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HIROBAをブレないものにしたいという気持ちが強い

HIROBA 水野良樹インタビュー
2019.5.13

HIROBAの立ち上げから約1カ月半が経過。
本人による楽曲制作の過程を振り返る原稿や、さまざまなクリエイター、ミュージシャンとの対談、制作スタッフのインタビューなどを通して、少しずつその輪郭が見えてきたがこのタイミングであらためて「HIROBAとは何なのか」ということを分かりやすく説明する必要があるのではないだろうか。
HIROBAとしては初となる水野良樹のインタビューというかたちで、HIROBAを始めた経緯や今の心境について迫っていく。

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何か表現活動をして世の中に届けるというフォーマットは、ひとつだけではない

──HIROBAの立ち上げから約1カ月半経ちましたが、今の率直な心境はいかがですか?
いやぁ、どうしていきましょうね(笑)。思っている以上に大変だし、でも静かに反応も出ているので、それに希望を感じつつ、どこまでやれるかなという感じですね。派手にいろんなニュースを出せるとか、ビッグイベントが起きるみたいなことは、もとから想定していなかったので、予想通りといえば予想通りですけど、ここからどう広げていこうかなという気持ちでいます。

──具体的にはどういったことが大変ですか?
やっぱり作業量ですね。スタッフのみんなに助けてもらっていますけど、例えばテキストコンテンツをつくるにしても、進行スケジュールを立てて、原稿を作成して、校正して、写真を選んで、対談であれば相手の方に確認をすると。そういった一連の作業は大変なことですよね。

──スタッフからすると、水野さんの作業の方が大変じゃないかなと思いますよ。
いやいや。僕は好きでやっているだけですから。自分で原稿を書くのも楽しいですし、対談原稿をまとめてもらって、あらためて読むと「この人が言っていた意図はこういうことだったんだ」と、そこで新たに気づく瞬間があって。それは楽しいですよね。楽しい分、どんどん作業量も増えちゃうし、「これもこうしたらいいんじゃないか」というアイデアが次々と出てくるから、それを実現するにはどうしたらいいかと考えて進めることは大変といえば大変ですよね。でも、楽しい悩みみたいな感じですね。

──対談原稿もそうですが、甲斐さんやejiさんのように対談ではないインタビューでは、水野さんは原稿が出来上がって初めてその内容を知ることになります。それはまた新しい感覚で楽しかったんではないでしょうか?
いやぁ、それもまた面白くて、自分のコントロールにないところにあるからこそ、客観的に見えて面白いんですよね。僕がその場にいないからこそ、忌憚なく言っていただいた部分もあるでしょうし。それはすごく新鮮なことですよね。

僕自身の表現活動というところだけではなく、僕にまつわるところで、僕ではない主体の人にインタビューをすることなどで、僕が把握していないものが広がっていくというのもHIROBAの在り方だと思うので、どんどんやっていきたいですね。アイデアレベルで言うと、あるひとつのテーマについて複数の方々にお話を伺っていく企画であったり、同じような志を持った方に連載を担当していただいたりと、本当にいろんなやり方があると思うので、かたちにしていきたいですね。

──HIROBAの今後について話を進めていく前に、HIROBAを立ち上げたきっかけや経緯をあらためて振り返っていただけますか?
幸運なことに、僕はいきものがかりというグループで世に出ることができて、ひとつのグループが世の中に知られていくという過程を一通り経験することができました。

メディアの方々との関わりにおいても、最初はなかなか声をかけていただけるような立場にはなくて、こちらからお願いをして取材していただくといった状況で。でも、だんだんと興味を持っていただけるようになり、関わり方も密になって。ひとつの音源をつくるにも関わる人が増え、ツアーをやるにしても最初はスタッフとメンバーだけの7、8人で全国をまわっていたのが今では100人近いスタッフが帯同するようになりました。

そういった全ての段階を一通り経験することができて、そのなかで、やっぱり音源でも文章でもライブ演奏でもいいんですが、何か表現活動をして世の中に届けるというフォーマットは、ひとつだけではないんじゃないかなということはすごく感じていて。もっと自由に柔軟に、複合化していてもよくて。それを試すことができる場所が欲しいなということはずっと思っていましたね。いきものがかりの放牧をある種の契機とするなら、放牧に向かうまでの数年間もずっと思っていました。

