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関取花 連載第15回 イブ姉さん

2019.12.11

イブ姉さん

もうすぐクリスマスである。恋人と過ごす方なんかはもうそろそろプレゼントの準備をするために動き始める時期じゃないだろうか。
ちなみに私は、今年も中学高校の同級生たちと集まる予定である。と言ってもどこかお洒落な店に集まったりするわけではなく、誰かの家に集まってお酒でも飲みながら冷凍食品の食べ比べをしたりするだけである。やっていることは普段集まる時と何ら変わりはないのだが、やっぱりクリスマスというだけでだいぶテンションは上がる。しかし、そのクリスマス独特のテンションのせいで過去に赤っ恥をかいたこともある。

あれは遡ること数年前のことである。24日のクリスマスイブに友人と遊ぶ約束をしていたのだが、何やらバタバタしていた私はプレゼントを買うのをすっかり忘れてしまっていた。気が付いた時には23日の夕方くらいで、急いで都内の駅ビルに向かいプレゼントを探しに行った。
日頃から友人が好きだとよく話していたとあるショップへ行きいろいろと物色していると、可愛らしい店員さんがスッと私の元へやって来た。普通だったらただ「いらっしゃいませー」とでも言うところだと思うのだが、その店員さんはまったく新しいタイプの声がけをして来たのだ。

「どうも〜クリスマスゥ〜…イブイブゥ〜!」

意識していたのかどうかはわからないが、あの表情とイントネーション、全身から放たれるイルミネーション級の明るさは完全にアンタッチャブルの山崎さんそのものだった。そう、「ザキヤマが〜…来るゥ〜!」の時のあれである。

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私は一瞬驚いてしまったが、それと同時に嬉しくもあった。あまり自分が行くタイプではないお洒落なショップで少し緊張していたのだが、愛嬌たっぷりのこの店員さんのおかげでだいぶ肩の力を抜くことができたからである。
普段だったら積極的に店員さんに相談するタイプではないのだが、この人なら大丈夫だと思った私は友人へのプレゼントも一緒に選んでもらうことにした。するととても親身になって考えてくれて、ラッピングも可愛くしてくれた。なんていい人なんだ。
一人暮らしを始めてからというもの、無性に風が冷たいと思っていた東京の12月。まさかこんなに温かい気持ちになれるとは。私は心底お姉さんに感謝した。

翌日友人に会ってプレゼントを渡すと、それはそれは喜んでくれた。あまりにも「花!センスいい!最高!」と褒めてくれたので、実はとあるショップ店員さんのおかげなんだよと前日のことを話してみたところ、「そのイブゥ〜のお姉さんにぜひ会ってみたい」と友人が言い出した。ちょうどその日は夜ご飯を食べにそのショップの入っている駅ビル近辺に行く予定だったので、それならばついでに寄ってみようということになった。

ショップへ向かうとあのお姉さんの姿があった。店へ入るなり目が合ったので今度は私の方から近付いて、「クリスマスゥ〜…今日はイブゥ〜!」と言ってみた。
私は確信していた。あのお姉さんなら確実にノってきてくれると。きっと友人も期待していたはずである。しかし現実は違った。

「…いらっしゃいませ、あっ、昨日はありがとうございました」

完全な営業スマイルである。マニュアル通りの完璧な接客とでも言おうか。決して不快な感じではない。むしろ前日には気付かなかったお姉さんのクールビューティーな面が引き出されていてドキっとさえしてしまった。でも違うのだ。私が欲しかったのはこれじゃないのだ。こんなの、こんなの私の知ってるイブ姉じゃない!!

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そして何より、そこそこ混雑した店内に響き渡った私の「クリスマスゥ〜…今日はイブゥ〜!」という声。ダダ滑りでしかない。まったく、クリスマスに滑るのはスケートだけでいい。そしてあたりを見渡せばこれぞ白い目と言わんばかりの他のお客さんからの視線。これが本当のホワイトクリスマスってか。誰がうまいこと言えと。

でも一つフォローしておきたいのは、イブ姉は悪くないということである。
なんとなく他の店員さんの様子などを見ていてもわかったのだが、クリスマスイブという店にとっても大事な日だったこともあり、どうやら社員さんらしき人が見回りに来ていたようだった。
おそらく接客にオリジナリティを入れるのを許すタイプの社員さんではなかったのだろう。だからきっとイブ姉もアドリブに対応するよりマニュアルで対応することに必死だったのだ。そうに違いない。いや、絶対そうだ。そうだと言ってくれ、イブ姉。

さて、そんな愕然としている私の横で友人はどうしていたかと言うと、涙が出るほどヒーヒー言いながら笑っていた。そして私の肩にそっと手を置きこう言った。「花、あの人やっぱセンスいいね」と。やかましいわ。

皆さんも、クリスマスだからと言ってどうか浮かれて私と同じ過ちを犯さないように気をつけてほしい。いくら隣に友人がいようと、たぶんあれが恋人だったらなおさら、途端に極寒の風が吹き荒れるからな。
それから全国のショップ店員さん。これからクリスマスのプレゼントを買いに来るお客さんが増えると思いますが、ちょっと浮かれたお客さんが来たら、ほんのちょっと、ほんのちょっとでいいので。どうか笑顔でノってあげてください。よろしくお願いします。

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関取花(せきとり・はな)
愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けているミュージシャン。昨年はNHK「みんなのうた」への楽曲書き下ろしやフジロック等多くの夏フェス出演を経て初のホールワンマンライブを成功させた。2019年5月8日にユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。
ちなみに歌っている時以外は、寝るか食べるか飲んでるか、らしい。
関取花オフィシャルサイト
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ソングライター水野良樹が主宰するHIROBAの公式noteです。 『考えること、つながること、つくること』 その3つを豊かに楽しむための広場=HIROBAをつくっていく試みです。 定期購読マガジン『HIROBA公式マガジン』のご購読もよろしくお願いします。

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