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主人公に自分の意志や思いをしっかり託す

「SPARK HIROBA」HIROBA編集版
水野良樹×Sano ibuki

2019.12.26

今年11月にメジャーデビュー作となる待望の1stフルアルバム「STORY TELLER」をリリースし、注目を集めているシンガーソングライターのSano ibukiさん。
J-WAVE「SPARK」で3週にわたってオンエアした対談の模様をHIROBA編集版としてお届けします。

文字だけではなく、メロディでも景色を伝えることが僕には重要

水野 「SPARK HIROBA」第3回目の対談相手に、この方をお迎えしました。

Sano こんばんは、Sano ibukiです。

水野 やっとスタジオにお呼びできました。

Sano ありがとうございます!お久しぶりです。

水野 お久しぶりです、そうですよね。約1年半前の「TOKYO M.A.P.S 」というJ-WAVEと六本木ヒルズのイベントに出演いただいて、素晴らしい演奏を聴かせていただきました。

※注釈:「TOKYO M.A.P.S 」 2008年から開催されているJ-WAVEと六本木ヒルズ主催によるフリーライブイベント。2018年は「TOKYO M.A.P.S YOSHIKI MIZUNO EDITION」として水野がプログラムオーガナイザーを務めた。

Sano 後にも先にもいちばん緊張したライブでした(笑)。

水野 あ、本当ですか⁉︎トリ前に歌ってもらったんですよね。

Sano そうです、ありがたいことに。

水野 ちょうど夕方の暗くなりかけた頃にSanoさんの声が合うと思ったんですよ。

Sano すごくうれしかったです。僕自身に昼間のイメージがあまりないので、すごくいいところで出していただけたなと。でも緊張しましたね…(笑)。

水野 しかも他の出演者はバンドが多くて。

Sano そうでしたね。

水野 歌いづらいところもあったかもしれませんね。

Sano いえいえ。

水野 そのあともSanoさんの作品はこのSPARKでもよくかけさせていただいて。

Sano ありがとうございます。

水野 今回は、3回にわたってお話を伺っていこうと思います。

Sano はい。

水野 11月にアルバム「STORY TELLER」でメジャーデビューされました。実感はありますか?

Sano 実感は…そんなになくて。

水野 そうですよね。その前から作品を出していたし、僕が出演していた「SONAR MUSIC」でもSanoさんの「魔法」がよくオンエアされていましたからね。

Sano そうですね。

水野 今回のアルバムはどのくらいの期間をかけてつくられたんですか?

Sano 曲づくりという部分で言えば、高校生の頃とかすごく前からあったカケラをもとにつくったものもあります。基本的には1stミニアルバムの「EMBLEM」とほぼ同時期に、2年くらいかけてつくった感じですね。

水野 僕らが過ごしている数年間と比べて、Sanoさんが過ごしている数年間のほうが変化が大きいような気がしますが、どうですか?

Sano どうでしょう。主軸は曲をつくることに変わりはないですし、そんなにライブをやっているわけでもないので、「淡々と過ぎていくな」という感覚がありますね。

水野 歌詞の言葉に変化などはないですか?

Sano 自分自身から出てくる言葉という点で、昔よりも直接的な言葉を使うようになりました。

水野 ああ、そうなんだ!シンプルな言葉を選ぶようになったんですか?

Sano 昔なら避けていた言葉というか。ダイレクトすぎる言葉に抵抗があって。

水野 確かに。歌詞の雰囲気も、そんなイメージはありました。

Sano 今でもダイレクトな言葉は、好きか嫌いかで言えば好きではないですが、ある程度許容できるようになったというか。

水野 何が違うんだろう。聴く人の反応で変わったみたいなことですか?

Sano というよりも、もしかしたら周りの環境の変化ということかもしれないですね。

水野 うーん。

Sano メジャーデビューもして「よりキャッチーになりたい」というか。

水野 あ、そうなんだ。

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Sano はい。普遍的になりたいという思いがあるので。

水野 はいはい。

Sano よりダイレクトな言葉のほうが響くなと感じて、そこから変わっていったかもしれません。

水野 いろんなミュージシャンとセッションすることで、サウンド自体も変化していくじゃないですか。そこで受ける刺激はありますか?