作り手としての視点と、それを届ける際の視点のふたつがあって。そのどちらに対しても何か違和感や疑問を感じていて、もっと新しいかたち、もっと柔軟なかたち、もっといいやり方があるんじゃないかって思ったんですよね。つくる方としては、グループで求められる役割があって、グループが目指そうとしているところがあって。ただ、それに安住していると作り手として死ぬなという思いがすごくあるんです。同じことを繰り返してしまったり、求められることに応えていれば基本的には存在を認めてもらえるので、そうすると作り手として刺激を求めなくなってしまうというか。それはよくないとかなり前の段階から思っていて。もちろん、いきものがかりでやってきたことを否定する気持ちはまったくなくて。そうではなくて、外を知らないと、ここ(いきものがかり)の良さも分からないから、外を知りたいという気持ちがすごく強かったんですよね。

ただ、外に出ていくときに「水野良樹のソロ活動です」という文脈でいくと、それはいきものがかりというグループがあって、そのサイドストーリーでしかなくなってしまうので、結局いきものがかりでやっていることと変わらないので、それは意味がないなと。失敗して小さく終わってしまうでしょうし。だから、ソロ活動ではなく、まったく違う城を一度つくるんだと。そういったことを考えていろんなアイデアを出すなかで、今のHIROBAにつながって、なかなか一言では言い表せない試みで…プロジェクトという言い方をしていますけど(笑)。

いろんなアーティストと曲をつくる以外にも、今考えているのは、コラボレーションするアーティストを最初から決めることに囚われず、まず曲をつくって、歌ってくれる人を、それこそもっとオープンに探してみようとか。ありそうでなかったことをちょっとずつやっていきたいなと。

ただ、それを「新しいことです」「今までとは違うことです」と声高に言ってしまうと、どうしても今まであるものを否定するところから始めなくてはいけなかったり、もしくはセンセーショナルなものにしたくなってしまったりして。なぜかと聞かれると困ってしまうんだけど、そういうふうにはしたくなかったんですよ。センセーショナルなものにしたり、激しい言葉を使って「今までの既成概念を壊して新しいものをつくるんだ」ってなると、壊すことにかなりのエネルギーを削がれてしまうし、壊すこと自体がエンタメになってしまうので、それは非常につまらないなと思うんです。

だから否定から始めるのではなく、静かに、声高に言わず…すごくシャイなやり方だと思いますけど(笑)。それはすごく大切にしたいなと思っているんですよね。

こうやって過程を話したり、音楽畑の人間が原稿を書いたり、作品や記事などのすべてのコンテンツをなるべく自分の権利のもとに置こうとして、可能な限りリスクを自分で背負うというのは、センセーショナルに書こうと思えば書けると思うんですけど、そうではなく、なんか当たり前のこととしてできたらいいなと。成功するかどうか分からないですけど、仮に10年続けられたら、なんとなく見えてくるんじゃないかなと思いますね。

──そういった思いで実際に始めてみて、何か考え方や行動に変化はありましたか?
うーん、そうですね。HIROBAを強くしたいというか、ブレないものにしたいという気持ちが強いですね。そこを大事にすることは地味に見えることかもしれないですけど。

4月に「YOU」をリリースしましたが、それを世の中に届けることってすごく難しいことじゃないですか。小田さんは名前のある方で、当然みんな知っていて。今までのいわゆる宣伝というやり方であれば、小田さんのお名前があったらワイドショーで取り上げていただけるとか、僕がラジオキャンペーンに出たりとか、そういうこともできるんだけど、わりと断ってしまって。それはレーベルの宣伝担当者からすると「CDを売りたいんじゃないの?」「作品の良さを届けたいんじゃないの?」ってなると思うんですね。でも、今までの手法ではなく、作品の持っている品というか力強さといったものを自分のコントロールできる範囲で伝えていきたいなと。今までだと、すでにあるメディアの力を借りて、雑誌でもテレビでも宣伝していただけるのでノーギャラで出て、ある程度決まった質問に答えてということに対して、誰も疑問に思ってもいないですよね。もちろん、それはまったく否定することでもないですし、今でも僕らはやっているので。

