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【後編】音楽文化と社会の結びつき

「TOKYO NIGHT PARK」柴那典さん対談 HIROBA編集版

水野 話題が変わりますが、柴さんはなぜ音楽ジャーナリストの道に進んだんですか?こういうことを聞く機会はなかったのですが。

 あくまで僕の定義ですが、音楽ライターの仕事と音楽ジャーナリストの仕事を分けて考えているところがあります。

水野 なるほど。

 音楽ライターになったのは間違いなく雑誌「ロッキング・オン」に就職したのがきっかけです。アーティストが新作に込めた思いなどを取材したりライブをレポートする。つまりアーティストの表現ありきで、それを題材にいろいろなことを語っていくのが音楽ライター。

水野 はい。

 僕が音楽ジャーナリストと言い始めたのは2010年くらいからです。音楽業界、音楽カルチャー、音楽シーンのようなものが社会の中でどのように扱われているか、社会にどんな影響を与えているのかを取材して発信していく。まさに「ヒットの崩壊」を書くうえでの最初のポイントでもあります。そこに関して問題意識を持ち始めたのが最初ですね。

水野 問題意識を持ち始めたきっかけは何だったんですか?

 2000年代なかばにCDが売れなくなっていき、まさにいきものがかりがデビューした少しあとの2007年頃は「音楽で誰も食べていけなくなる」くらいのことすら言われていた。でも、僕はそういう風潮に抵抗があったんです。

水野 はい。

 やり方はいくらでもあるし、CDが売れなくなるだけで音楽自体は力を失わないという気持ちがあった。でも、業界という切り口で見ると縮小していくと誰もが言っている。そこに違和感を覚えていたときにボカロを知って。

ネットですごく楽しそうに新しい音楽を発表して盛り上がって、ファンが増えていっている。実際にコミケで並んでCDを買っている。そういった現場を見て、業界とかCDとかというものを超えて、ここにある熱気をルポルタージュしたいと思った。それがきっかけですね。

水野 柴さんは「初音ミクはなぜ世界を変えたのか?」という著書も出されています。

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http://www.ohtabooks.com/publish/2014/04/03182656.html

音楽業界のムーブメントをその中だけではなく社会状況の中で捉える。僕も「ヒットの崩壊」のインタビューの中で、「ヒットするかというよりも、社会に対してどう影響を与えるかが大事」といったことをお話しました。CDの売上枚数という指標よりも、一般社会と音楽文化がどのように結びついているか、価値観を変容させるような影響力を保てるかがすごく大事だと思っていて。柴さんは、ひとつのエンタメジャンルの中だけでなく社会からどう見られているかに興味を持たれたということなんでしょうか。

 まさにその通りです。「ヒットの崩壊」で水野さんがスタジアムの話をされたことを僕もすごく覚えています。

水野 (笑)

 音楽業界にいると東京ドームでライブできることがひとつのゴールになるし、実際それがビッグアーティストの証しだと思っていた。でも、東京ドームを出たら水道橋の駅前には何万人の人たちが歩いている。水野さんは、その人たちに対してどうやって届けるかを考えなければいけないと考えていた。「そうだよな、確かに!」と思いましたね。

東京ドームって、野球でいえばジャイアンツは年間60日以上もドーム公演をやっているようなものですからね。

水野 そうですよ。とんでもないビッグアーティストですよ!

 サッカーだってそうですよね。スタジアムを数万人のサポーターが埋めるわけですから。

水野 その通りです。

 音楽以外のいろんなエンタメ、いろんなメディアの中での音楽という視点で考えると逆にポジティブになったんですよ。CDが売れないことはすごくちっぽけなことだと。

水野 そうですよね。

昔はよくテレビでプロ野球を見ましたが、地上波のプロ野球放送の何がスゴいって、ルール説明をしないじゃないですか。野球って知らない人からするとルールがややこしいのに。解説者がピッチャーの球種について話していて、見ている人たちも普通に理解している。それって、とてつもないことですよ。

 ミュージシャンに当てはめるなら「このベーシストのスラップがね」みたいな話ですもんね。

水野 (笑)音楽専門誌のすごくコアなファンの方々が読むような話を地上波で一般の人たちが見ている中で話されている。

音楽もそういった可能性を持っていたし、今もあると思っています。柴さんのような方が社会に対して音楽がどうあるのかを解説、分析し、また提案してくれることによって、社会と音楽がすごく強く結びつく道により近づいていくのかなと思います。

 そうですね。いろんなエンタメの中での音楽と位置づけると、間違いなく言えるのは音楽って早いんですよ、何よりも。特に配信の時代になってからはTwitterの次に早いと思っています。

