『小説家Z』 水野良樹×塩田武士 第4回:ご飯を食べる時間ももどかしい、あの瞬間がいちばん楽しい。
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『小説家Z』 水野良樹×塩田武士 第4回:ご飯を食べる時間ももどかしい、あの瞬間がいちばん楽しい。

HIROBA

HIROBAの公式YouTubeチャンネルで公開されているトークラジオ『小説家Z』。こちらをテキスト化した、”読む”小説家Zです。

今回のゲストは作家の塩田武士さんです。

前回はこちら


孤独は実生活で誰にでもできる。


水野:塩田さんからいただいた文章のなかにもありましたけど、作家が孤独になる瞬間も必要だと。すべてをいったんシャットアウトして、自分だけのなかで咀嚼というか、向き合う時間が必要だともおっしゃっていて。

塩田孤独というと、普通は人間関係の線を思い浮かべると思うんですね。ひとと会わないとか。でもそれは、孤独ではなく孤立。僕は孤独になるって、人間関係の線を断つことじゃなく、時間のことだと置き換えているんです。

水野:はい。

塩田:そういう時間を作るということ。たとえば僕、子どもがいるんですけど、学校行事に参加して、そこで得るものは小説になる。でも、そのままだと宝の持ち腐れ。それはもったいないので、自分のなかで、ろ過する時間が要る。そこで僕は仕事場にこもって、電話も取らないし、ネットも見ない時間を作っているんです。それが孤独。だから誰にでもできると思うんです。

水野:それがあるとないとでは全然違うんですか?

塩田:そういう孤独のときに、お渡ししたような文章を書くんです。内省的になる。リセットボタンに近いものを押さないと、だらしなく流れてしまっているままでは、ものは作れないんじゃないだろうかって。でも、山にこもる必要もなくて。実生活でできるっていうのが、僕の考えなんです。

水野:やっぱり両極端なことを、常に持っていらっしゃる方なのかな。取材って、ぶわーってひらいているじゃないですか。完全にオープン。だけど、今おっしゃられた孤独って、それをグッって閉じる感じ。

塩田:そうか、そうですね。たしかに僕、あまり友人と飲みに行くこともなくて。仕事でひとと会って、そのときにいっぱい楽しいお話をするんですけど。言われてみれば、プライベートではひとりで本を読んだり、絵を観に行ったり、音楽を聴いたりっていう時間が多い。ガンダムのプラモデルを作っているときもひとりですし。

水野:その両極端なのが、作品を成立させているのかなって。

塩田:水野さんはどうですか? ひとりの時間って。なんかインドア派やって、よく言われていますけれども。

水野:インドアですねー。僕はひとりの時間のほうが長いと思います。

塩田:ひとりの時間は好きですか?

水野:うん、好きですね。たまにミュージシャンの方で、一緒に作業をするのが好きな方もいらっしゃるんです。むしろ家では作らなくて、スタジオにいてみんながいるところで作るっていう方もいらっしゃるんですけど、僕はそれ考えられなくて。

塩田:映画とか、台本を何回も改訂していって、そのたびに見るじゃないですか。集合知的にプロデューサーとか、脚本家とか、役者とかが意見を出し合っておもしろくなっていくんですね。それは羨ましいんですよ。ただ同時に、僕、絶対できへんわと思う。放っておいてほしいって感じがある。まずはひとりで完成させてほしいし、具現化せんと気持ち悪い感覚を消化させてほしい。

水野わかります。僕は曲を作っていて、途中段階で何か言われるのも、めちゃくちゃダメなんですよ。

塩田:うわー、わかるわぁ。

水野10まであるうちの、5~6ぐらいのところで、たまたま聴かれちゃったりして。「これこうしたほうがいいんじゃない?」って言われるの、本当に嫌なんですよ。褒められるのも嫌。でも、10にしたものに意見をいただくのは逆にウェルカム。

塩田:一緒! 本当にそうですよね。気持ち悪いから、とにかく先に具現化させてくれっていう。

水野:曲を作るときにはひとの意見、聞くタイプなんですよ。たとえば、楽曲提供の話をいただいたとき、向こう側のリクエストをすごく聞こうとする。だから一見、オープンなひとのように思われるんですけど、作っている最中はまったく耳を貸さない。段階が自分のなかにあるかもしれない。そこはすごく近いですよね。

