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関取花 連載第24回「地球の情緒」

いやあ、地球の情緒がやばい。年々やばくなっている。なんなんだ、ここ最近のこの不安定な天気は。

昨年自分のブログでも地球の情緒については書いたのだが、それは単純に暑すぎるというシンプルな文句だった。しかし今年はどうやらそれだけではない気がする。突然のゲリラ豪雨も多すぎるし、寒暖差も激しい。上がってんの?下がってんの?マジではっきりしてくれ!って感じである。(突然のマルシェ)

しかし本当にイライラしているのは地球に対してではない。そんな地球の情緒のやばさに振り回されることに嫌気がさしつつも、気持ち良く晴れた日にはいい気分になって、あっさりお空に感謝してしまう自分にである。晴れたと思ったら夕方から突然雨が降ってきて、そうかと思えばまた晴れる。そしてそれに一喜一憂してしまう私。優しくしてくれたと思ったら豹変され、また優しくされたらその気になる。なんだこれ、まるで危うい共依存関係みたいじゃないか。

先日も、少し前までは大雨が降っていたのに朝の7時くらいからはすっかり晴れという日があった。私は空が晴れた瞬間に嬉々としてベッドカバーとシーツを洗濯し、陽の当たるベランダに干した。いつか誰かにいただいた少し高い柔軟剤を使ったこともあり、いつもよりさらにいい気分だった。乾いた時にはさぞかしフローラルな香りがするだろう。部屋の中でくるりとユーミンの「シャツを洗えば」を流しながら風に揺れる洗濯物を眺めていると、まるで朝ドラかジブリか何かの主人公になったような気分だった。当たり前の日々にある何気ない幸せを噛み締める私。今日はいい日だ。

ちょっと優雅に伸びなんかしたあと、私は朝ご飯の買い出しに出かけた。家にある昨日の晩ご飯の残り物で済ませても良かったのだが、その日は圧倒的にパンとラテの気分だった。私は胸を弾ませながら近所にある某コーヒーチェーンへと向かった。ラテの牛乳はもちろん豆乳に変更である。朝活をシャキッと当たり前にこなせる女性は、なんとなくそんなイメージがある。朝からテキパキと動きける人は、きっと美容と健康にもきちんと気を使える人に違いない。

服装は部屋着のTシャツにGパンとラフだったが、その絶妙なチョイスも計算済みである。TシャツはH&Mで買ったアメリカドラマ「フレンズ」のロゴのもの(あえてのビッグサイズ)、GパンはZARAで買ったスキニーだ。こなれ感を出すためにキャップも被った。マスクも不織布のものではなくグレーのスポーツマスク。会計はもちろん現金ではなく電子マネーでサラッとだ。どうだ。完璧だろう。できる女っぽいだろう。

しかし店を出て紙袋を片手に歩いていると、途中でなんだか空の色が再び怪しくなってきた。雲の動きが早い。おかしい、明らかにおかしい。地球の情緒が完全に崩れ始めているのを感じた。しかし家までは徒歩10分以上ある。走ればギリギリ降り出す前に家に着ける可能性もなくはないが、私には大事な大事なラテがある。小走りでもして揺らそうものなら、紙袋の中でラテが溢れてパンまでビシャビシャになってしまうだろう。そんなの絶対にいやだ。私は右手で紙袋の持ち手を持ちながら底には左手を添えて、競歩で歩いた。

地球の情緒1


途中に一軒コンビニがあったがまだ雨は降り出していなかったし、いつもよりリッチな朝食を買ってしまったのでビニール傘まで買うのもなあと思ったので、とりあえず素通りすることにした。しかし、通り過ぎてものの2、3分でポツポツと空からしずくが落ちてきた。それからはもう数秒ごとに雨は強くなる一方で、間も無く地球の情緒は爆発した。お得意のゲリラ豪雨である。ああ、終わった。

そこから先は言うまでもない。競歩ではさすがにと思ったので小走りをしながら私は家へと急いだ。自分の命よりも大切な我が子を守るが如く、紙袋を抱きしめながら。唯一の救いはと言えば、こなれ感を演出するためにキャップをかぶってきたことだろう。多少の雨よけにはなってくれていたと思う。

家に到着しタオルで全身を拭いて着替えたあと、なんだか一連の流れでどっと疲れてしまった私は、「人をダメにするソファ」に腰かけながら先程の紙袋を開けた。幸いラテはそんなにこぼれておらず、パンも濡れたりはしていなかった。守った、母さん守り切ったよあんたを。まだほんのり温かさも残っていたので、冷めきらないうちにとりあえずその朝食を食べることにした。というかもうせめて腹くらい満たさないとやっていられる気分ではなかった。

しばらくは夢中でパンを頬張ったりラテを飲んだりしていたが、ふと耳を澄ますと、激しい雨が窓を打つ音が聞こえた。早く止まないかなあと思いながら何の気なしに締め切ったカーテンを開けると、そこには茶色のでかい布が二枚、物干し竿の上でやる気なく垂れ下がっていた。ああそうだ私、ベッドカバーとシーツを干したんだった。何ならそれがきっかけで朝食の買い出しに出かけたんだった。走馬灯のように蘇る今朝の記憶。なんだかはるか遠い昔のことのようだった。

地球の情緒2

すぐに取り込んでもよかったのだがそんな気力はなかったので、私はそのままそっとカーテンを閉じた。どうせまた洗い直すわけだし、今取り込んでもどうせどこにも干せないわけだし、もうどうでもいい。再びラテとパンにがっついて、満腹になったのでそのまま寝た。「人をダメにするソファ」の上で。

それからしばらくして目が覚めると、カーテンの隙間からは眩しい光が差し込み、窓の外からは雨音ではなくセミの声が聞こえてきた。ああ、もう晴れたんだなとすぐにわかった。カーテンを開けると、さっきとはまるで別人のように穏やかな顔をして空が微笑んでいるではないか。どうやら地球の情緒が落ち着いたようである。

私はすぐにベッドカバーとシーツを取り込み、急いで洗濯機を回した。数十分経ち洗濯が終わると、嘘みたいに眩しい光に照らされたベランダに出て、それはそれは丁寧に干した。やっぱり今日はいい日かもしれない。私の胸は再び躍った。あれだけ地球の情緒に文句を垂れていたくせに、あっさり掌返しをくらい、結果何も学ばずまんまと転がされる私。ひょっとしたら情緒が不安定なのは私の方なのかもしれない。いや、単純にバカなだけかもしれない。

とまあ、最近はいつもこんな感じだ。慣れてきたと言えば慣れてきたのだが、こうも振り回されるとそりゃあ多少の疲れは溜まる。できれば安定した天気と安定した心で毎日を過ごしたいものである。頑張れ地球、頑張れ私。

関取花アー写メイン今をください軽


関取花(せきとり・はな)
愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けているミュージシャン。NHK「みんなのうた」への楽曲書き下ろしやフジロック等多くの夏フェス出演、初のホールワンマンライブの成功を経て、2019年5月にユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。
ちなみに歌っている時以外は、寝るか食べるか飲んでるか、らしい。
関取花オフィシャルサイ
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ソングライター水野良樹が主宰するHIROBAの公式noteです。 『考えること、つながること、つくること』 その3つを豊かに楽しむための広場=HIROBAをつくっていく試みです。 定期購読マガジン『HIROBA公式マガジン』のご購読もよろしくお願いします。

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