Sano アレンジャーの方々と一緒に作業するなかで「あ、こんな音に仕上げてもらったんだ」と思うと「じゃあ、今度はこんな音もお願いしたい」と、どんどん広がっていって。

水野 なるほど。

Sano 逆に「この曲はこっちのイメージになったのか」ということもありますが、自分の頭のなかである程度のバッファをもって「こんな形になったらいいな」というイメージのもとでお願いしているので、音による刺激というのはまだ少ないかもしれないですね。

水野 そうか。声がしっかりしているから…機軸がしっかりしているのかな。

Sano 特に音楽においては「なんでもやりたい」という思いがあるので。

水野 そうかそうか。

Sano 刺激がないということではなく、もともと自由に考えているんだと思います。

水野 それは意外だなぁ。

Sano そうですか?

水野 ストイックというか、良くも悪くも自分の世界で表現する感じだと思っていたから。でもこの数年間でどんどん視野とインプットを広げて、自分の表現に落とし込んでいるんだなと思いました。

Sano 僕は自分ではSano ibukiというプロジェクトみたいなものだと思っています。それをコアなものにしたくないですし、よりキャッチーなものにするためには自分ひとりではやらない。制作するスタッフの輪も広がるように意識はしていますね。

水野 キャッチーであることに惹かれるのはなぜでしょう。何を褒められるのがいちばんうれしいですか?

Sano そうですね…例えば曲を聴いた人に「自分が歩く散歩道をイメージした」とか、「何気ない瞬間にリンクした」と言われることがすごくうれしくて。

水野 なるほど。

Sano 僕もよく散歩して曲をつくるんですが、そういうときに流れる曲はカッコよすぎてもダメだし、オシャレすぎてもダメで。尖りすぎている音楽って意外とハマらないんですよね。

水野 わかります。

Sano やっぱり落ち着く何か、耳に残る何かがないといけないので。

水野 日常にうまくフィットするものって、すごく難しい塩梅ですよね(笑)。

Sano そうですよね。やっぱり極限までいっちゃダメっていうこともありますし。

水野 はいはい。

Sano もちろん、極限の良さもあるんでしょうけど。どこを目指すのかという部分で「よりキャッチーに」ということを意識しています。

水野 そうか。ちょっと話題が変わりますが、曲をつくるのにまずストーリーから考えるということを伺いました。曲づくりのスタートラインは物語をつくるような感じなんですか?

Sano 最初にタイトルから考えますね。

水野 タイトルからかぁ、おもしろい。

Sano そこからタイトルに合うストーリーをつくって、キャラクターをつくって、プロットもしっかりある状態で、より物語を深くして…。

水野 小説家みたいですね。

Sano ははは(笑)。

水野 なんとなく、あらすじというか。

Sano そうですね。ある程度読めるものをつくった状態にして、曲に落とし込みますね。

水野 おもしろい。じゃあ、詞先か曲先で言うとどっちが早いですか?

Sano メロディに関しては、散歩しながら鼻歌でつくっていることも多いので。

水野 それをうまくドッキングさせていくような?

Sano そうですね。けっこう別作業で進めていることが多いですね。

水野 別なのか。

Sano メロディをつくったときに「なんとなく晴れっぽいな」とかってあるじゃないですか。

水野 わかります。メロディが呼ぶ世界観ね。

Sano そうです。そういう世界観に合ったストーリーがあったかなと探して…。

水野 いやぁ、おもしろい!歌詞のためにメモを取ってる人は今までに何人も会ったことはあるんですよ。でも、あらすじを用意してますっていうのは少ないような気がするな。

Sano そうですか。主人公以外のキャラクターの調査書も全部つくっていて。血液型、好きな食べ物とか。

水野 それは歌詞に落とし込むことはない背景の情報ということか。

Sano はい。周りの風景も全部書いて。「このサブキャラがおもしろかったから主人公にしてみようかな」とか、「それならこのメロディと合わせようかな」とか。

水野 それはおもしろいですね。

Sano 「この景色を伝えたいから、この景色で感動させたい」という思いが主軸にあります。ただの景色ではなく、そこにちゃんと人がいて、人の心があって、というように広がって三次元、四次元になっていくような感覚がストーリーをつくることで明確になるんですよね。

水野 歌詞を書くときに「映像を思い浮かべる」ということをよく言いますが、映像はどちらかというと二次元じゃないですか。そうではなくて、実際にそれぞれのキャラクターが人格を持っていて、人間関係があって、ドラマが生まれるという生々しいリアルなことをSanoさんは想像していて、しっかり歌に落とし込まれているんですよね。

Sano そうですね。

水野 小説を書こうとは思わないですか?なぜ歌にするのでしょう?

