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関取花 連載第27回「むくみが気になるお年頃」

少し前、久しぶりにバラエティ番組の収録があった。普段テレビの中でしか見ない芸能人の方々に会うのは、いまだにとても緊張する。正直やっぱりオーラが違うのだ。芸人さんもタレントさんも、みんなキラキラしている。街中で見かけたらきっと、すぐにただ者ではないことがわかるだろう。そんな人たちのところにしがないミュージシャンの私みたいな者がノコノコお邪魔させていただくわけだから、数日前からドキドキして落ち着かなくなるのは当然のことである。そしてその場の華やかさをできるだけ邪魔しないように、毎回決まって当日までに無駄な悪あがきをしてしまうのだ。

これは、身体測定の数日前だけ必死でダイエットをするあの現象と似ている。ほんのちょっと頑張ったところで体型に劇的な変化はないし、体重に変化があったとしても短期間で落とした数字なんてすぐに戻ってしまう。そんなことは百も承知、心の底では痛いほどわかっていても、それでもやはり「記録」として残るとなると、できるだけベストな、あとから見返してもなるべく落ち込まない自分でいたいという気持ちが溢れてくるのだ。その意志があるなら普段からやれよという話なのだが、まあその話はよしてくれ。直前になって本気出すタイプなんですよ。K-1王者でいうと久保優太選手みたいな。

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だから中学生とか高校生の時も、身体測定前は急に夜ご飯をお味噌汁だけにしたり、普段はやらない半身浴を長時間やったり、なるべく華奢に見えるよう下着も薄めのものをつけてみたり、とにかくできる限りのことはやった。今回の収録にあたっても、数日前から塩分控えめな食事を心がけ、むくみをとる漢方も忘れずに飲むようにしていた。前日にはきちんとストレッチもし、あとはもう着圧ソックスのメディキュットを履いてゆっくり眠るだけという感じだった。

しかしそこはやはり関取花、そんなに上手くいくわけがなかった。ベッドに入ったはいいものの、まったく眠くならなかったのだ。遠足の前日みたいな感じで、変なアドレナリンが出て目がギンギンに冴えてしまっていた。とはいえ明日の入り時間はめちゃめちゃ早い。何よりも睡眠が大事ということは、ライブの時もレコーディングの時もいつも痛感していることだ。

どうしたら少しでもリラックスして眠れるのか考えた結果、私はまずメディキュットを脱ぐことにした。スタジオのセット図を見た限り、脚元はテーブルで隠れる仕様だったはずだし、そうじゃなくても私は衣装で脚を出すようなタイプではない。脚のむくみは最悪どうでもいい。身体を締め付けるものがなくなると、俄然気持ちに余裕が出た。あとはこのまま眠るだけだと思ったのだが、それでもその日はなかなか眠れなかった。なぜ、なぜなんだ。目を瞑りながら一人しかめ面をしていたら、夜の静寂をとある音が切り裂いた。

グウウウゥゥゥゥ……

濡れた老犬のようなその声は、寂しさと虚しさで溢れていた。なんだかすまない気持ちになった私はむくりと起き上がり、キッチンへと向かった。そしてグラノーラを食べた。でも私は悪くない。腹の中に住む悲しきモンスターに餌を与えてやっただけだ。私は悪くない。断じて。断じてだ。

そして私は次に洗面所へ向かった。食べてしまったのだから、歯を磨き直さなければならない。ちなみに私は結構ミントがキツめの歯磨き粉を愛用しているのだが、それで磨くとどうなるか、皆さんもうお気付きだろう。ああそうだ。クソほど目が覚める。

完全に悪循環の沼に足をとられたとは思いつつ、睡眠については身体に任せることしかできない。とはいえなるべく早く眠りにつきたい。そこで私は、泣く泣く寝る体勢を変えることにした。翌朝むくまないためにこういう日は仰向けで眠ると決めているのだが、実は普段はこの真逆の体勢で眠っている。完全なうつ伏せ寝、且つ脚を畳んだ状態で布団の中にすっぽりおさまって眠るのが私のスタンダードスタイルである。血流に圧をかけまくっているこの体勢で一晩眠るとどうなるか、もう言わなくてもおわかりだろう。お察しの通りだ。クソほどむくむ。

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私だって、むくんだ状態でテレビの画面に映るのはもちろん嫌である。でも、頭が回らなくて共演者の皆さんに迷惑をかけるのはもっと嫌だ。そんなわけで私はいつもの体勢で眠りについた。そしたら安心したのか何なのか気付いたら眠りに落ちていて、目が覚めたのは朝6時だった。洗面所へ行くと、アンパンマンみたいな顔の私が鏡に映っていた。ちなみに手はクリームパンみたいだった。その姿に絶望しつつも取り急ぎ準備をし、私は家を出た。