でも、そこではないところで活路を見いだしていかないといけないし、だから自分でメディアを持って、小田さんに聞いた言葉をもとに自分で原稿を書いて「こういうことがありました」「こういう思いでつくりました」ということを伝えているわけで。確かに他のメディアに比べたら届く層が狭いし、自分から情報を取りに来てくれる人じゃないと読めない記事だし、本職のライターさんが書いたらもっと分かりやすく伝えられるかもしれないところを、僕が書くと遠回りをしてしまうかもしれないけど、でもそこに意味があるんじゃないかと思っているんですよね。

もし、テレビ局の方が興味を持ってくださって「小田和正といきものがかりの水野良樹がコラボレーションします」みたいな、わりと分かりやすいニュースにはなるとは思うんですけど、本質はそこにはなくて。もちろん、小田さんも本質はそこにはないと思っていて、それこそ「YOU」のレコーディングで「水野が一人で歌った方がいい」って言うくらいですから。「俺と一緒にやることでCD売れよ」なんて、つゆほども思っていないですよね、当たり前ですけど。出会って13年経って、僕がいろんなことを考えて悩んでいるということを横で見てくださっていて、今回初めて一緒に曲をつくるということに応えてくださった。小田さんが思う何かしらをやり取りのなかで伝えてくださったということに意味があり、僕はそこにぶつかっていったことに意味があるから。それをなるべく、フィルターを通さず、ブレずに伝えたいというのが今やっていることなんですよね。

──それに対して、いきものがかりのメンバーだったり、近しいスタッフであったり、周りの人の声というのは何か聞こえてきましたか?
いや、まだ…全然理解されていないですね(笑)。でも、何人か興味を持ってくれて「あの対談ってどんな感じだったの?」とか、僕に直接聞いてくれる人もいますし。例えば「I」のアレンジをしてくださったejiさんは、いきものがかりのレコーディングでも何曲も演奏していただいたり、アレンジでもお世話になっていて、いきものがかりの水野良樹として接していたと思うんですよ。でも、制作のなかで、そことは違う部分に気づいてくださって、すごくうれしいことに共有できた部分がたくさんあって、たぶん僕に対する意識は変わっていると思うんですよね。なので、そういう人が出てくると、だんだんと理解者や仲間が増えていくんだろうなと思いますね。

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僕たちが挑戦していかないと今からスタートする若い人たちは挑戦できない

──以前、雑談のなかで「他のアーティストや若い世代がHIROBAと同じような試みをしてくれたら」とおっしゃっていましたが、詳しく伺えますか?
日本国内の音楽エンタメの世界って1990年代後半から2000年代前半にかけて、ビジネス的にも非常に世の中にフィットして、映画やドラマの主題歌だったりCMソングだったりと、主要な娯楽やメディアコンテンツにJ-POPが絡んでいって、それが全部うまくいって、社会への影響度の面でも、権利収入の回収の面でも、ほぼ完璧なフォーマットができたんですよね。そこでお金がたくさん生まれることによって、新人だったり新たな才能だったりが発掘されて育成されたという良い循環があったのは確かで、それを否定する必要はまったくなくて。

ただ、その当時のフォーマットを今に当てはめるのは無理があるんですよね。テレビやラジオとの関わり方のフォーマットが用意されていて、その出方も準備されていて、そこにみんな疑問を抱かず、変えようとすることもなくて。アーティスト側も不満を持っていたとしても、言えるような立場の人だけではないし、パワーバランスのなかでみんな生きているから。もちろんみんな意地もあって「なんでだよ!」って言いたいこともあるけど、それを表に出せるタイプの人たちばかりでもないし、出すことを良しとしない人も多くいるから、なんか不健全だなと思うことが少なくないんですよね。そうなったときに、もうちょっといいやり方があるんじゃないかと。

僕は、仮にこのプロジェクトが失敗したとして、自分でリスクを取っていますといっても、いきなり生活できなくなったり、何かが壊れるというところまでのリスクは取っていないんですよね。それは少し前の世代の、既存の音楽業界のシステムがまだかろうじて機能しているときに運良くデビューして名前を知っていただけて、同世代に比べたら大きな額のお金をいただける機会をたまたま得て、生活ができているからこそ、できる挑戦であって。でも、僕たちが挑戦していかないと、今からスタートする若い人たちはそんな大きなリスクをとる挑戦はできないじゃないですか。僕が挑戦したり失敗したりして何かやってきたことが良くも悪くもひとつの前例となって、もっと受け手にダイレクトに届けたいと思っている人たちに「あいつ、あんな失敗してたよ。俺はもっとうまくできる」とでも思ってもらって、実際に届けられるようになっていったらいいなというように思います。

