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人生で初めて「これが…“あうん”か」って

HIROBA TALK 
水野良樹×吉岡聖恵

2019.04.08

HIROBAを立ち上げるにあたり、
あらためて話をするべきだと思った相手が、吉岡聖恵でした。

いきものがかりのメンバーとして
彼女とは10代の多感な頃から、一緒に歩いてきました。
僕と山下という、ふたりのソングライターが
吉岡という、ひとりのシンガーと出会い
いきものがかりの物語は始まりました。

家族でもないし、かといって仕事仲間と言い切れてしまうほど冷めてもいない。
僕にとって一番近い“他者”がメンバーであるのかもしれません。

20年経ってその存在について、お互いどう思っているのか。
歌うことの理由。そして喜び。
新しい日々に飛び込んでいく自分たちについて。

一緒に考えてみました。

人生で初めて「これが…“あうん”か」って

水野 よろしくお願いします。

吉岡 よろしくお願いします。

水野 あの…な、なんか…。

吉岡 う、うん。なんか、こういう対談って新鮮な感じだね(笑)。

水野 だよね。急にあらたまっちゃって…。ちょっと緊張しているような…(笑)。

吉岡 ははは(笑)。

水野 HIROBAというのを立ち上げまして、レコーディング中の雑談でも聖恵には「こんなことをやるんだよね」って話をしていたと思うんだけれど簡単に説明すると、いろんな人とコラボをしたり、対談をしたりして、作品をつくったり、文章を書いていったり…。いろんなことを、このHIROBAをベースに始めていこうと思っていて。

吉岡 そうなんだね、すごい。

水野 お、おう…ありがとう。そう、それで今回はメンバーで、なかでも歌を歌っている聖恵に話を聞きたいなと。

吉岡 そうか、対談とかの文章もHIROBAプロジェクトの一環なんだもんね。

水野 そうなんですよ。

吉岡 え!じゃあ、私、もうHIROBAに集まっちゃってる?

水野 集まっちゃってる!あなたはもう片足を踏み入れちゃっています(笑)。

吉岡 あはは、そっか(笑)。

水野 いやいや、対談に応えてくれてありがとう。

吉岡 いえいえ。

水野 まずは、いきものがかりとしては大きなことがありました。放牧というお休みの期間をいただいて。それが約2年間を経て、集牧ということで復帰しました。そこから、もうかなりのスピードで動き始めていますが、実感としてどうですか?今のテンションというか。

吉岡 テンションはね…そうだね…高め!

水野 おお!

吉岡 いきものがかりが始まった頃は3人だけの輪だったのが、(デビュー後は)たくさん助けてくれる人が入ってきてくれたおかげで、それが大きな輪になっていって、グルグル回っている感じだったんだけれど。

水野 うん。

吉岡 放牧して、休みの間に3人だけで集まったりしているときに、また昔の三角形に戻った感じがしたんだよね。

水野 ああ、そうだね。

吉岡 集牧した今も、何でもざっくばらんに話し合っているから、すごくやりやすいというか。かかってくる余計なストレスが少ないという感じがしているの。

水野 あ、それはいいね。今まではさ、メンバー同士で「お互いに迷惑をかけちゃいけない」みたいな、いい意味での緊張感があったよね。

吉岡 そうだね。

水野 だから、思うところがあっても「今はそんなことよりも、自分の持ち場を頑張らなきゃ」みたいな感じだったけれど。集牧してからは、わりと何でも言い合えるというか。

吉岡 本当にそうだね。簡単な表現で言うと、3人ともちょっと大人になったというか。

水野 ああ、それは、あるかもしれないね。

吉岡 放牧前はひとりで立つことで精いっぱいだったからこそ、今は、お互いに尊重して、尊敬もしていて、自分が立ちながらも相手の立場をちゃんと眺められるようになっていて。集牧したことでメンバーそれぞれにちょっとした余白ができたのかもしれない。

水野 余白か。なるほど。それはいい言葉だ。

吉岡 うん。いい意味での余裕というか。

水野 今回、HIROBAを立ち上げたコンセプトのひとつに「人とつながる」ということがあって。俺はひとりっ子ぽいと言いますか、人とつながることが…。

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吉岡 ひとりっ子だよ(笑)。ぽい、じゃなくて。

水野 そうそう、ガチでひとりっ子なんだけどね。人とつながることが得意ではない方で。

吉岡 まぁ、そうかもね。得意ではないかも。

水野 そんな自分が10代の頃から、自分とはキャラクターも人間性も違うふたりと、なぜか一緒にグループをやってさ。

吉岡 うん。

水野 自分のつくったものを自分ではない他の人と一緒にやる、ということで世に出させてもらったから。そこをもう少し押し進めるというか、そこに大きな…考えるべきことがあるんじゃないかな、と思って。

吉岡 うん、うん。

水野 放牧して、聖恵は歌うこととか表現することに対する考え方に変化はあったの?