Sano 学生時代にいろいろと模索していたという経験がありますが、そのなかで「魔法」のように自分の枠を飛び越えていく感覚に気づけたことが大きいですね。

水野 なるほど。

Sano 文字だけではなく、メロディでも景色を伝えることが僕には重要なんだなと。

水野 他の人に伝わるという点で、音楽がいちばん強いと。

Sano そうですね。

水野 誰かに聴いてもらいたい、誰かに理解されたいという気持ちは強いんですか?

Sano 届けたいというか。例えば空を見て「きれいだな」と泣いてしまったときに、ただきれいだから泣いてしまったわけじゃないですよね。

水野 はい。

Sano 悲しかったり、うれしかったり、何かの感情にリンクして涙を流す。

水野 そうですね。

Sano 同じ思いをしている人はどこかに必ずいるんじゃないかなと思うと、届けたくなるというか。この景色に合うテーマ曲が自分の曲だったらうれしいなと。

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水野 そうか。例えば僕の曲の話で恐縮なんですけど、「ありがとう」ってデカい言葉じゃないですか。

Sano そうですね。

水野 デカい言葉というのは、どういう意味にも取れてしまう。ちょっとジュースを取ってもらったときの軽い「ありがとう」にも使うし、死に別れのときの「今まで本当にありがとう」という重い「ありがとう」にも使う。それぞれの「ありがとう」は別々の「ありがとう」じゃないですか。

Sano わかります。

水野 空を見て「美しい」と思うときも、Sanoさんが感じる「美しい」と、僕が感じる「美しい」とは全く違う感情なんですね、厳密には。それぞれに合う曲が本当はあるはずだけど、僕はそれをつくりきれないので、逆にどの感情にも合う器を用意したいというか。

Sano 小さくても大きくても大丈夫なように、広くということですよね。

水野 はい。Sanoさんもそれを違う手法で表現していると思うんですが、目的は同じなのかなと。

Sano 僕もただその景色をつくりたいだけではないんですよ。それなら小説を書けばいいので。

水野 はいはい。

Sano それをあえて音楽にしているということは、広げているということなんですよね。器を大きくする作業を、音や歌詞でにじませて広げていくというか。

水野 なるほど。これはけっこう深いところでの共通点が見つかった気がしますね。

Sano いやぁ、ほんとですね。

水野 色にしても同じ「青」を見ていない気がするんですよね。

Sano ああ、わかります。

水野 それはある意味、孤独でもある。

Sano そうですよね。

水野 僕が見ている「青」と他の人が見ている「青」は違っているけど、どうにかしてその孤独な状況を共有したいという気持ちがあるのかもしれないですよね。

Sano 僕は普段はコンタクトレンズもメガネも使っていなくて、にじんだ世界を見ています。当然、僕よりも視力がいい人も悪い人もいて、同じ景色でもそれぞれに見えているものは違いますよね。人間ひとりひとりが感じるものは絶対に同じものはないはずなんですよね。

水野 そうですよね。

Sano ただ、それを同じ言葉でまとめる上でどこを重視するか…難しいというか、深いですよね。

水野 いやぁ、本当に。そこに向かっていくことに、つくることの意味があるのかもしれないですね。

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主人公に自分の意志や思いをしっかり託す

水野 Sanoさんから僕に聞きたいことがあるということで。なんでも答えますよ(笑)。

Sano ありがとうございます。もっとポップな質問を用意したらよかったかな(笑)。

水野 なんでしょう。

Sano 僕は友達があまりいないんですよ。

水野 よくわかります。僕もそうです。

Sano だからこそ、その友達は本当に大切に思えるんですが、水野さんにとっての友達の定義とはなんでしょうか?