ネットでむくみを取る方法を必死で検索し、電車の待ち時間はとにかくマッサージをしまくった。なんでも耳のうしろあたりがむくみに効くツボらしく、親指で押すといいらしい。朝っぱらからマギー審司さんの「耳がでっかくなっちゃった!」の両手バージョンみたいなポーズをしている私を見て、ホームの同じ列に並んでいた人たちはどう思っていたのだろうか。そんなことはお構いなしに、私は目的地に着くまで最後の悪あがきでマッサージをし続けた。

収録スタジオの最寄り駅でマネージャーさんと合流したのだが、「おはようございます〜」と声をかけると、少しはマシになっているはずの私の顔を見て、マネージャーさんは笑いながら一言こう言った。

「なんか今日すっごい顔してるね」

そのあまりの正直さに一瞬落ち込んだが、昨夜からの不毛な闘いの数々を思い出したら、自分でもなんだか笑えてきた。それと同時に、なぜかその瞬間気持ちが格段に楽になった。顔のむくみはわからないが、心のむくみが取れた感覚がたしかにしたのだ。思えば私は見た目のことを気にし過ぎて、ここ数日笑顔を完全に忘れていた。そうしているうちに気持ちの流れが悪くなり、身体がそれに耐えられなくなった結果がこのパンパンの顔なのかもしれないと思った。

それならばあとは気にし過ぎないのが一番の薬だと思った私は、もうこれ以上の悪あがきはやめることにした。とにかく楽しもう、くだらないことを考えて、食べたいものを食べて、できるだけいつもの私で収録を迎えられるようにしよう、そう決めた。一度決めたら行動に移すのは早い方なので、私はとりあえず楽屋に入るなり速攻で弁当にがっついた。ハンバーグとエビフライとナポリタンの入った超ヤングなガッツリ弁当は、それはそれは美味しかった。衣装のパンツが少しきつくなったような気もしたが、そんなことはどうでもよかった。食べ終わったあとの私は、間違いなく心が満たされていた。鏡を見たら、今朝よりよっぽどいい顔をしていた。肝心の収録はというと、相変わらず不慣れで不甲斐ない点ばかりだったが、少なくともいつもより楽しむことはできたと思う。何より、いっぱい笑った気がする。

新しいことに挑戦する時や慣れない場所で勝負をする時、当然人は緊張する。だからせめてその場に馴染めるようにと色々考え込んでしまいがちだが、本当はいかに自分らしくその場を楽しめるかの方が重要だったりする。これはテレビ収録の現場だけに限らず、対バンライブやフェス、執筆の仕事でもそうだ。周りの偏差値に合わせようと急に背伸びをすると、バランスを崩してかえってダメになってしまう。それで本来の自分を出せずになんだコイツと思われたことなんて、数え切れないほどある。思い返せば、私はそういう失敗を幾度となく繰り返してきた。これからだってやってしまうだろう。今月の18日で私は30歳になる。節目の年、どんな自分になりたいか、最近あらためてよく考える。綺麗になりたい、可愛くなりたい、あの子みたいに、あの人みたいに。欲望は尽きないし、周りはいつだって眩しい。でもその人はその人、自分は自分である。

私は私らしく私の毎日を楽しめたらそれだけでいいのかな、と最近は思う。30代も失敗と悪あがきをたくさん繰り返しながら、私の好きな私に少しずつなっていけたらいい。この「はなさんさん」という連載は、言わばそんな私の観察日記のようなものなのかもしれない。そんなわけで、これからも暇な時にでもこっそり覗いて見守っていただけると嬉しいです。いつも読んでくださり本当にありがとうございます。今年もお世話になりました。来年もよろしくね!

関取花アー写メイン今をください軽

関取花(せきとり・はな)
愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けているミュージシャン。NHK「みんなのうた」への楽曲書き下ろしやフジロック等多くの夏フェス出演、初のホールワンマンライブの成功を経て、2019年5月にユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。
ちなみに歌っている時以外は、寝るか食べるか飲んでるか、らしい。
関取花オフィシャルサイト
関取花Twitter

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ソングライター水野良樹が主宰するHIROBAの公式noteです。 『考えること、つながること、つくること』 その3つを豊かに楽しむための広場=HIROBAをつくっていく試みです。 定期購読マガジン『HIROBA公式マガジン』のご購読もよろしくお願いします。