吉岡 うーん。放牧前はレコーディングもそうだし、テレビやラジオでとにかく歌いまくっていたから。ありがたいことなんだけれどね。自分のなかでの歌える量みたいなものを、超えているような感じだったのかもしれないね。

水野 なるほど。投球数が多すぎるみたいな感じだね。

吉岡 そうそう。だから、お休みだし、いったん何も考えないでもいいのかなと思って半年くらい歌わなかったの。でも時間が経ったら「何かやりたいと思ったときに準備していないとできないな」とか「歌わないのも体に悪いかな」とか、思いだして。

水野 真面目か(笑)。

吉岡 はは。それで、少しずつ歌い出して。

水野 なるほどね。

吉岡 そういうところから、たまたま頂いたタイアップの話もあったりして、カバー中心のソロアルバムをつくることになったんだけれど。そこで選曲をするときに、初めて自分から物語を選んだのね。

水野 ああ、そうだよね。

吉岡 いつもは男子メンバーふたりが歌をつくってきてくれるでしょ。物語を持ってきてくれて。その物語と向き合って歌っていくじゃない。

水野 うん。

吉岡 簡単に言うと、用意されたものを歌う歌い手だったのが、歌い手の私が歌を選ぶというかたちに変わったところがあって。アルバムの世界観を自分で選んで、自分でつくっていくことが楽しいなと、あらためて思ったんだよね。

水野 そうか。けっこうな数の候補曲、検討してみたって聞いたけど。実際に仮歌とかも歌ってみて。

吉岡 そうだね。ディレクターさんと相談しながら、かなりの数を歌ってみたね。

水野 歌ってみて、合わなかった曲もあったの?

吉岡 ある、ある。

水野 合うものと、合わないものの違いは、何なんだろうね。

吉岡 合わない例で言うと、自分が歌ってみて新しいものにならないと感じる曲。歌いたいんだけど、歌ってみても、いい感じじゃないとか。それがはっきりと分かれたんだよね。

水野 そうなんだ。

吉岡 高校からずっと一緒にやっているから、私たちはいつもいきものがかりじゃない。

水野 そう、そうなんだよ。当たり前だけどさ、俺ら、いきものがかりなんだよね。

吉岡 ふたりの曲ができた時に私に合わないってことはないじゃない。

水野 ああ、そうだね。

吉岡 私が歌って「違和感あるね」ってこともないじゃない。

水野 基本的にはないよね。ないない。

吉岡 でしょ?だから、いきものがかりから離れた時に、そのすごさを感じたの。人生で初めて「これが“あうん”か」って。びっくりして。

水野 ははは(笑)。

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吉岡 3文字のひらがなの「あ・う・ん」っていうのが頭のなかに降りてきて、「これかっ!“あうん”って!」と。

水野 最高だね(笑)。

吉岡 人生でいちばん、“あうん”への理解が深まって。いきものがかりって“あうん”だなって。人からは散々言われてきたけれど。ちょっと離れてみて、あらためて分かったというか。

水野 なるほどね。他人であって、他人じゃないみたいな感じがグループ内にはあるというか。

吉岡 いつの間にか他人じゃなくなっているじゃない、この3人は。

水野 なくなっているよね。単純に学生の頃からやっているから結び付きが強いとか、そういうことだけじゃなくて、曲をつくるうえでもね。もう、互いの存在ありきで、つくられていくというか。曲も歌も。

これまでのインタビューでは「吉岡の声を意識していないです」とか言ってきたけど…。

吉岡 そうそう。

水野 なんか、すみませんでした。失礼なことを言って…(笑)。

吉岡 そうだよ(笑)。私は…もう…何なんだろうって。「じゃあ、私が歌わなくてもいいじゃん!」って思ったからね。

水野 でも、こっちからすると、結局そこに飲み込まれていくんだなと思っていたんだよね。どんなメロディや言葉をつくっても、吉岡聖恵というシンガーの歌声に飲み込まれていく。
つくっている方からすると、その感じはすごくあった。特に後半。放牧の数年前くらいからかな。

吉岡 ああ、そうなんだね。

水野 もちろん聖恵の声が素晴らしいっていうのは大前提なんだけれど、世間に認知されていって、みんなが知っている声になっていくじゃない。誰もが知っている声に。声が普遍性を獲得して、別人格になるみたいなさ。近くにいる聖恵とは違う人みたいに、その存在が大きくなっていって。

吉岡 ああ。

水野 それに対して生身の聖恵も戦っていた部分というか、葛藤はあったと思うんだけれど。やっぱり吉岡聖恵の声、みんなが知っているあの声に、飲み込まれていくな、みたいな感じは、曲を書いている俺にはあったのかもね。