塩田:僕も編集者とめちゃくちゃ話し合いますから。


「根本的に書き直してください」って。


水野:聞いた話だと、『朱色の化身』はもう大変な書き直しをされたと。

塩田:いやー、もうねー、講談社という会社は、どうかしているんじゃないかと思いました(笑)。『朱色の化身』は、取材たくさん協力いただいて。ものすごい数の情報量です、本当に。それをやっとまとめて。初稿では、「私は」っていう一人称だったんです。

水野:全然違うじゃないですか。

塩田:沢木耕太郎さん風の感じで、「私は」って書いていたんです。取材しているテーマとか情報自体が面白いので、ストーリーとキャラクターを極力抑えようと。で、昭和30年代のところから、主人公のジャーナリストが辻珠緒というひとを探して追っかけていく設定にしていたんですね。僕自身ではフィクションとノンフィクションの間にある魔力っていうんですかね。そういうものに近づけたと思って。

水野:はい。

塩田:で、やっと完成して、送ったんですよ。もうヘトヘトです。「おもしろいです!」って返ってくると確信していました。なぜなら、10周年記念の作品なんですよ、これ。

水野:なんでしょう、漂うコントの空気が(笑)。このあと必ずオチがある…。

塩田:言っても緊張するわけですよ。編集者から返事が返ってくるのは慣れないもので。そうしたらですね、「根本的に書き直してください」って。

水野:ド直球ですね。

塩田ビックリして。え? 根本的に書き直す? と思って。これだけ苦労して取材して、苦労して書いて、何年もかかったものを、根本的に書き直す? と思って。僕いったんお風呂入ったんです。受け止めきれなくて。3日ぐらい何にもできなくて。腹も立っているわけですよ、やっぱり。

水野:まぁそうですよね。

塩田わかってないと。考えられへんと。でも、やっぱり3日ぐらい経つと、どこがあかんのやろうかと。

水野:いいひと(笑)。

塩田:そこから話し合いです。講談社は講談社で、この難解なもの、つまりキーワード型という今まで例がないものをどう扱っていいかわからないわけです。僕の信頼している編集者たちが合議で話し合っても、なかなか答えが出ない。

水野:なるほど。

塩田:で、『朱色の化身』は、辻珠緒という架空の人物を立体的にするんですけれども。有吉佐和子さんの『悪女について』という名作があって。これは27人の証言だけ載っているんです。それで富小路公子という女性を立体的にする。僕、この小説が大好きで、こういうものを書きたいって先に言っていたんです。そうしたら編集部に、「前半を証言にして、後半にジャーナリストが出てきて追う。半々にできませんか?」って言われて。

水野:はい。

塩田そのときに僕、ちょっと怒ってしまって。前半が証言ってことは、後半まで主人公が出てこないんです。そんなの読者が半分の感情移入しかできない、成り立たないって。それで僕はもういったん、この『朱色の化身』という新作を諦めなければならないと思って。編集者にメールで、「次の話し合いでダメなら、今回の話はなくなります」と。「次の話し合いが、本当に大事なものになるので、用意して臨んでください」と送って。


事実はひとつだけど、見る角度によってそれぞれの真実がある。


塩田:それでも編集部案を、最後の最後まで考えたんですよ。で、そのとき、お渡しした論考みたいなやつに自分が書いたことを思い出して。事実はひとつしかない峻厳なものだけれど、解釈という培養液に浸したら、真実というのは複数に分裂する。つまり事実はひとつだけど、見る角度によってそれぞれの真実がある。そうか、と。

水野:はい、はい。

塩田第1部の証言のパートを「事実」にして、僕が書いてきた新聞記事のように表面的な感じで辻珠緒というひとを描く。第2部の「真実」で、表面的な辻珠緒像をゆっくりリアリティーたっぷりグラデーションで崩していく。第1部「事実」、第2部「真実」にして、時系列を逆回転させる。昭和から書いてきたものを、令和から昭和にさかのぼる。令和の記者がひとを探しているってパートを、令和の証言のなかに入れさえすれば…。

水野:繋がっていくんだ。

塩田:そう。打ち合わせの8時間ぐらい前に気づいて。そこからプロットを打って、話し合いで編集者に、「たった8時間前に思いついたんだけど、こういう構成ならいけるで」って言ったら、「おもしろい!」ってなって。ようやくです。

水野:その過程も小説にしてほしい(笑)。

塩田:あはは。

水野:編集部のみなさんの言葉に対して、ギリギリまで戦い、ちゃんとそれを形にされた塩田さんがすごい。そして、バッって刺した編集部の方もすごい。両方本気で刺し合ったというか。なかなかできるものじゃないと思います。