水野 定義かぁ(笑)。いや、僕もほんとに友達いなくて…(数秒の沈黙)。うーん、ほんとにいないですね。

Sano そんな、「うーん」ってなるほどですか?

水野 定義づけるのはすごく難しいですけど、こういうときに「友達です」と紹介できる人が友達だなと思います。

Sano ああ!

水野 自分とつながりがあるということを表立って言っても許されるというか…これ、すごくさみしい話だな…(笑)。

Sano 信頼あってこそということですね。

水野 そうですね。いや、難しいですねぇ。でも、存在を許してくれるのはうれしいし、すごく大事ですよね。

Sano そうですよね。人間誰しも孤独ですからね。

水野 そう、そうなんですよ。それをいつも思っていて。友達というワードから家族に話を広げるとね。

Sano はい。

水野 僕は結婚して子供も生まれて、家族ってすごいなって思うのは「僕の妻です、僕の息子です」って言うじゃないですか。そのつながりは社会にとって太いですよね。

Sano 明らかに太いですよね。

水野 僕も息子との関係に対しては当然「この子の父親です」と自己紹介をする。つまり、自分のパーソナリティとして息子とのつながりを明言する。その行為は信頼していないとできないことですよね。これは友達という関係においても言えることだと思うんです。

Sano わかります。お互いに許し合っているところ、見せ合えるところがあるということは、友達の定義のひとつかもしれませんね。

水野 普段、友達の定義について考えることはありますか?

Sano 友達が少ないからこそ、人といることがどんどん苦手になっていって…。

水野 いや、すごくわかりますよ(大きく頷く)。

Sano (笑)人と会っていて「じゃあ!」と別れたあとに、ものすごく疲れることが多くて。

水野 はいはい。

Sano そう考えると、バイバイしたあとに“さみしくなっちゃう相手”が友達なのかなと。

水野 おお!キュンキュンしちゃうよ(笑)。

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Sano そう思える人ってすごく少ないですよね。

水野 そうですよね。

Sano もちろん家族もそうじゃないですか。僕は岐阜出身で、たまに実家に帰って東京に戻ってくるときに…。

水野 軽いホームシックというか。

Sano はい、帰りの電車のなかで「もう少しいたかったなぁ」とさみしくなったり。別れたあとに「もう一度会いたい」という気持ちになることが、友達の定義のひとつなのかなと思いますね。

水野 人間って…ほんとに孤独なんですよ。HIROBAをやっていても「わかり合えない」ということが基本の考え方としてあって。

Sano そうなんですか?

水野 はい。たぶん、個別の人と人はわかり合えないだろうと。でももうひとつ同じく基本にしている考え方があって「わかり合えないことに耐えられるほど、人間は強くない」という。

Sano ああ、そうですね。

水野 やっぱり、人間には「わかり合いたい」「自分の存在を認めてほしい」という欲求がある。

Sano はい。

水野 それは僕だけではなく、わかり合えない他者の側も思っていて、そのふたつをつなぐ行動が「平和」「友情」「愛」といった言葉を生み出すきっかけになるんじゃないかと。

Sano ああ、なるほど。

水野 例えば、いきものがかりのメンバーと20年ずっと一緒にいて、さすがにケンカすることもあるし、「こいつのここが嫌だな」と思うことももちろんある。

Sano そうですよね。

水野 たぶん、解散するタイミングもいくらでもあって。

Sano え!そうなんですか?

水野 20年もやってるとね。

Sano ああ。

水野 だけど、結果的には解散していない。

Sano そうですよね。

水野 「やっぱり、こいつらと一緒にやりたい」「もうちょっと一緒にやったら、おもしろいものがつくれるかもな」という決断をメンバーそれぞれがしてきた。

Sano はい。

水野 わかり合えないけど、わかり合おうとしてきたことの連続がこの20年なんですよね。

Sano なるほど。

水野 それがたぶん、友達の定義として正しいかはわからないけど、つながりということなのかな。

Sano そうですね。

水野 Sanoさんも曲をつくっていて、その曲が届かない瞬間もたくさんありますよね。

Sano はい。

水野 だけど、「届けたい」「理解してほしい」という気持ちが続いているから、曲をつくっていると思うんですよね。

Sano 確かに。あまり自分で「伝えたい」と実感する場面って多くはないと思うんですが、例えば顔を見合わせたときだとかは、物理的な距離ではなく心の距離として、常に「近づきたい」「1対1でいたい」と思うんですよね。