吉岡 そうなんだね。

水野 でも、それが“あうん”というふうには、まだ捉えられなかったなぁ。

吉岡 いちばん感じたのは“曲と歌声のマッチング”だよね。

水野 そうか。フィットしているってことなのかな。

吉岡 そうなの。その話をしていたら、いきものがかりのディレクターでソロアルバムも担当してくださった岡田(宣)さんが、「不思議なもんだよなぁ。グループって生い立ちの寄せ集めだから」と。それがすごく印象的で強いワードだなと思って。

注釈:岡田宣。エピックレコードのディレクター。いきものがかりをデビュー初期から担当し、大半の楽曲の制作に携わってきた。メンバーが最も信頼を置くスタッフのひとり。

水野 うん。

吉岡 同じような環境で育ち、J-POPで育ち、音楽の趣味が似ていて、そんな3人が同じフィールドで一緒にやってきたわけじゃない。そのなかで、ひとつになっていったんだよね。

水野 そうだよね。
放牧中に他の方の曲をたくさん書かせてもらって、すごく思ったのは、書いている最中に意識しないでも聖恵は入ってくるというか。20年やってきて、いきものがかりの曲しか書いたことがなかったから。俺は吉岡聖恵の声で、曲づくりを覚えていったみたいなものだから。これはもう、ただフィットしているというだけの話じゃないなというか。もう…お互い半分入っている感じなのかな。

吉岡 歌声が聴こえてきちゃう?

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水野 うーん、そうだな…もう自分の一部みたいな感覚って言っちゃった方が近いかな。シンガーとソングライターとして、他人であって他人じゃないような感じが互いにあるんだろうなと思ったんだよね。

吉岡 ああ。

水野 俺さ、聖恵からソロアルバムを出すって聞かされたときに「え?カバーなの?オリジナルやらないの?」って雑談のなかで言ったじゃない。

吉岡 うん、うん。

水野 せっかくの機会だからさ。俺や穂尊じゃない、いろんな書き手の人に書いてもらったり、友だちのアーティストに頼んでみたり。いろいろやってみたら?って。

吉岡 ああ、言ってたよね。

水野 そしたらさ、聖恵は「いや、そうじゃない。なんとなくオリジナルはいきものがかりだけでいいんじゃないかって思うんだよね」って。もう、ほんとにサラッと言ったんだよね。なんでもないことのように。もう、びっくりして。

吉岡 ああ、そっか。うーん、なんだろ、あんまりイメージできなくて。本当に自然な思いで、そう言ったんだよね。

水野 それはね。実は、すごくうれしかったんだよね(笑)。

吉岡 ははは(笑)。

水野 もう、なんか照れちゃって(笑)。「え、あっ、そ、そうなの?じゃ、じゃあ、カバーがんばって、うふふ」みたいな。

吉岡 ウケるー(笑)。

水野 ふふ(笑)。

吉岡 まぁ、リーダーはフラットに意見を言ってくれるからね。放牧前も「これからどうやって活動していこう」みたいな話をしていたときに「聖恵、ソロとかやりなよ」って言ってきてくれたじゃない。

水野 うん。言ってたね。

吉岡 客観的な目で見てくれているのは、すごいなって思う。

水野 干渉したくないとか、縛りたくないっていう気持ちがすごくあるんだよね。それで、つまらなくなっちゃうことは嫌だからさ。

吉岡 「やりなよ」って言われたとき、自分が好きなアーティストとしてaikoさんやYUKIさんへの憧れがあるから、「そうか、ソロっていうかたちも長い人生のなかで、もしかしたらあるのかな」って思ったし。

水野 それは、あるでしょ。いきものがかりは前提としてありながらも、それぞれに可能性があるんだから。

吉岡 それをリアルに実感できたのは、やっぱり放牧したあとに(お仕事の)話を頂いてからだったんだよね。

水野 そうか。

吉岡 リーダーはいろんな目を持っているから、HIROBAみたいに人とつながる場所というのは、リーダーらしいという感じがするね。

水野 そうなのかねぇ。

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今は「いいじゃん、そんなの」って思える

水野 聖恵はいちシンガーじゃないですか。

吉岡 はい。

水野 なんか、当たり前すぎて、あらためて言うのも変な感じなんだけど(笑)。

吉岡 普段、こういう話、しないからね(笑)。

水野 小さい頃から童謡が好きだった女の子が、歌がずっと好きなまま大きくなったみたいなイメージが聖恵にはあるんだけれど、歌を歌う理由とか喜びというのは、ずっと同じなの?それとも年齢を経るごとに変わってきているのかな。そういったことを考えることはある?