──HIROBAはソロプロジェクトと言われることが多いと思うんですが、そうではないことを分かりやすく説明していただけますか?
そうですね、その説明は難しいことではあるんですが…。僕の場合は自分で詞曲を書いて自分で歌う作品もあると。そうすると「それはソロプロジェクトですよね」ってなるんですよね。でも、例えばThe Chainsmokersみたいにソングライターとプロデュースワークをする人がいて歌い手がいるといった、いろんなスタイルがあるのは当たり前だし。今、シンガーソングライターという言葉で表現されるスタイルじゃなきゃいけないことはないですよね。それだけがクリエイティブで、それだけがアーティストというわけじゃなくて。それはすごく当たり前のことなのに、既存のシステムで成功した、自分の言葉を自分で歌うスタイルのかたちはこういう名前なんだみたいなことが日本のお茶の間では定着しすぎてしまっていて、バンドとはこういうもの、アーティストとはこういうもの、シンガーとはこういうものと。でも時代に応じて、作詞や作曲をする人が別にいたということはあるし、ジャンルによってもスタイルは変わるし。もっと柔軟なのに、あるグループの人がひとりでプロジェクトを始めて、しかも自分で歌ってる曲もあると「それはソロですね」という画一的な表現になって…それはちょっとつまらないですよね。

今後予定されている曲も僕がつくってはいるけれども、歌っている人は全然違うとか、歌う人もコラボというかたちではなく、例えば公募にしてみるとか、今までのスタイルをアレンジしていくというか、ゆるやかに解体していくようなことをしていきたいんですよね。水野良樹が何かエンタメをするときは、“水野良樹専用フォーマット”を自分でつくると。僕は原稿を書くことが好きだし、違う分野の方と話をすることも好きだと。そういった表現方法があるから、今のHIROBAはこうなっているだけで、例えば音楽をやっているけれど映像をつくることがものすごく好きだという人は、映像で表現したらいいと思うんです。それぞれのフォーマットを持てばいいはずなのに、「音楽アーティストとはこういうフォーマットであるべきだ」みたいなことが、みんなが意識しないうちに浸透しすぎているという現実に違和感があるんですよね。

今はSNSで個別に発信できるので、誰でも自身のイメージ像をつくることができますよね。「自分はこういったカテゴリーで、こういう視点で見ています」というように、自由に表現されている方もたくさんいて。そういうなかで、エンタメの最前線にいる人たちが「アーティストとはこういうものだ」というフォーマットに乗って、そこを追い求めていることに疲弊していっていることは、時間も労力ももったいなさすぎると思うんです。

ちょっと前までは、CDという形態で音源を売るということがかなり重要な価値を占めていて、そこで利益が出ないとアーティストとしては「ヒットしていない」なんて思われてしまう風潮もあった時代があって。でも、今はそうじゃないですよね。ライブで利益を上げられる人、音楽から派生するグッズで利益を上げられる人、それぞれに自分たちの長所を生かしたフォーマットで自由に活動できるはずなのに、それがうまくできていない現状があると。なので、そこを変えていくというか、自由なやり方を試してみるということですね。

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理想とする活動は、自分のレギュレーションでなければ、実現することはできない

──そういった自由なやり方を試すことで、どういった反応があるのかを見てみたいということですよね。HIROBAの編集としての立場で言うと、水野さんが自分で原稿を書いてフィルターを通さずに発信することは、ものすごく意義のあることで、他のメディアにはできないことだと思います。表現したいことに合わせて、文章であったり、音楽であったりと、アウトプットの仕方を変えるということは自然なことですよね。「『HIROBAとは何なのか』を表現する言葉は見えてきましたか?」という質問をしようと思ったのですが、これまでの話を踏まえると、表現する言葉があることによって、逆に柔軟性や自由を失ってしまうのかもしれないとも思いました。
そうですね。「何なのか」ということの名前を付けることは大事だと思っていて。だけど、それを間違えると、言葉によって限定されてしまって、狭くなってしまいますよね。その危惧はあります。ただ、いつかは付けられるようになったらいいなとは思っているんですよね。