水野 はい。

Sano それはまさに「つながっていたい」と願う気持ちのひとつですよね。

水野 いやぁ、そうですよね。

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水野 それでは、もうひとつ質問をいただきましょうか。

Sano 僕は最近ラジオに出演させていただくことが増えたのですが、そのときに「夢はなんですか?」という質問が…。

水野 聞かれますよね。

Sano ありがたいんですが、どう答えようかなと思ってしまう質問のひとつで。

水野 困りますよね。

Sano 水野さんにとっての夢はありますか?

水野 その時々で、だんだん変わってくるし…。

Sano そうですよね。

水野 どう答えていますか?

Sano 僕は…めちゃくちゃごまかしてます(笑)。

水野 (笑)ラジオやっていてなんだけど、例えば「日本武道館でライブをしたい」とか、わかりやすい到達点を要求されることが多いですよね。

Sano そうですよね。

水野 でも、実際はそんなこともないじゃないですか。

Sano はい。

水野 もちろん、大きなライブハウスで演ってみたいとか、わかりやすい夢も素敵だけど。

Sano 難しいですよね。僕は夢という言葉が苦手なところがあって。

水野 はい。

Sano どこかでちょっと寝て見るものだろうと。

水野 (爆笑)大好き!

Sano 同じ字を書くんだから、寝て見るものなんじゃないかなと。

水野 (笑)いい!

Sano エジプトに行きたい、とか。

水野 なるほど。

Sano 石油王になりたい、とか。

水野 そっちね(笑)。

Sano ほんとに夢なので。逆に、そういう類ではないことを言うのがちょっと怖いというか。

水野 ああ、叶わないもの、実現不可能なことになってしまうのが怖いということか。

Sano そうなんです。

水野 うーん、夢か…もうちょっとうまく生きたいなと(笑)。

Sano (笑)

水野 急に真面目な話になりますけど、息子が生まれたことが大きくて。

Sano はい。

水野 当たり前だけど、自分の人生についてばかり考えてきた時間が長いわけじゃないですか。

Sano そうですよね。

水野 これまでは「死んだら終わりです」。だから「そこまでにどれだけ人を愛せるか」「どれだけ今を大切にできるか」といった枠組で曲を書くことが多かったんですね。

Sano はい。

水野 ところが息子が生まれて「俺が死んだあとも、あるな」と気づいた。

Sano ああ、なるほど!

水野 そう考えていくとね、「あ、俺も誰かが死んだあとなんだな」という考えに至るんですね。いろんな人の思いを多かれ少なかれ自分も受けていて。「そうか、残される人の人生もあるんだな」と思ったときに世界が広がって。

Sano はい。

水野 あと、曲は死んだあとも残るじゃないですか。

Sano そうですね。

水野 僕らが聴いている名曲やスタンダードナンバーは半分くらいが死んだ人の曲ですよね。

Sano わかります。

水野 それはものすごくロマンがあるなと。彼らは僕らが生まれたことも気づいていなくて…。

Sano はい。

水野 自分が死んだあとに曲が聴かれていることを想像もしていなくて。

Sano そうですよね。

水野 だけど、彼らのつくった曲が僕らに大きな影響を与えている。もしかしたら僕も頑張っていい曲をつくっていければ、自分が死んだあとに想像もしていなかったような遠いところ、それは僕らが死んだあとに生まれる人も含めて、そこまで届く可能性もある。そう考えるとめちゃくちゃロマンがあるなと。

Sano いやぁ、ほんとですね。命のバトンというか。

水野 そうそうそう!直接的に書いているつもりはないけど、歌にはどんな書き方をしていても自分の価値観がにじみ出て。

Sano 意志というか。

水野 そうです。それが伝わっていくんじゃないかと。

Sano うーん。

水野 かっこいい言い方をすると、それが夢というか。そういう意味では、僕は自分よりも曲のほうをだいぶ信じているんですよ。

Sano 曲に託しているものが大きいというか。

水野 そうですね。曲は裏切ることがないというか。

Sano なるほど。

水野 曲に対して託すのは、どうですか?