吉岡 いちばん変わっていないのは、歌を歌う時の真剣さは変わってないと思う。

水野 ああ、それはすごいね。

吉岡 やっぱり適当には歌いたくないんだよね。

水野 それは何なんだろうね?

吉岡 うーん、分からない。でも「歌って私にとって何だろう?」と考えたら、軽い答えになっちゃうかもしれないんだけど「習慣」なの。

水野 ああ。それは面白いね。

吉岡 ルーツは、ひいおばあちゃんが教えてくれた童謡で。楽しく歌っていたら、褒められたからうれしい、さらに歌う、褒められた、うれしい、歌う、楽しい…。その繰り返し。スタートがそこだから、日常的にも歌うことが普通のこととしてあるんだよね。

水野 はいはい。

吉岡 歌うことがまず普通のこととしてあって。同時に、人に見せたり聴いてもらったりする歌はまた別の場所にあって。

水野 ああ、そういうことか。なるほど。

吉岡 そこは頑張って「こっちの方が分かってもらえるかな」とか、「こうした方が伝わりやすくなるかな」とか気を遣っているんだけれど。でも、歌うこと自体は鼻歌なりモノマネなり、勝手にやっちゃうことなんだよね。

水野 ときどき普通の会話のなかから、スッと歌に入っていくときがあるもんね。あれ、びっくりする。すごい能力だよ。自然すぎて。まったく違和感なく歌い出す。恐ろしいくらい、本当に(笑)。

吉岡 そうかなぁ。うーん、「私にとって歌って何だろう?」って放牧のときに考えたんだけれど、やっぱり歌うことは普通に自分のなかにあるんだよね。でもいきものがかりで歌うときは「ふたりがつくってくれた曲をどうやったら聴く人に感じとってもらえるんだろう?」「この歌詞、この曲の世界を、どうしたら見てもらえるだろう?」みたいなことに、いつもよりちゃんと注意するという感じ。

水野 今、ありがたいことに多くの人たちが見てくれているじゃない。それはどう受け止めているの?

吉岡 うーん。

水野 喜んでほしいのか、もしくは放っておいてほしいのか。

吉岡 放っておいてほしくはない。そこはさ、3人で共有して思っているじゃない。

水野 振り向いてほしいっていうね。それは3人とも思っているよね。

吉岡 歌っているときは…それぞれ時期によって違いがあってさ。

水野 時期ね。あるよね。

吉岡 デビューのときで言うと「水野くんと山下くんの曲はいいのに…歌は…がんばれ!」って当時のディレクターに言われたことがあったの…。

水野 ああ。

吉岡 私はすごく傷ついちゃって…。もう、なんとかふたりの書いたいい曲を…。

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水野 かたちにしよう、みたいな?

吉岡 当時の必死さで言うと…「なんとかしてモノにしなきゃ!」って。ちょっとこれは普段は言わないようなきつい言い方なんだけれど、そんな感じだったかな。

水野 うん、うん。いいね。

吉岡 そうやって一生懸命練習した焦りの時期があったり、「NEWTRAL」の頃なんかは自分の歌い方の感じがつかめたような、なんとなく形がつくられてきた時期があったり。自分で聴いても芯があるように聴こえてきたんだよね。

水野 ああ、なるほどね。俺も全部のアルバムを通していちばん好きなのが「NEWTRAL」なんだよね。あのアルバムがいちばんいい。俺はね。

注釈:「NEWTRAL」。2012年2月リリースの、いきものがかり5枚目のアルバム。

吉岡 そうなんだ。

水野 それは何なんだろうね?芯があると感じる理由って。

吉岡 うーん。全体を通して聴いた時にブレていないというか。「どう歌えばいいのかな」という戸惑いが少なかったのかな。

水野 なるほど。見えていたのかな。歌のかたちが。

吉岡 そうかもね。それはきっと作り手も歌い手も同じなんだよ。「いきものがかりが今やりたいのは、これだよね」っていう。そこが「NEWTRAL」のときは、とてもはっきり見えていたのかも。

水野 そうか。そこからまた迷うの?

吉岡 そこからね…「ありがとう」だとか「風が吹いている」だとか、私から見たいきものがかりって、すごい真面目で誠実な人、みたいな感じになって。

水野 ああ。なんか変に、大きなものを背負い始めた感じだよね(笑)。それは俺もすごくよく分かるわ。

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吉岡 自分もそうじゃなくちゃ…いけないんじゃないか…って思うようになっていて。

水野 よく「“いきものがかりさん”にならなくちゃ」って言ってたもんね。

吉岡 そうそうそう。“いきものがかりさん”の人格があるような気になって。それって別に人がどう思っていたかなんて分からないんだけどね。でも自分でそう思って縛られちゃった時期があったんだよね。

水野 ああ。今は客観的に“いきものがかりさん”みたいに見えているの?