水野 なるほど(笑)。

柴 映画もドラマも、脚本を書いて撮影して編集してと、ものすごく時間がかかる。コロナの状況下でいろんなミュージシャンがリモートで新曲をつくりましたよね。

水野 そうですね。

 これができるのが音楽の早さ。早いことは良し悪しあると思いますが、良いことでいうと社会の変化を一番ビビッドに反映することができる。

水野 星野源さんの「うちで踊ろう」もそうでしたが、呼応するスピードもものすごく早い。そこの壁が低くなってきている感覚があります。次々と作品が生まれていった状況が如実に物語っていますよね。

柴 アイデアを思いついたときに、いちばん簡単に乗せることができるフォーマットですよね。星野源さんの「うちで踊ろう」はまさにそう。曲があったからこそ、みんなが踊りを乗せたり、セッションすることができた。

水野 そうですね。

 あれが30分のドラマであれば、みんなが乗っかることは難しいでしょう。短い曲のフォーマットだからこそ、アイデアをそのまま、しかも高い鮮度でパッケージできているんだと思います。

水野 いやぁ、面白いですね。

ここでリスナーからのメールをご紹介します。


ラジオネーム ハナナスさん
「以前から翻訳に興味があり、音楽を聴くのも大好きなのですが、もし好きな曲の歌詞を訳せたら海外のファンの方にも楽しんでいただけるのではないかと最近考えています。しかし歌詞を翻訳してSNS上などに公開した場合、著作権侵害などアーティストの方にご迷惑が発生するのでは、という懸念もあります。専門の機関に問い合わせるべきことかとは思いますが、まずはアーティストの方はこうした活動をどのように感じていらっしゃるのかご意見を伺いできたら幸いです」


水野 なるほど、真面目な方ですね。

 難しいですね。アーティストの方はどのように感じていらっしゃるのでしょう。

水野 権利的なことに関しては軽々しくは話せないですが、素直な感想としてはすごくうれしい。この「二次創作」ということも柴さんと初めてお会いしたイベントのトークテーマになっていて、いきものがかりは基本的にゆずさんの二次創作みたいなところから始まっていますというお話をしました。

 はい。

水野 ゆずさんがつくってくれた高校生にもできるようなポップな路上ライブのフォーマットに乗っかって、真似をしたり、カバーをしたり、影響を受けた曲をつくることによって僕らが育っていった。厳密には二次創作とは言わないかもしれないですけど、リスナーの方々が届け手となって広げていくという行動に対して、僕は基本的にはポジティブですね。柴さんはどのようにお考えですか?

 ハナナスさんのおっしゃる通り、専門の機関に問い合わせるべきことではありますよね。曲の歌詞を訳して海外のファンに楽しんでもらうというのは専門用語では「公衆送信」といって、これは著作権侵害になってしまう。

水野 はい、そうなんですよね…。この事例はアウトなんですよね。とはいえ、それはそれとして話を展開すると、今の時代にひとつの文化圏、ひとつの言語圏だけで音楽が流通するかというと、そうではない。

例えば鈴木雅之さんに提供させていただいた「DADDY ! DADDY ! DO ! feat.鈴木愛理」というアニメ主題歌の曲は、とてつもない数のカバー動画がYouTubeに上がっていて、スペイン語、イタリア語、英語、いろんな国々で歌われている。

つまり、二次創作が生まれていっている。違う言語圏の人たちが興味を持ちやすいような取り組みとしてアーティスト自身が翻訳するなら問題ないですし、やっていく必要があるとすごく思いますね。

 これもコロナ以降の話になりますが、ライブエンタテイメントの収益が7〜8割減という壊滅的な打撃を受けている一方で、ストリーミングに関しては日本でも世界でも落ちていない、むしろ微増傾向にある。

ストリーミングは日本だけで聴かれるわけではないので、世界中にリスナーがいる。YouTubeもそうですよね。MVをアップしたら英語のコメントがたくさん集まることはわりと珍しくないですよね。

水野 全然珍しくないですね。

 日本国内だけを相手にしていたら最大母数は1億数千万ですが、世界に向けたら10億、20億、30億と増えていく。アメリカ、ヨーロッパだけではなく、アジアの国々も含めてものすごく可能性がある。

水野 実はあるストリーミングサービスのある時期に、いきものがかりが最も聴かれていた地域はジャカルタ(インドネシア)なんですよ。

 へー!

水野 もちろん東京が1位ですが、東京を除くとジャカルタなんですよ。あとはメキシコとか。アニメの曲に絞られていますがものすごい再生数で、日本以上に聴かれている地域がある。

 ジャカルタは初音ミクのファンもすごく多いらしくて。

水野 へー!面白い。

 僕はアーティストではないので、自分のデータは持っていませんが、ストリーミングサービスって地域ごとでどの曲が人気あるかがわかったりすると。ということは海外でツアーしたときにセットリストを変えることができる。

水野 まさにその通りです!