Sano めちゃくちゃ、あります。

水野 ははは(笑)。

Sano 僕は主人公を立てて曲をつくっていますが、その主人公に自分の意志や思いをしっかり託します。

水野 はい、入っていますよね。

Sano 自分が見たものじゃないものを見せることは、できないじゃないですか。

水野 はいはい。

Sano ファンタジーの世界を描くとしても、自分が見た世界を掛け合わせてガッチャンコしてつくっていくというか。

水野 なるほど。

Sano 見ていないものは嘘になっちゃうから。ちゃんと意志を持った主人公が動いてくれることによって、自分というものがちゃんと表現されていく感覚があるんですよね。

水野 ああ、おもしろいですね。

Sano 違う人間なわけじゃないですか。

水野 一応、虚構なんだけどね。

Sano そうなんですよ!違う人間だけど、勝手に主人公が動き出してくれることによって、「ああ、僕がこうやって動くことがあるのかもしれないな」とどこかで思う部分もあって。

水野 なるほど。

Sano そういう思いが曲を聴く人に伝わってほしいし、「自分もこうやって動き出せるかもしれない」と誰かに思ってもらいたいんですよね。

水野 すごいねぇ。僕は、虚構のほうが人間性が出ると思っていて。

Sano はい。

水野 シンガーソングライターとか曲をつくっている人間って「リアルなものを出せ」って言われがちじゃないですか。

Sano そうですね。

水野 ありのままの自分というような。

Sano はい。

水野 僕ね、言葉ってリアルな人間に対して足りないものだと思うんですよ。

Sano わかります。すごくよくわかります。

水野 解像度にはどうしても限界があるというか。例えば僕が「痛い!」と感じて「痛い!」という言葉を発したとしても、感じている痛みは表現しきれていなくて。

Sano はい。

水野 自分という存在よりも小さい存在になってしまいがちだと思うんです。だけど、虚構はそれを超えられるというか。

Sano うーん。

水野 リアルな複雑で混濁している人間というものを、虚構のほうが表してくれやすい。

Sano そうですね。例えば喋るときに「ありがとう」という言葉ひとつとっても「ありがとう」と伝わらないな、ということがありますよね。

水野 (笑)そうそう!

Sano 「ありがとう」と100回言わないといけないくらいの「ありがとう」をもってしても伝わらないこともあるし、逆に「ありがとう」を言うほどでもないなというときもあるじゃないですか。

水野 わかる!

Sano そういうニュアンスも曲の景色と一緒に伝えると、わりと伝わるというか。

水野 はい。

Sano このくらいの「ありがとう」なんだなというイメージが、景色とともに流れてくるじゃないですか。グッとくるというか、そういうのはありますよね。

水野 これは…けっこうおもしろい話ができたんじゃないかな。まさにアルバムが「STORY TELLER」というタイトルですけど、虚構の物語をつくることによって、実は生々しい、複雑で、単純化できるはずのない、その時々の瞬間によって変化していく何かを、少しとらえていたり、そこに近づけていたり。

Sano 空気みたいなこと。

水野 なのかな。

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歌というものがあるけれど、そこに遮られたくない

水野 毎回、対談相手に聞いているんですけど、「今、ひとつだけ音楽に関する能力を魔法で伸ばせるとしたら、どの能力を伸ばす?」。

Sano そうですね…。

水野 音楽にまつわることであれば何でもOKです。作詞の能力でも、楽器の技術でも。

Sano うーん、なんだろうな。でも、僕は…歌が上手くなりたいです。

水野 おお!そうなんだ。歌に求めるものは何ですか?

Sano 僕は昔から「歌が上手じゃないね」ってずっと言われていて。

水野 え!意外です。

Sano 音痴って言われることがすごく多かったんですよ。

水野 えええ!あんなに、いいのに!?うらやましいですよ。

Sano 音痴だなと思う瞬間が多かったので、自分自身ではわかっていて。中学生の頃なんかは歌うことが恥ずかしいと思っていたくらいなんですよ。

水野 そうなんですか。

Sano それがだんだんと「上手になりたいな」と思うようになりましたし、「もしかしたら自分の声で伝えられる何かがあるかもしれない」と考えるようになって今歌っていますけど、やっぱりレコーディングでも、ライブでも、「もっと伸びやかに」「もっと透き通るように」といつも反省してしまって…。

水野 いやぁ、真面目だなぁ。

Sano やっぱり「もっと上手になりたいな」と思うんですよね。

水野 そうか。自分の声を意識して曲をつくりますか?