吉岡 今は「いいじゃん、そんなの」って思えるから…今の方が自由(笑)。

水野 そうか、そうか。それはよかった。

吉岡 その時期って、世間に知られるようになってきたからというのもあったのかな。

水野 うん。そうかもね。いきものがかりという存在が、認知されて大きくなっていたよね。

俺さ、2年間の放牧中も、まぁ、今もなんだけれど、いろんな人に曲を書き続けているんだけどね。まずは自分という、あくまで水野良樹というひとりの人間がいて。そいつがいろんな側面をもっていて。いきものがかりというグループに参加しているんだというふうに、今は思っているんだよね。当たり前なんだけど。

吉岡 うん、うん。

水野 でも、前はもっといきものがかりという人格を曲で背負っている感じがしていたわけ。これは聖恵が言っていた“いきものがかりさん”と近い話だと思うんだけれど。俺そのものが、いきものがかりになって、とにかく書かなきゃみたいな苦しさがあったような気がする、今思うとね。

吉岡 そうだよね。一時期は“ありがとう”だったり、“笑顔”だったり、大きい言葉を使わなきゃいけないって、よく言ってたよね。大きい言葉しか書けなくなったみたいな。そういう時期があったけど、最近はリーダーが「何でも書ける」って、よく言うじゃない?だから私も何でもやってみたいっていうモードになってる。

水野 うん。少し俯瞰で、いい距離感で見られるようになっているのかもしれないね。もっとフラットにいきものがかりに参加している感じになっている。だから、なんでも書けるなって気がしているんだよね。いきものがかりに対して曲を書くのは、もういくらでも書けるなって。

吉岡 うん。だって確実にリーダーの視界が広がったじゃない。

水野 まぁ、確かに広がりましたね。

吉岡 しかも見たいものをちゃんと見られているじゃない。

水野 そうだね。見ることができているね。

吉岡 いきものがかりに没頭してきて、でも外の世界が見たくて。今は自分でどんどん切り拓いていって。ひとつひとつ見ているから。いいね!

水野 いいですよ。だからそれをあなたにもオススメしているんですよ(笑)。

吉岡 あはは(笑)。そうですよね。

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リーダーが飛び出してくれることで私たちも飛び出していける

水野 HIROBAだったり、楽曲提供だったりを通して、今、俺が外に出て行こうとしていることは、聖恵からどう見えていて、聖恵自身は何を考えているのかを聞いてみたいなと思っているんですが…。

吉岡 えー…めっちゃ、働いてるなって…(笑)。

水野 ははは(笑)、それは間違いない!

吉岡 何を見ているというか、忙しいときのリーダーの目の下のクマを見ている(笑)。

水野 あははは(爆笑)。

吉岡 そこに曲のタネがあるのかしら。

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水野 タネはないわ!

吉岡 とにかく、リーダーって欲望に忠実な人だなって思ったの。

水野 ああ、そうですか。

吉岡 いろいろと人に気は遣ったり、バランスを取ろうとするんだけど、最後には「やっぱり俺はやるんだ!」っていう性格だから。

水野 面倒くさいね。

吉岡 本当に行動力があるし。

水野 おお。ほめられた。

吉岡 自分の興味がある方向にバーッと走っていく姿はすごく刺激になる。やっぱり3人グループで、そこを飛び出すとファンの人もビックリするじゃない。でも、リーダーが飛び出してくれることで私たちも飛び出していけるし。

水野 いやぁ、非常にきれいに言っていただいて、ありがとうございます。

吉岡 例えば「あの人のレコーディングの風景って、いきものがかりとちょっと違っててさ」とか、そういう話を教えてくれるじゃない。

水野 やっぱり自分のホームグラウンドのいきものがかりに、持って帰りたい気持ちがあるんだよね。いろんなシンガーの方に会って、歌入れに対する姿勢も全然違うわけ。あえて練習してこないでその場でセッション的につくりたいっていう人もいれば、丁寧に組み立ててきて、一発目で「完璧です」という人もいて。

吉岡 うん、うん。

水野 人によって全然違うんだなと。しかも、経験のあるシンガーの方たちだから、実はその方々も、いろんな変遷を経てそこに至っているんだってことを雑談のなかで教えてくれたりするんだよね。

吉岡 そうだよね、変わっていってるんだよね。

水野 そうそう。そういう話を聞いて「すごいな」って思うんだけれど、俺はシンガーとしての経験がないから理解に限界がある。同じ情報をシンガーの聖恵が聞いたら全然違うことが分かるんだろうなって思って。それで伝えているんだよね。

吉岡 ああ、そっか。

水野 NOKKOさんや(石川)さゆりさんとかね。ちょっとした言葉に、本当に重みがあって。

吉岡 素晴らしいよね。そういうことをリーダーから教えてもらえるのが、本当にうれしいんだよね。

水野 自分で曲を書こうとは思わないの?