 その地域で一番聴かれている曲をラストに持ってくるとか。

水野 4番バッターが変わるんですよ。地域ごとに推し曲が違う。

 そういうことですよね。オンラインライブも日本国内だけを想定していますが、ジャカルタから見るファンの方もいるかもしれない。そうなってくるといろんなことが変わってくる気がします。

水野 そうですよね。そう考えると、業界全体で権利面をコロナ以降の時代により適した形に直していかなければいけない。今の契約体制だと動きづらいこともある。時代に即したアーティストの活動の障壁になってしまうこともある。専門家の方々も交えて話し合って変えていくことが大事なんじゃないかと。

 水野さんもHIROBAを立ち上げて、いきものがかりも体制が変わって、アーティスト発信で今までと違うやり方で面白いことをやっていこうと考えているんじゃないかと思います。

水野 突飛なことをやろうという気持ちはないのですが、とにかく身軽にしたいというか。今の社会状況の中である大きな組織のひとつのレギュレーションに個性豊かなアーティストが合わせなければいけないのは無理がある。配信を有効に使えるグループもいれば、パッケージを有効に使えるグループもいる。それぞれに武器になるものが違うので、ひとつのレギュレーションの中に押し込むのはもったいない。これからを考えたときに、もっと柔軟に対応できるようにしておかないと時代にそぐわない状態になってしまう。それをできるうちに身軽にしておきたかったというのが正直なところです。

 なるほど。よくわかります。僕はm-floのVERBALさんによくお話を伺いますが、VERBALさんは海外アーティストともたくさんコラボしている。例えばカニエ・ウエストとコラボするとなったら、本人に話をしてOKをもらったらその瞬間に全てが決まる。そこからスタッフがいろんな調整をすると。

日本のアーティストとコラボしようとすると、3つくらい門を通って本人にようやく話が行くという違いがある。アーティストからすると「やろうよ!」と声をかけて、すぐに「できるほうが身軽だと。

水野 もちろん良し悪し、両面ありますけどね。アーティスト本人が決裁できるというのがよりいいと思います。

「100日後に死ぬワニ」という作品に僕らが関わって、あまりに早いスピード感で楽曲が出てきたので、大手広告代理店が最初から仕組んでいたのではないかと疑われてしまって…。あれも僕らが独立して決裁がすぐできる状態だった。今までの体制だったら決定から制作に入るまでに時間がかかりましたが、メンバー本人がきくちゆうき先生と直接ミーティングをして普段にはないスピード感で制作できた。

それがいつもとは違うから、「こんなことはありえない」と言われてしまう…皮肉だなとすごく思いましたね。「こんなスピード感でできるんだ!」と現場はみんな喜んでいたんですけど、逆に信じてもらえなかったという。

 これから先はそういうことができる。アーティストが決定権を持っていて、あとはスタッフが頑張って走り回るみたいな。そういうことになっていくんじゃないかなと思います。

水野 スピード感はより大事になっていくので、それに即した新しいシステムができていくんだと思います。いやぁ、充実したお話ができました。

 コロナからワニまで、2020年ならではの話でしたね。

水野 2020年下半期、柴さんはどんなふうになることを期待しますか?

 100%以前のようには無理でしょうけど、いろんな対策を踏まえてライブに集まれる時期がそろそろ来てほしいなと思います。

個人的には、例えばリモートワークやオンラインでの作業といったこれまでになかった新しいやり方やルールの中で上手くやっていきたいと思います。

水野 良くなった部分や新しい発見もたくさんありますよね。より生きやすく暮らしやすくなって、分断の状況が改善されていってほしいなと思います。

 今は産業革命以来の大きな転換期だと思います。新しいこれからのやり方をゼロから模索して、いいものは取り入れて良くないものは捨てていく。その試行錯誤をこれから数年かけてみんながやっていく気がします。それでいいものが残っていけばいいですよね。

(おわり)

<プロフィール>
柴那典(しば とものり)
1976年神奈川県生まれ。
ライター/編集者/音楽ジャーナリスト。
a.k.a シバナテン。
雑誌「ロッキング・オン」の編集者を経て独立し、
雑誌やWebを中心にインタビューなど幅広く活動。
著書に『ヒットの崩壊』(講談社)、
『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、
共著に『渋谷音楽図鑑』(太田出版)。

柴那典 Twitter
https://twitter.com/shiba710
柴那典 note
https://note.com/shiba710

Text/Go Tatsuwa

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