読む『対談Q』 水野良樹×大塚愛 第2回:シングルになれるもの、なれないもの。
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読む『対談Q』 水野良樹×大塚愛 第2回:シングルになれるもの、なれないもの。

HIROBA

HIROBAの公式YouTubeチャンネルで公開されている『対談Q』。こちらを未公開トークも含めて、テキスト化した”読む”対談Qです。

今回のゲストはシンガーソングライターの大塚愛さんです。

前回はこちら


「シングルありがとう!」


水野:どこを作るのがいちばん楽しいですか?

大塚:基本、あまり時間をかけたくない。パって来て、「あ、いい!」って思ったら、もうそれで振り分けるんです。シングル向き、アルバム向き、提供向きって。で、やっぱりシングル向きのものに出会った、いちばん最初の瞬間、「最高だ!」と思います。あとはどうにかなるみたいな。

水野:すっごくわかります。出会った瞬間、天にも昇る気持ちになるでしょ。

大塚:そうなんですよね。「来たー!」って。だけどそれが、自分の好みの音楽かどうかはまた別で。

水野:なるほど。

大塚:それが苦しいんですよね。私の好みはアルバム系だから。でも職業的に考えて、やっぱりシングル系が降りてきたときは、「シングルありがとう!」って感じ(笑)。

水野:もう、ひとりレコード会社じゃないですか! 「今、本人はちょっと静かな曲がいいって言っているけど、シングルにするならこっちだよね」って。いわゆるレコード会社のひとが言いそうなことを、本人のなかでやっちゃっている。

大塚やっぱりシングルになれるもの、なれないもの、そこの差は大きいなって。アルバム曲は変な話、「今から30分で作って」って言われたら、誰でも作れると思うんです。でもシングルは、「これは多分、好かれる」っていうあざとさの塊みたいなところがある。それにパって出会えたとき、恋に落ちたみたいな感じですね。


水野
:その視点ってどこで育ったんですか? みんなストレートに、作りたいものを作るところから始まっちゃうじゃないですか。10代のときなんかとくに。だけど、「世の中に受け入れられるだろう」とか、「求めているひとがいるから書く必要がある」って視点になるのは、だいぶ川を越えないといけないと思うんですけど。

大塚:多分、2路線あって。私はドラマや映画の主題歌ばっかり聴いてきたんですよ。そっちがシングル系。で、挿入歌とか、ゲームのBGMとか、そういうものが個人的な好きの方向なんですよね。ただ、シングル向きのもの、主題歌ばかりをずっと聴いてきたから、「売れるのはここ」っていうのが。


自分を褒めるのは、100のうち1ぐらい。


水野:できていっちゃったんですね。それでやれちゃうのがすごいです。なんでそんなに自分に厳しいんですか?

大塚:いや私、客観的に見て、本当に運がよかったなって。時代もそうだし。今、新人でスタートってなったら、絶対に上がっていけないと思う。

水野:でも僕もそうなんですけど、ポップスを書くひとって、どこか自分に冷淡じゃないと外を向けないというか。自分の好みを捨てて、「お前のここはダメなんだ」って切り捨てたり。一部の大天才を除いて、そこは必要な要素なのかもしれないですね。

大塚:でも苦しいですよね。だから、100のうち1ぐらいなんですよ、自分を褒めるの。一瞬だけ。

水野:どういうときに褒めるんですか?

大塚:いちばん最初は、曲にパッと出会ったとき。あとはアレンジがうまくいったときですかね。

水野:あぁー。

大塚:アレンジが終わって、その曲の“裸に洋服を着せた状態”が、「あ、いいな」ってなったときに、「天才だな、私」って一瞬思う(笑)。でもそこからまた茨の道。「歌がもっとこうで…」とか、「声がそもそも違う」とか。ライブとかも、歌いながらいちいち、「ここのミスが」「リズムよれた」って気になっちゃってしょうがない。

水野:うんうんうん。

大塚:「お客さん盛り上がってないんじゃないか」とか。ずっと苦しい。

水野:僕は曲を書いたとき、減点法でいっちゃうんです。大塚さんと同じように、出会いの瞬間あるじゃないですか。「あ、今メロディー浮かんだ」みたいな。このときは、想像が100点満点なんですよ。

大塚:うん。

水野:まだなにもそのあとが出来上がってないから、全部うまくいった状態でいる。でも、サビが出てきました、AメロBメロ作りました、って作るたびに可能性が狭まっていくんですよ。もし僕より才能のあるソングライターが、このメロディーに出会っていたら、もっといい曲になっていたはずだ、みたいな。

大塚:あぁ!

水野:それでどんどん落ちていくんですけど。

大塚:つらいですね。

水野:でも僕は曲作りでそこが止まるけど、大塚さんの場合は、そのあと自分で歌わなきゃいけないから。そりゃあきついですよね。あと、20代と30代の自分では変わっているはずだけど、求められるイメージにはちょっと時差があったり。複雑な要素をずーっと見つめ続けてないといけない。


大人になってよかったもの、大人になってなくしたもの。


大塚:水野さんはストック派ですか? それともそのときのものを出したい派ですか?

水野:ストックしてみたいと思うんですけど、ストックしたものって、やっぱり大したことないんですよね。どうですか? ストックします?

大塚:私、もう超ストック。いいと判断するまで、ものすごく時間をかける。

水野:なるほど!

大塚:作って、一旦置いて。また違うテンションのときに聴いて、いいと思えるかを、延々に判断するんですよ。毎日チェックする。だから出すまでに何年もかかる。

水野:すげー!自分フィルター、自分ハードルが高いんですね。

大塚:勢いで出しちゃうのが怖いなって前は思っていましたね。結果を出さないと、ってことばかり考えていたから。普通のものは出しちゃいけないみたいな。

水野:よく頑張られましたねぇ。でも、だからこそいいものができたんでしょうね。

大塚:若かりし日、精神的にも若いので、いろんなものを諦められなかったり、加減もわからなかったり、常に100か0かみたいな性格もあって。だからずっとつらいじゃないですか。でも、やっと大人になり始めると今度は、諦めることが上手になっちゃうから、それはそれでよくなくて。

水野:はい、はい。

大塚:結果、いちばん素晴らしいのって、そういう計算やあざとさ関係なく、ピュアなものがいちばんピュアに届くんだよなぁって。ただ、「子どもに戻る…いやぁでも今、親だし…」とか、いろんなものにまた悩まされていますね。

水野:でも、より強くないですか? 20代の頃、がむしゃらにやって、なんとか形にしていった頃と、それをちょっと俯瞰して見られる時代と。どちらの経験もある。俯瞰して見ることの恐ろしさ、諦めきっちゃう危うさも知っているから、そういう意味では最強になりかけているというか。

大塚:ただ、若いときにしかない、「目をつぶって走ってます!」みたいなパワー。あれを今やれって言われると、「目をつぶって走るかぁ…ちょっと薄め開けていいですか?」みたいな(笑)。

水野:そうかぁ。

大塚:大人になってよかったものと、大人になってなくしたものってあるから。でもなくしたもののことを考えても仕方ないので、今だから書けるものでいくしかないんじゃないのかなって。

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