吉岡 いやぁ…。

水野 もちろん、いきものがかりで何曲かは書いているけど聖恵のなかでは、それは主軸ではないじゃない。

吉岡 うん、うん。
思うことはあるし、書きたいと思えば書けばいいんだけど、でも、いきものがかりでやるときは「歌うべきものが、そこにある」というか。やっぱり、いきものがかりはすごく外に向かったグループだから、世間の今に対して、いきものがかりをぶつけて歌詞や曲をつくるし。リーダーやホッチは世の中をいろんな角度で見ているから、そういう人が書いたものとのマッチングがいいんだよね。

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水野 そうか、そうなのかぁ。

吉岡 うん。

水野 やっぱり表現する人って自我があるというか、「私はこう思っているんだ」って言いたがるじゃない。

吉岡 はいはいはい。

水野 でも、聖恵って強い個性があるにも関わらず、向かっていくのは何なんだろうと思うんだよ。

吉岡 それは、人が書いたものに向かっていくということ?

水野 そうそう。「自分を見て!」ていう感じには100%ならないというか。

吉岡 ああ、それは自分を見てもらうより、歌を聴いてもらった方が…たぶん、大きなリアクションをもらえるっていう不思議な…そういう仕組みになっているのかな。これは、いいとか悪いとかじゃなくて。

水野 ああ。

吉岡 私が自己主張するよりも、主張のある歌を歌った方がその意味やメッセージが響くというか。

水野 ああ。なるほどね。それは聖恵にとっては幸せなことなの?

吉岡 うーん、ひとりで歌うのは趣味でもできるじゃない?でも、誰かがつくった曲に向き合ったり、自分の声が世間に少しでも届いていったりすることって、とても希有なことだと思うんだよね。

水野 うん、それはそうだ。

吉岡 だから、ひとりではできないことに夢中になっちゃうところがあるんだよね。気づいたらそういう世界にいるという方が近いかな。

水野 ああ、すごいね。そうか。
俺は「曲をつくる理由は何ですか?」って聞かれたときに、「自分の限界を超えられるから」って言うんだけどさ。俺のことは嫌いでも「ありがとう」は好きになってくれる人もきっといるわけじゃない。

吉岡 うん。

水野 俺が物理的に出会えない人にも、曲は出会っていくから。曲の方が多くの人に愛されたり、つながることができる可能性がある。だから曲をつくっているんだと、頭のなかではそう理解しているんだけど。

今、聖恵が言ったように、自分自身を出すよりも曲の方が多くの人に褒めてもらえるというか。結局、同じような構図のなかにメンバー3人ともいるんだろうな…こういうことをメンバー同士で話したことはないけど。

吉岡 いや、不思議よね。

水野 不思議だよね。話してもいないのに、同じように思っているというのが。

吉岡 やっぱり誰かと一緒に作業して、それがまた誰かに伝わることに喜びを感じるという。

水野 うれしいよね。やっぱり、そういうことなのかな。いやぁ、面白いね。

吉岡 ねぇ。

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「広場」のような吉岡聖恵の存在

水野 変な言い方だけど、聖恵さんみたいな存在が…思わず「さん」って付けちゃいましたけど(笑)。
聖恵がもはや「広場」のようだというか。いつも思うんだけど、人に愛されるじゃないですか、あなたは。

吉岡 やだ…恥ずかしい(笑)。

水野 恥ずかしいですよね(笑)。僕も照れますけれど。でも、すごいと思うんですよ!あまりに近くにいるから普段は言えないけど。愛されるというと…ちょっと大げさかもしれないけど「好かれる」というか。これは本当にすごいことですよ。

吉岡 いやいや。

水野 ちょっとした…。

吉岡 ちょっとした…広場?(笑)

水野 うん、広場、なんですよね。みんなが集まってくる。あなたのもとに。やっぱり自分としては曲を書いたら、それが聖恵の声に染まっていくというか、そのことで曲を普遍的なものにしてもらっているから。
とはいえ、あなたは、ひとりの人間じゃないですか。吉岡聖恵という人格を持った人間で。

吉岡 は、はい。

水野 あなたは、何なんだろうね?

吉岡 えっと、あっちの星から来た…。

水野 ははは(笑)。

吉岡 自分でも…あのね…分からなくなっていて。

水野 分からない?

吉岡 リーダーやほっちのつくった曲が、私の体を抜けて出ていったものを聴いてもらうわけじゃないですか。

水野 そうだね。

吉岡 不思議だなぁって。

水野 でも、あなたを通らないと、成り立たないないんですよ。

吉岡 そうなんだよね。

水野 だから、聖恵の存在は不可欠なんだよ。

吉岡 何なんだろう?