Sano まったく意識していないですね。

水野 そうなんだ!声はいったん置いておいて。

Sano はい。なので、いざ自分で歌うとなったときに「あれ、これ、出ないんじゃないか?」ってなったり。

水野 最初につくるときは、作家的なつくり方というか。

Sano そうですね。Sano ibukiという存在をどれだけ消すことができるかを考えていて。

水野 ええ、おもしろい!

Sano 僕が歌わない可能性も見越して、何も考えずにつくっていることが多いので。

水野 でも、出来上がった作品はちゃんとSano ibukiさんになっている気がしますよ。

Sano 本当ですか?無意識なところはあると思うんですけど。

水野 そうかそうか。

Sano 自分の声に関してはまったく無意識につくるので、毎回新曲をつくるたびに自分の声のトップを超えていかないといけないというか(笑)。

水野 作家Sano ibukiはシンガーSano ibukiに対して厳しいんだね(笑)。

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Sano 「お前、もっと行けるだろ!」って(笑)。

水野 そうなんだ。

Sano 「僕の声が曲の邪魔をしたくない」と思ってしまうんですよね。

水野 ああ。

Sano 曲を伝えるにあたっていろんな声の表現にチャレンジしているんですけど、僕というものが主張しすぎて曲の概念を壊すことがいちばん怖いというか。

水野 はい。

Sano そういう意味で、歌が上手くなればなと思うんですよね。

水野 なるほど。楽曲至上主義ということなのかな。

Sano うーん、そうかもしれませんね。

水野 僕ね、自分が好きになってライブにお誘いしたり、対談に来ていただいたりする人って、話していて共通点が見つかることが多いんですよ。

Sano はい。

水野 「楽曲に自分の色が出すぎないように」「自分が限界点にならないように」ということは僕もすごく思っていることで。「僕という存在よりも、楽曲で何を表現するかが大事だ」と、わりと強く思っているんですね。

Sano わかります。僕も歌うということが前提にはありますが、「歌というものがあるけれど、そこに遮られたくない」という思いがあって。やっぱり作家としては…。

水野 やっぱり、作家の気持ちのほうが強いんですよ、分量的に。

Sano そうですね。

水野 Sanoさんはシンガーソングライターと書くときにソングライターのほうが太字になっちゃってる(シンガーソングライター)感じですよね、きっと(笑)。

Sano (笑)ほんとにそうです!だから、ライブも震えちゃうんですよ。

水野 (笑)もしかしたら、そのソングライターという恐怖感が、克服するとかではなく、違った角度になって、自分のことを「このシンガーもいいかも」って思った瞬間に新たな説得力が生まれるんじゃないですか?

Sano そうですね。

水野 そんな気がする。

Sano 僕自身、「魔法」の頃よりも、ちょっとずつ自分を信じられるようになっているというか。

水野 いいじゃないですか!

Sano 自分でも「今後、どんな声を出すんだろう?」って気になるんですよね。

水野 僕はいきものがかりの放牧中に、初めて他のアーティストの方々に楽曲提供させていただいたんですよ。

Sano はい。

水野 吉岡よりもキャリアのあるシンガーの方もたくさんいらっしゃいましたし、全然違う個性を持ったシンガーの方に書かせていただいて、そのとき初めて気づいたのは…。

Sano はい。

水野 曲づくりを始めたのは高校生の頃で、その始めた瞬間くらいから吉岡に歌ってもらっていたんですよ。

Sano あ、そうなんですね。

水野 そうすると、無意識レベルのところまで吉岡の声で曲づくりをしているんですよ。

Sano ああ、わかります!