インターネットだって、ホームページだって、最初は何だかイメージできなかったと思うんですよね。今は名前もついているし、みんななんとなく理解しているけれど、最初は「それは結局、何なの?」って。 SNSだってそうですよね。僕は最初に触れたSNSがmixi(ミクシィ)だったんですが、mixiを初めて知ったときに「会員制のサービスでね」って言われて、「怪しいやつ!?」って(笑)。「日記を見たら“足あと”がついてね」「“足あと”って何ですか?」「お金取られるんですか?」「いや、無料なんだよ」「うーん、どういうこと?」みたいな。最初はイメージが何もないので分からないんですよね。

HIROBAで言うと、いきものがかりのコアのファンの方たちからすると、「いきものがかりのメンバーで、曲を書いていて、ああいうキャラクターで、ライブでこんなことをしゃべっていて」というトータルイメージがあって、そこからしか想像できないと思うんですよね。ソロ活動とか、今までにある言葉で理解していくことになるので。そうするとすごく狭いものになってしまうんですけど、そうではなくて、あるひとりの人間が自分の特性を生かしてメディアもやるし、コンテンツづくりもするし、総合的な表現をしていく。その活動の場でさまざまな人とも出会い、インプットもその場で行い、さらにそのインプット自体もコンテンツ化して見せていくと。クリエイターとして拡張し、成長していく姿がすべてそこにあって、それが他社のメディアの影響や介入を受けずに独立して存在していて、世の中に届けられるというシステム。それが完成すると、僕程度のつたない才能では大きくならないかもしれないけど、もし、すごい才能を持ったアーティストがそういうシステムで活動できたら、もっといろんなチャンスを掴めるかもしれないし、もっと面白くなるんじゃないかなと。

少し話が変わるんですけど、レーベルや芸能事務所といった組織があって、そこで育成や支援をしっかりとしてもらえて、さらに表現を世に届けるうえで必要な仕事もしてくれて、成り立っていますよね。その分、アーティストは失うものもあって、例えば意志決定の権限であったり、もちろん尊重もされるけど、シビアにはそうではない場面もある。ただ、CDが売れなくなったり、パッケージというかたちにこだわらなくてもいいという流れになってくると、媒介物を扱うノウハウや資本がいらなくなるから、相対的に組織の人の力が弱くなって、「じゃあ、自由にやろう」となったところに、今後はサブスクリプションやプラットフォームビジネスの人たちが間に入ってくるようになって「Apple Musicに入れましょう、Spotifyに入れましょう、AmazonのラインアップにCDが入ります」と。

でも、そのプラットフォームを例えば大きなショッピングモールと例えるなら、僕らはそのショッピングモールのレギュレーションに従わないといけないわけですよ。人気のプレイリストに入りやすいフォーマットにして成功する人もいて、それは面白い発想ではあると思いますけど、結局はそのレギュレーションに影響を受けることになるんですよ。大衆音楽の歴史はそのレギュレーションに影響を受けてきた歴史そのもので、レコードの尺に合わせて音楽をつくる、ラジオで放送できる尺や聴こえやすい帯域に合わせた音楽に収める、テレビが台頭してきたら、そのテレビに合う構成にすると。もちろん、それで進化してきた部分も大いにあります。

「今はもうクリエイターの時代で、組織に頼る必要はない」と先鋭的な人は言うかもしれないけど、仮にレーベルや芸能事務所がなくなったとしても、違う巨大な組織が現れるだけで、何も状況は変わっていないと。「なぜ、サブスク解禁しないんですか?」って、まるでアーティストが後進的かのように言う人もいるけど、結局はレーベルからサブスクに移動しているだけで、影響力を受けていること自体は同じで。プラットフォーム側もそれは分かっているから、コンテンツを奪い合う戦いになるんですよね。そうすると今度はコンテンツを奪い合うことから、コンテンツを自分たちでつくるようになって、同じ構図になっていくと。レコード会社がプラットフォームに変わるだけで。そうすると強くなるのはやっぱり作り手の人たちですよね。これから技術が発達して個人がお金や信用のやり取りをもっと自由にできるようになっていくと思うんですけど、そうするとプラットフォームもメディアも必要ない時代が絶対に来るはずで。それを踏まえると、自分の城というか家というか、そういったなかで独自の表現活動のフォーマットをつくることができるような試行錯誤を今のうちにしておいた方がいいということなのかもしれないですね。