水野 俺、技術はすごく大事だと思うのね。98%くらいは技術で決まると言ってもいいくらいで。

吉岡 うんうん。

水野 それで、聖恵はすごく上手いから。

吉岡 あ、ありがとうございます!

水野 これ、なんか、メンバーで褒めあってすごく気持ち悪い状態になっていますけれど(笑)。

聖恵の歌は、練習で培ってきたものや、たくさんの経験を経て、いろいろな変遷をたどって今のかたちになっていると思うのね。それはものすごい練習の蓄積で。でも、それだけでは説明できないところもあって。

吉岡 何が起きているんだろうね?

水野 分からない…。

吉岡 うーん。私も分からないけれど、最近やっぱり歌が体を通っていくことが気持ちよくて。ある意味、自分のエッセンスや考え方だったり、今まで生きてきたことの全てが歌と組み合わさって、出ていっていると思うんだよね。

水野 ああ。

吉岡 あとは(喉という)楽器を使ってやっているという事実ね。自分の体を使っていて。

水野 うん。だから、その聖恵が人生の経験を重ねて変わっていくことで、もちろん歌も変わっていくんだよね。

吉岡 そうなのよ。変わってきてはいると思うね。

水野 でも、それが、いきものがかりにもなるという。

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吉岡 水野 (ふたりで声を合わせて)不思議だねぇ(笑)。

水野 この対談、最終的に「不思議だねぇ」で終わるという(笑)。

吉岡 でも、本当にそう思うよね。

水野 思うね。

吉岡 この3人での…集まりは…もう、不思議だよ。
でも、リーダーがこの前言っていた「いきものがかりのための人生というところから、人生のなかでのいきものがかりをどうするか」という方向に変わっていっているんだね、きっと。

水野 そうそうそう。それ、ふたりに言ったよね。その方が結果的には、見ている人にとっても、いきものがかりが面白くなる気がするんだよね。

吉岡 本当にそう思う。

水野 放牧でさ、それこそ、いきものがかりを広場と例えるとすると、いったんその広場から離れたんだろうね。

吉岡 そうだね。

水野 なんか、その広場に立ち止まるどころか、足がそのまま根っこになって、広場に根付いちゃっていたのが、一回離れて。

吉岡 そう。離れて、外から見たんだね。

水野 外から見たのかな。で、また戻っても自由はあるというか。根付いているんじゃなくて、ちゃんと足は動く。広場のなかで歩ける。走れる。その感じがいいんだろうね。

吉岡 そうだね。広場だから出たり入ったり、そうしたいときにしてさ。

水野 そうだよね。放牧前はね、自分の気持ちがあんまり曲に入らない方がいいんじゃないか、という思いがあって。

吉岡 うん。よく言ってたよね。

水野 聖恵もある種、ナレーターというか、自分を出さないということを共通認識として持っていたじゃない。俺が押し付けてしまった部分もあると思うんだけれど。それはその段階では正しい手法だと思ってやっていたんだけど、やっぱり無個性じゃダメだなって思ったんだよね。

吉岡 おお。それをリーダーが言うっていうのは、けっこう大きなことだね。

水野 聖恵は聖恵で、俺も俺で、フィルターになっちゃって、ただそこを通ればいいみたいな感じになっちゃうと、途端に愛されないというか。これはなぜだか分からないんだけど、やっぱり何か名前と顔を持っていなきゃいけないというか。

吉岡 でも、もとからあるじゃない、リーダーは。
自我もあるし、思いもあるし、曲で言っていないとしても世間に言いたいこともいっぱいあるし。

水野 うん。

吉岡 だから、それがいい塩梅で出していける時期になってきたんじゃない?

水野 ああ、そうか。バランスが取れるようになってきたのかな?

吉岡 うーん…知らん!

水野 知らんのかい!ははは(笑)。急に突き放すな!

吉岡 なんかさ、アニメのキャラクターでも自分の持っているパワーを、最初はコントロールできなくて、バーッ!って出ちゃうじゃない。

水野 ああ、それ分かりやすいね。

吉岡 出し方を練習しないと、技を使いこなせないことってあるじゃない。

水野 なるほどね。

吉岡 自分で散々出し方を調整してきたけど、自分の思いとか個性とかを、うまく出せるようになってきているんじゃない。

水野 そうか。特に最近レコーディングしている曲は自分の気持ちも入っているけど、「聖恵がこれを歌ったら、聖恵の気持ちもリンクするんじゃないかな」って思ったんだよね。

吉岡 そう、私の気持ちも入ってるのよ、書いてきてくれた段階で。

水野 うん。そうそう。

吉岡 だから、「WE DO」でも、「本当はね いつだって 私たちが主役なんです」って歌詞があるじゃない。

水野 はいはい。

吉岡 もちろん今までのいきものがかりだったら「一人一人が」とか「聴いてくれる方たちが」って言っていたんだけれど、でも、心のどこかで「私たちも主役」っていう思いもあって。

水野 そうだね。

吉岡 そこはすごく新しくて、だからリーダーがハッキリと自分の気持ちも入っているって言ってくれていることが、すごくうれしいです。

水野 はい。そこがさ、「NEWTRAL」のときとはまた違っていて。でも変化しているにも関わらず、わりと同じところに俺も聖恵もいるという。

吉岡 そうだね。

水野 これはね…。

吉岡 ほっちはどうなんだろう?

