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AFTER TALK with YUJI OHNO

2019.12.09

かなわない。
そりゃ、かなわないのは当たり前なのだけど。
経験とか知識とか。音楽にかけてきた時間とか。
量の話については、あの大先輩を前に
さすがに「かなう」のか「かなわないのか」みたいな次元で考えることなんてない。
そんなのはハナから結論が出ている。
小さなリュックサックをやっといっぱいにできたくらいの若輩が、
4トントラックを何台もいっぱいにしてきた先輩を前にしたら
無邪気に「すげぇな」と仰ぎ見て、
自分の至らなさに恥ずかしさを覚える。
ただ、それだけだ。

いや、かなわないと思ったのは、
もっと、今、この瞬間の話。
音楽という、素晴らしくも扱いづらく、つかみどころのない
このやっかいな相棒についての向き合い方のこと。

大野先生は、ソファに身を預けながら、
時折、両手を組んで顔をしかめて、考え込む。

ほんとうに、あいつは気分屋でよくわからない。
面倒なやつなんだ。でも、それほど悪いやつでもない。
辛抱強く付き合ってやると、たまに笑ってくれる。憎めないやつだ。
最近、あいつの機嫌がよくなる方法をまたひとつみつけたんだ。

とても楽しそうで、とてもしんどそうだ。
もう何十年も。音楽に向き合っている。
わかった!という瞬間と、わからない!という瞬間を。
もう数え切れないくらい通りすぎている。

世界中のレコードを聴いて、たくさん学んで、ぶちあたる難題にいつだって頭を抱えて。
いくつもの楽曲を書いてきて、その瞬間だけの、一期一会のセッションを幾千幾万と重ねてきて。
追いかけて、追いかけて。

それでも音楽という相棒は、
ちょっとだけ離れたところから、
にやりと笑ってこちらを見ている。
その尾っぽをつかみきれない。

ルパンを追いかける、銭形警部みたいだ。

あんなに長く、追いかける存在がいて。
そりゃあ、とっても大変だろうけれど、
銭形警部は幸せなんじゃないかって、僕は思う。

いやぁ、まだわからない。つかめない。
しょうがねぇやつだな。
音楽を前にして悔しそうにしながら、
えらい目にあったんだよと笑いながら、
でも、大野先生はとっても楽しそうだ。

楽しいひとには、かなわない。
楽しいひとの背中ほど、魅力的なものもない。

いやいや、何を言うんだ。
楽しいなんていう余裕はないさ。
夢中であいつを追いかけないと、また引き離される。
おっと、いけない。もう行くよ。
そう言って、すぐさま駆け出そうとしている。

音楽を追いかけて。
また夢中で走りだしていく、大先輩の後ろ姿。

かなわない。
そう呟いて、でも僕も、いま駆け出す。

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Text by YOSHIKI MIZUNO(2019.12)


Photo/Kayoko Yamamoto
Hair & Make/Yumiko Sano

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ソングライター水野良樹が主宰するHIROBAの公式noteです。 『考えること、つながること、つくること』 その3つを豊かに楽しむための広場=HIROBAをつくっていく試みです。 定期購読マガジン『HIROBA公式マガジン』のご購読もよろしくお願いします。
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