これを作家の人がやってもいいと思うんです。そういうことに気づき始めている人は、例えばnoteみたいなサービスを使っているだろうし。noteのようにクリエイターに還元できるようなサービスもできてきていますよね。その流れが押し進められていくなかで、アーティスト側からそういうことに挑戦する人が、実は少ないと思うんですよ。そういったことを考えることよりも、目の前にあるものをつくりたいという人がほとんどですし。あとは、お金を稼ごうとか成功しようとすることに対して、特に日本は、マイナスイメージに捉えてしまう風潮があるので、なかなかやりづらいんですよね。ものづくりにお金が必要になるのは当たり前なのに、そこを回収しようとするアクションは、前面に出ると嫌われるというか。だからこそ、アーティスト発でやってみたいという思いもあります。

例えば、僕が自分で書いた原稿や対談コンテンツをnoteのようなサービスに出したら、少ないながらも売り上げも上がって、金銭的な負担はわずかに減るとは思いますが、そうするとそのサービスに甘えてしまうことになるので、そうではなくて一度自分でやってみて、失敗も成功も経験して、要素を洗い出しておくと。そこが大事だと考えています。

──HIROBAを運営する費用は、水野さんが負担しています。
自己の責任のもと、リスクを取るという視点が大事で。儲けようとは思っていないじゃないですか。正直、儲からないし(笑)。今までのやり方を否定するときに、例えば、レーベルや芸能事務所のやり方を否定することって楽なことなんですよね。誰かを悪者にしてね。でも、彼らは全然、悪者ではないし。レーベルや芸能事務所は投資をして、しかも成功確率がかなり低い投資ですよね。アーティストと対峙することは大変なことですし、通常のビジネスでは考えられないような感情的負荷のかかる場面も多々ありますし。そういった難しい状況のなかで、投資をして、権利を取って、ビジネスをしているということは、すごく真っ当となことだと思うんです。だからそこを否定することはまったくなくて。自分の作品に対して、自分でお金を出していれば権利は自分のもので、それは当たり前のことですよね。契約の問題があるので、公にはできないですけど、HIROBAの音源の権利を僕は100%は持ててはいないです。それは契約上のことなので、誰が悪いわけでもない。正当なかたちで自分の権利を主張していくという姿勢はこれからみんなが持たなければいけないと思うんですよね。

自分が理想とする活動をするには、やっぱり自分のレギュレーションでなければ、その理想を実現することはできないので。そのためには、記事や楽曲の権利を自分で持たないといけないという意識があって、自分で負担しているということなんです。それを声高に主張するつもりはないですし、当たり前のことですよね。自分で負担すると、スタッフのみんなと向き合うときにも「僕はこういうことがしたいんです」という主張が正当にできますよね。それに対して、みんなも考えていろんなアイデアを出してくれて。自分以外の誰かが負担していると、自分の発言に説得力が出ないというか。そのときに交渉するのも自分以外の人になってしまいますし。それは今までのシステムと変わらないですもんね。

──HIROBAのサイトの見せ方にしても、イラストにしても、すべて水野さんの理想に基づいてかたちにしていったものになります。
理想の表現を実現することは…やっぱり難しいですね。でも、スタッフのみんなは僕の理想に共感して、それを実現することに喜びを感じてくれているのがすごくうれしいですよね。本当に名前付けは大事で、仕事というと急に苦役のような印象にもなってしまいがちだけど、みんなの楽しさが集まるような場所になるといいなと思います。僕は金銭的なリスクを背負っているだけであって、関わる人それぞれが考えて試行錯誤するといった、向上心や積極性のようなものが渦のようになっていくと、絶対にいいものができると確信しています。共感してくれて、少しずつ仲間が増えていくのは本当に面白いですね。RPGみたいな感じで(笑)。

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他者と接すると自分の輪郭がはっきりしてくる

──HIROBAの対談のなかで新たな刺激を受けたり、相手の言葉から新たに気づくこともあるかと思います。
糸井さんの「弟の役をやりたいんじゃないか」っていう一言は、本当に辛辣だったなと(笑)。「確かにそうだなぁ」という感じですよね。今、対談相手の方々に甘えている状態ですからね。