水野 吉岡の声が僕の曲づくりに内包されているというか。

Sano もう自分の声のようになっているんですね。

水野 そうそう。そうなっちゃってるんだってことに、他の人の曲をつくったときに初めて気づいて。

Sano ああ、なるほど。

水野 そこまでなると「吉岡のことをすごいと思った」とかそんな簡単な話でもなくて、「この人はもう…他人であって、他人じゃないんだな」みたいな。

Sano 「自分なんだな」に近いというか。

水野 はい、それをすごく思ったんですね。そのときに開けるものがあって。具体的に言葉にできないんだけど、説得力のプラスになるものというか。

Sano わかります。

水野 それは僕の場合は「他者」という違うシンガーだけど、Sanoさんの場合はご自身のなかにさらに上のステージが見えてくるんじゃないかと、今すごくワクワクしてきました。

Sano そうか…おもしろいですね。

水野 いやぁ、ほんとに。

Sano 僕が生まれたくらいから、いきものがかりさんの曲が世の中に流れていて…。

水野 (笑)恐縮です。

Sano そうか、やっぱり染み付いているんですね。いきものがかりという存在が。

水野 なんかね、自分はそう…なっちゃってましたね。吉岡は放牧中にソロで、自分の好きなスタンダードな曲のカバーアルバムを出したんですよね。

Sano はい。

水野 いろんな曲を候補曲として歌ったときに、自分のタイプとは違う曲もあったみたいなんですよ、当たり前だけど。

Sano そうですよね。

水野 そのときに「いきものがかりの曲で自分に合わない曲ってなかったな」と、はたと気づいた。

Sano ああ!

水野 山下と水野がつくった曲で「この曲、私に合わないわよ」っていうものはほとんどないと。

Sano え、そうなんですね!

水野 「それって、とんでもなくいいことだな」みたいな。お互いフィットしてるってことですよね。

Sano とんでもないことですね。

水野 Sanoさんの曲って、もちろんSano ibukiというシンガーを外れてもいい曲なんだろうけど、分かち難いつながりがどこかに必ずあって。

Sano そうですね。

水野 それに対して自分自身で何かをグッとつかんだときとか、自信を強く持てたときに、同じ曲も違うものになったり、それがまたソングライターとしてのSanoさんにも…。

Sano 影響を与えそうですよね。

水野 ねぇ。もっと開けてくると思ったら、楽しくないですか?

Sano 自分にももっと可能性があるというか…。

水野 絶対ある!

Sano 歌詞でもそうですけど、自分のことを信じられないから「信じたい」とよく書いちゃうんですよ。

水野 はいはい。

Sano 常に信じたいと思うし、もっと可能性があると思いたいので、そう言っていただけるのは…ものすごくうれしいですね。

水野 1年後、2年後にお会いしたときにまたお話を伺って、この会話が作品につながっていたらうれしいな。これからもいい作品を期待しています。

Sano すごく楽しかったです。

水野 ああ、よかった!

Sano 本当に、喋り足りないくらい(笑)。

水野 ぜひ、また来てください。

Sano はい!

水野 僕もいろいろな共通点も見えたし、「そこで通じ合えていたんだ!」って思えることも多くて、すごくうれしかったです。

Sano ありがとうございます!

水野 ありがとうございました。

(おわり)

Sano ibuki(さの・いぶき)
シンガーソングライター。
2017年、本格的なライブ活動を開始。
自主制作音源「魔法」がTOWER RECORDS
新宿店バイヤーの耳に留まり同年12月に
同店限定シングルとして急遽CD化され、注目を集める。
2019年11月にデビューアルバム「STORY TELLER」をリリース。
公開中の映画「ぼくらの7日間戦争」主題歌の「決戦前夜」、
2020年1月24日(金)より公開の映画「his」の主題歌「マリアロード」も
収録されたアルバムで早くも話題となっている。
2020年2月には東京と大阪で単独ライブ
「Sano ibuki LIVE “NOVEL”」を開催する。
Sano ibukiオフィシャルサイト
Sano ibuki Twitter
Sano ibuki Instagram

Photo/Manabu Numata
Text/Go Tatsuwa

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ソングライター水野良樹が主宰するHIROBAの公式noteです。 『考えること、つながること、つくること』 その3つを豊かに楽しむための広場=HIROBAをつくっていく試みです。 定期購読マガジン『HIROBA公式マガジン』のご購読もよろしくお願いします。
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