本的な思想があります。

水野 ああ、面白いですね。

長谷川 それと長谷川白紙として始めるときに、単純にポップスとして混沌を達成していくことをまだ誰もやっていないんじゃないかと思ったんですよね。

水野 なるほど。いやぁ、大変な作業ですね。

長谷川 そんなに厳密ではないので、楽しいですよ。

水野 (笑)楽しいと苦しいも混沌になってるのかな。

(つづきます)


長谷川白紙(はせがわ はくし)
シンガーソングライター。
2016年にSoundCloudをはじめとする
ネットシーンを中心に音楽活動を開始し、
2018年にミニアルバム「草木萌動」でCDデビュー。
2020年5月に最新作となるカバーアルバム
「夢の⾻が襲いかかる!」をデジタル先行リリース。
独自の世界観にあふれたサウンドで
国内外から大きな注目を集めている。

Text/Go Tatsuwa

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