参照:HIROBA TALK 水野良樹×糸井重里 動機は、遊んでもらうことそのもの

最初の楽曲が小田さんとの作品だったので、まさに懐に入って向き合っていただいたというか。だから、糸井さんには本質を突かれてしまったなと。そこで課題意識が芽生えましたよね。それこそ、「下の世代に声をかけてみよう」とか。崎山蒼志さんはたまたまラジオ番組で対談ができてすごくよかったですし、中村佳穂さんとも別のメディアの企画で対談しました。これから、若い世代の方にも会っていく機会が増えると思うので、逃げちゃいけないなと思いましたね。

最初の立ち上げの時点では、どうしても関係性が強い方や気心の知れた方と話すことが多かったので、少しずつですが初めて会う方ともお話したいと思います。曲をつくるにも、もう少し挑戦的なことをした方がいいかなとか、そういったことを考えていますね。

──自身の創作の原点であったり、自分はどんな人間なのかといった問いがあると思うんですが、それに対するヒントのようなものが対談のなかにあるのではないかという気がします。
水野
 ふたつあって、ひとつは他者と接すると自分の輪郭がはっきりしてくるという、逆説的なことなんですが。高橋さんとの対談で、「どこから詞のヒントを得ますか?」という質問をしたときに、彼女と僕の視点は全然違っていて、同じような風景を見ても違う言葉が出てくるじゃないですか。書き方の出口のかたちも全然違っていて、僕は抽象化していくけど、彼女はもう少しリアルな写実的な表現をすると。

参照:HIROBA TALK 水野良樹×高橋久美子 本当の気持ちを書くってことが大事だと思う。それに勝る詞はない

そういった違いが会話のなかで浮かび上がってくることで、「自分はそういうことに重きを置く人間なんだ」ということが分かってくる。そうすると自分の輪郭がはっきりしていくというのは、すごくあるんですよね。他者とは分かり合えないとは言いながらも、他者と話をしていくと、そこで自分に気づいていくという実感がすごくありましたね。

もうひとつは、自分という存在は複合的なもので他者を内包している。僕は両親から生まれて、いろんな人に出会って。山下と吉岡に出会っていなければ、人生がほぼ動いていないですから。山下と吉岡に出会ったことが僕の人間性にかなりの影響を与えているというか、彼らとの出会いによって僕という人間が形成されていると。吉岡との対談のなかでも言ったんですけど、僕の曲づくりは吉岡というシンガー込みで育ってきたものだから、僕の肉体に吉岡が半分入っているというか。

参照:HIROBA TALK 水野良樹×吉岡聖恵 人生で初めて「これが…“あうん”か」って

「僕が変わると吉岡も変わるし、吉岡が変わると僕も変わるというような、グループってそういうものだよね」という話もあったんですけど、僕のなかにはいろんな他者が入っていて、いろんな影響を及ぼしているんだなということを感じましたね。それこそ、小田さんとは長い時間向き合って曲をつくらせていただいて、小田さんの考え方や手法が、僕が意識していなくても内省化されていって、そうすると僕は変わっていくというか。僕は他者によってできているんだなと。

このふたつは対談を通してすごく感じました。これから違う分野の人に会ったり、違う考えを持った人とものづくりをするともう少し自分を変えるというか、蓄積ができるのではないかという面白さはあると思いますね。

小田さんがすごいのは、「YOU」をつくり終えたときに、「これで終わった気がしないんだよな」とおっしゃっていることですよね。まさにその通りで、僕がここから変わっていくんだろうということを予想していて、同じ歌詞の言葉でも水野が全然違う意味を与えて歌うときが来るということを直感的に分かっておっしゃっているんだろうなと。HIROBAを続けていって、10年後に「YOU」と「I」の2曲を歌ったら、「小田さんはそういうことを言っていたのか!」となる気がするんですよ。その日が楽しみですよね。

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基準値を変える作業というのもHIROBAがやるべきものだと思う