塩田そうですね。そういう信頼関係を築くのに10年かかっていますし。『罪の声』でも大きな衝突が3つ、4つあったんですよ。それを乗り越えているもんですから。言われたとしても、「何もわかってない!」じゃなくて、「彼らがこう言うってことは、自分の死角になっているところはどこか」って考えるんですよね。

水野もうバンドメンバーじゃないですか。「あいつがああ言うなら、なんかあるんだろうな」みたいな。

塩田:そういうのあるんですか? いきものがかりさんも。

水野:あります、あります。たとえば、もう辞めちゃったんですけど、小学校の同級生の山下。「じょいふる」という曲を書いたとき、レコーディングスタジオでまだ、タイトルの文字を英語にするかカタカナにするかひらがなにするか、決まってなかったんですよ。

塩田:はい。

水野:「お前、どうすんだ?」ってディレクターに言われて、スタジオで全部の表記で書いてみて。そうしたら山下が隣にいて、「ひらがなだな」って、ふたりで同時に言ったっていう。

塩田:はぁ~!

水野:もう感覚が合っているっていうか。逆に吉岡がノってない曲とかも、やっぱりダメですね。

塩田:ええこと聞いたわぁ。言語化できない第6感というのはありますよね。音楽なんかとくにそうでしょうね。

水野:あと、これはもうファンの片思いとして聞いていただきたいんですけど、いつか音楽業界のこと書いてほしいなって思います。

塩田:あー。音楽そのものの強さってあるじゃないですか。到底かなわないなと。コンサートを観に行っても、これは小説家などには及びつかない世界だと。たとえば、いきものがかりさんのコンサートを観ていてね。3人でこの人数をひとつのところに持っていくというのが、僕からしたら考えられへんことで。

水野:僕も考えられないです(笑)。

塩田:ミュージシャンの方、本当にすごいなと思って。生まれ変わったらなりたいなって思うんです。僕は漫才師ができなくて、ステージでパフォーマンスをすることに挫折したほうなので。やっぱりいきものがかりさんのステージを観たときに、これを言語化どうやったらできるんやろか…って。

水野:裏、裏!裏に行って!

塩田:実在、実在。音楽業界っていうのもね、いろいろありそうですから(笑)。

水野:芸能とか音楽業界とか。次、何を書かれるんですかね。すごく楽しみです。

塩田:また週刊誌で連載が始まりまして、これも取材をして書いています。だから今なかなか大変なんですけれども、やっぱり取材して書くことが楽しくて。結局、自分はもうそれしかできないので。

水野:最後に伺いますけれども、何にいちばん喜びを感じます?

塩田:僕はやっぱり具現化できたとき。イメージを超えたとき。作曲されていても、時間観念が飛ぶときってあると思うんです。あのときですね。とにかく先を書きたくて仕方ないっていう。きっとおもしろいものになる、間違いないって見えていて。休憩してご飯を食べる時間ももどかしい、あの瞬間がいちばん楽しいですね。

水野:めっちゃ作り手だ!

塩田:もちろん読者の方に喜んでもらうのも嬉しいですし、順位はつけられないんですけれども。自分が没我というか。42歳になっても、興奮するとか、緊張することのありがたさっていうのは感じていますね。

水野:取材をもとにされて、外の世界を書いているはずなのに、自分の世界が出たときに快感を得るというところが、どこかいい意味での狂気というか。それはすごく作り手の方の言葉だなって。

塩田:僕、今まで数えきれないくらいインタビューしてきましたし、インタビューも答えてきたんですけど、自分という小説家を水野さんのような比喩で解釈していただいた経験がないので、今すごく楽しいです。失礼ですけど、やはりただ者じゃないなと(笑)。

水野:何言ってんですか(笑)。僕は憧れと、どこかしらいい意味での恐れを持ちながら。

塩田:とんでもない。光栄です。

水野:塩田さんの小説講座的なものを、体形立ててやったほうが絶対いいです。僕や小説を書く方だけじゃなくて、ものづくりするとか、何か社会に向き合わなきゃいけないお仕事をされている方とかは、知りたいことがたくさんあるんじゃないかなって。そういう予告をして今日は終わりたいと思います。

塩田:また、ぜひ呼んでください!

水野:本当にありがとうございました。

塩田:ありがとうございました!

水野:今日のゲストは作家の塩田武士さんでした。



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