水野 穂尊がね…分からないのよ。吉岡さん!そこはあなたに聞いてほしいんですよ(笑)。

吉岡 ほっちは変幻自在だからね。

水野 あいつは何なんだ(笑)。

吉岡 じゃ、次回はほっちで。

水野 でも、意外にちゃんと話すと照れるじゃない。

吉岡 いや、ほっちと話しているときのリーダーがいちばん幸せそう!

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水野 ははは(笑)。

吉岡 好きなんだなって思う。

水野 あまりにも違うじゃない。

吉岡 ん、何が?

水野 俺とあいつの人間性はさ。

吉岡 リーダーのほっち愛はね…すごいですよね。

水野 愛憎渦巻いているんじゃないですか。

吉岡 そう、ライバルであり、やっぱり認めているしね。HIROBA TALKに来てもらった方がいいと思う。

水野 そうですね。いつか俺の覚悟ができたら。

吉岡 (モジモジする水野を見て)クネクネするな!

水野 ははは(笑)。

吉岡 その対談、見てみたい(笑)。

水野 最後になるけど、これから、どういうふうになっていきたいですか?いきものがかりだけではなく、自分の人生であったり、シンガーとしても。

吉岡 えー、難しいなぁ!
でも、やっぱりいきものがかりで3人でやっているうちは曲もふたりがつくってきてくれるし、目の前にあるものに対して自分が向かっていくということが多くて。でも、リーダーにも刺激を受けて、ソロアルバムも出しましたけど、またソロ活動なども、これから。

水野 ぜひ!

吉岡 具体的には何も決まってなくて、どうしようかなと考えている程度ですけど。

水野 うん。

吉岡 3人がそれぞれ面白いことをやっていけば、いきものがかりも自然と面白いことになっていくと思う。

水野 聖恵が変化するということは、俺も変化するということだからね。聖恵の変化は、そのまま俺の変化に直結するから。

吉岡 そうだね。

水野 聖恵だけじゃなく、穂尊もそうだし。やっぱり、どこか半分つながっているから。他人であって、他人じゃない。

吉岡 本当にそうだよね。

水野 だから「どんどんやりなよ!」って言うのは、その変化がこっちにも来るから、それが楽しみなんだよね。

吉岡 そうか!リーダーは人にも言っているけど、自分に対して言っている部分もあるのか。

水野 そうなんだよ。だからソロも。いつかオリジナルも。

吉岡 うん。

水野 back numberってバンドに清水依与吏っていうのがいるんだけど、彼に書いてもらって(笑)。

吉岡 いや、実はこの前、やるとしたら書いてくれる?って聞いたの。

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水野 おお。じゃあ、これを公に出して圧力をかけるという(笑)。

吉岡 ぜひ、この対談を依与吏さんに見てもらって(笑)。でも、この人に書いてほしいなって思う人を何人か想像したりはしているから。

水野 ああ、いいね!

吉岡 そう。

水野 今度は聖恵とその人のやり取りの中で「こういうことがあったんだよ」っていうのをフィードバックしてもらえたら、お互いにいい変化があると思う。

吉岡 面白いグループになっちゃうね。

水野 なると思うんだよね。いやいや、いろいろ聞かせてもらいました。というわけで、今日は本当にありがとうございました。

吉岡 ありがとうございました!楽しくて、すごいしゃべっちゃった(笑)。

(おわり)

吉岡聖恵(よしおか・きよえ)
1984年生まれ。いきものがかりのボーカル。
確かな歌唱力とあたたかみのある歌声は、老若男女問わず幅広い世代から支持されている。
2018年10月に初のソロ作品としてカバーアルバム「うたいろ」をリリース。
吉岡聖恵オフィシャルサイト

Photo/Kayoko Yamamoto
Text/Go Tatsuwa
Hair & Make/Ryosuke Hasegawa
Styling/Masaaki Mitsuzono

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ソングライター水野良樹が主宰するHIROBAの公式noteです。 『考えること、つながること、つくること』 その3つを豊かに楽しむための広場=HIROBAをつくっていく試みです。 定期購読マガジン『HIROBA公式マガジン』のご購読もよろしくお願いします。
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