──甲斐さんやejiさんとはこれまでの制作も含めて付き合いが長いと思いますが、おふたりの言葉からはどんなことを感じましたか?
甲斐さんは、レコーディング現場で10年以上も僕を見てくださっているので、僕が普段は表に出していない部分もけっこう知っていると思うんですよ。でも、それはいきものがかりの僕なんですよね。それ以外のことがあるだろうというのは予想はしていただろうけど、実際に目にするのは初めてなので、そこに新鮮さはあるんだろうなと思いますね。クラスの友達の違う一面を見たというような(笑)。習い事の時だと普段と全然違うなみたいな(笑)、そんな感覚に近いかもしれないですね。ejiさんとは現場ではもちろん話をしたりはしますけど、それ以外では接する機会が多くはなかったので、新たに出会い直したみたいな感じがあると思うし。

参照:「I」制作舞台裏インタビュー 甲斐俊郎 水野くんが興奮してスタジオのなかをウロウロし始めると「よっしゃ!」って思います
参照:「I」制作舞台裏インタビュー eji いい曲があったら、もう答えはすぐそこに見えているんだなと強く実感しました


(高橋)久美子ちゃんも、あの対談の量の半分くらいしか、今までの人生で話してないですし、総時間でいうとね。ただ、同世代として横目で眺めていたし、お互い思っていることがあるということをあらめて対談で実感できたのはよかったですよね。(吉岡)聖恵だって、あんなふうに話をすることはないですからね。グループとしてオフィシャルに話すときはお互いに勘所が分かっているから、「相手がこう言ってきたら、こちらはこう返すよ」みたいなことが意識しなくても決まっちゃってるんだけど、HIROBAでの対談はそれとは違ったかたちになっていたと思います。

──最後の質問になります。今後HIROBAでどんなことをやってみたいですか?
いやぁ、いろいろありますけど、できる限り曲をつくりたいです。あとはリアルタイムでやるイベントですね。それはライブなのか、もしくは配信というかたちなのか、何か時間軸の見えるものができたらいいな。それには準備も必要だし、資金も必要なので、なかなか難しいですけど。あと、今回のインタビューの意義にもつながりますが、今まで「HIROBAとは何なのか」という説明をしなさすぎたなという反省があって(笑)。僕がTwitterでつぶやいたりはしていますが、これからもっと広く、いろんな人に伝えてもらえるように仲間たちを増やしていかないといけないなという課題意識を持っています。

実際にHIROBAを始めてみて、予想以上に伝わらなかったな…という感覚があって。固定概念で見られて、やっていることが理解されないことが多くて。伝えることは難しいなとあらためて思いましたね。僕自身がちゃんと説明できていないということなんですが、やっぱり基準をしっかり持つことが大事なんですね。僕らも模索しながらやっているので「HIROBAとは何か」ということを時間をかけて丁寧に伝えていかないといけないと思っています。

──やはり、いちばんやりたいことは楽曲制作になるんですね。
そうですね。曲をつくる人間なので、そこをちゃんとやりたいなと思います。そこで派生してくるストーリーもあると思うので、それもコンテンツとして見せていければいいなと。歌い手を決めないで楽曲をつくって、それを複数の歌い手に歌ってもらうということも面白いと思うし、そういったやり方はジャズなんかだとよくあることなんですけどね。スタンダードがあって、演奏者によって、時代によって、または場面に応じて変わっていくという。ポップスはある型があって、この人が歌わないとダメみたいな部分があって、それはいい面もありますが、もう少し違ったやり方もあるでしょうし。

オリジナルという言葉の意味が強すぎましたよね、この時代。それで縛るということが多くて。中村佳穂さんとの対談で、彼女は「オリジナルは私だ」って言っていましたからね。リアルタイムで生きている私がオリジナルで、そのときによって、同じ曲をやっても全然違うものになるから、音源を録っていても、それはその時点のものでしかない。ライブでも、演奏者が違うから、今日やるライブと明日やるライブは別物で。「オリジナルは私なんです」ってサラッと言っているのを聞いて、これは今までと違う感覚だなと感じましたね。彼女の基準の方が今の時代には合っていると思いますし、そういった基準値を変える作業というのもHIROBAがやるべきものだと思うので、そういった試みもやっていきたいですね。

これからも定期的にHIROBAの活動や方向性について丁寧に伝えていきたいと思うので、楽しみにしていてください。

(おわり)


Photo/Manabu Numata
Text/Go Tatsuwa
Hair & Make/Yumiko Sano

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