見出し画像

なんとなく違う扉を開いておきたいなと

HIROBA TALK 
水野良樹×関取花

2020.03.04

毎月の連載で言葉にできないほどお世話になっている関取花さんが3月4日にミニアルバム『きっと私を待っている』をリリース。

「これは絶対にお話を伺わねば!」ということでHIROBAでは初となる対談が実現。話を進めるうちに、次から次へと共通点が出てきて…。

なんとなく違う扉を開いておきたいなと

水野 まずは毎月のHIROBAの連載、本当にありがとうございます!

関取 いえいえ、素敵な場所をいただいて、こちらこそありがとうございます。

水野 毎月楽しみで、オアシスのような存在です。

関取 うれしいです。私も書くのが楽しくて。

水野 3月4日にミニアルバム『きっと私を待っている』がリリースされます。どんな予感がしていますか?(ちょっと考えて)なんか…自分が聞く側でのリリースインタビューって初めてかも!

一同 (笑)

関取 そうですよね(笑)。

水野 新鮮だなぁ(笑)。

関取 前作の『逆上がりの向こうがわ』よりは、自分の内側というか核の部分の出し方がわかってきた感じがしますね。

注釈:『逆上がりの向こうがわ』 2019年5月リリースのメジャーデビューアルバム。

水野 そうなんですね。自分の変化には敏感ですか?

関取 自分の変化に気づくのは、毎回新譜を出したタイミングですね。

水野 マスタリングなども終わって改めて並べて聴いてみたときに…。

関取 前作から今作までの間に「こんなことを思っていたんだな」と。

水野 はい。

関取 コンセプトを決めてつくることがないので、つくり終えたときに「ああ、私はこの1年はこういうマインドだったんだな」と気づくんですよね。

水野 ああ。そこは主に歌詞の部分に出てくるものですか?

関取 歌詞もメロディもどちらもですね。最近だとアレンジもですね。

水野 そうですよね。サウンドの違いをより感じられるアルバムだなと思ったんですよ。もちろん作品が素晴らしいのは大前提として、やっぱり関取さんの声ってすごく強いなと思っていて。言い方を選ばずに言うと、この声を扱うのはすごく難しいだろうなと。

関取 いやぁ…でした(笑)。

水野 サウンドにしてもそうですし、ミュージシャンとのやりとりも含めて、この声を扱うって…繊細だなと。

関取 そうなんですよね。

水野 素晴らしい声であるがゆえに。難しさは感じましたか?

関取 音の話はあまり聞かれないので、新鮮です。

水野 そうなんですね。

関取 自分でも思っていますし、プロデューサーもおっしゃっていたんですが、私の声は木管楽器っぽいんですよ。

水野 ああ、なるほど。

関取 わかりやすく芯があるというタイプではなくて。

水野 そうですよね。

関取 人気のあるハイトーンボイスとは違って、少し空洞感のある声だと思っています。それが自分の好きなアコースティックな音楽やフォークの雰囲気の楽器に合うんですよね。

水野 はい。

関取 それは自分でわかっていて、前作で得意なジャンルはやり切ったという思いがありました。今作で何をするか考えたときに、なんとなく違う扉を開いておきたいなと。バンドサウンドでと思ったときに、今までエレキギターをほとんど入れていなかったので。

水野 はい。

関取 ペダルスチールとかはありましたが、いわゆるギターロックではないけど、少しアプローチしたいなと思って。その分、苦戦した感じですね。

水野 歌を書いているときは、そこまで見えているんですか?サウンドであるとか、音像であるとか。

関取 そうですね。今作くらいからわりと参考音源というか、こういう感じのアプローチの曲は書いておきたいなという思いはありましたね。

水野 どのくらい自分の声をイメージして書きますか?back numberの清水(依与吏)君は、自分の歌声も含めて「この人間がどういう言葉で、どんなことを歌ったらしっくりくるだろうかをイメージしている」とおっしゃっていて。歌い手はそこまで考えるのかと驚いたんですよね。

関取 へぇ〜!

水野 関取さんの場合は自分の声をどのくらい意識しながら、歌詞にどのくらい影響するのか。僕の場合は自分の歌は意識する必要がない。でも楽曲提供の場合はその歌い手の声を意識してつくらざるをえない場合もある。

関取 ああ、そうですよね。基本的にはそんなに意識せずに書いていますね。歌ってみて気持ちいいかどうか、自分の声のスイートスポットの70点以上出るメロディラインや音域という部分で選別していますね。私の場合は歌詞は後からなので。

水野 そうか。そうするとやっぱり飽きる瞬間も出てきますよね。

関取 ありますね。

水野 だからこそ、「新しい扉を開かなきゃ」という部分が今作には出ているのかなと思いました。すごくいい意味での葛藤が見えるというか。

関取 そうですね。

水野 新しいことをやっていこうと挑んでいる雰囲気が音からも伝わってきました。

画像1

関取 「とりあえずやってみよう!」と振り切ってできるのは20代までのような気がしていて…。2019年5月にメジャー1枚目をリリースしました。これは関取花の自己紹介的な一枚で、名刺代わりのような感じです。今作は葛藤も含めて内側の部分も見せられたらと思ったんですよね。誕生日が12月(1990年12月18日生まれ)なので、次作は予定通り行けば29歳のうちに…。

水野 誕生日、一日違いなんですよね、僕と。

関取 え!どっちですか?

水野 17日です(1982年12月17日生まれ)。

関取 えー!射手座!

水野 射手座です。

関取 なんと、まぁ!

水野 これも縁ですよ。

関取 ですね、うれしい(笑)。

水野 今年で30歳になるんですね。

関取 そうなんです。なので、今年の12月までの間に1枚くらい出したいなと思うと、今作も含めて「あと2枚だ」と。

水野 ああ。

関取 20代の間にやりたいことをやって、今まではわりと音楽プランを中心に考えていたんですけど、30代は人生プランを考えようと思って。

水野 なるほど。

関取 だから、活動をセーブするとか、そういったことも全くないのですが、音楽との向き合い方も含めて人生を考えようと。だからこそ、29歳のうちにやれることはやって、サウンドも全部試して。これは誰にも言っていなかったんですけど(笑)。

水野 (笑)

関取 得意ジャンルばかりをやっていたら30歳手前で飽きるなと思っていましたし、いろんなことに挑戦していたとしても自分の性格的にもずっとは続かないので、どこかで燃えつきてしまったり、電池切れになるなと思って。そのタイミングが30歳くらいで来るような予感があって…なんの根拠もないんですけど。

水野 なにかエンジンをかけるものを見つけたいというような?

関取 そうなんですよ!それがないとやらないので。

水野 音楽はすごく大事だけど、音楽に限らずもっと広いジャンルで、大きく言うと「どう生きるか」というようなことを意識するようになったんですかね?

関取 書きもののお仕事ひとつをとっても、音楽が真ん中にあって、その音楽をたくさん聴いてもらうための導線のひとつとしてやっていたんですね。

水野 はい。

関取 でも、HIROBAの連載や新聞の連載をやらせていただくうちに、そこでしか得られないことがたくさんあるなと気づいたんですね。

水野 はい、わかります。

関取 いつか本を出したいなという夢もずっとあって。例えば自分が紅白歌合戦に出てめっちゃ売れたとして、どこの本屋さんでも「紅白出場で話題の関取花のエッセイがついに!」みたいなポップが言わずとも付くような時期に出したほうが部数的にも伸びるとは思うんですけど、果たしてどうなのかと…。

水野 はいはい。

関取 音楽が成功しないと他のことに手を出してはいけないという発想がずっとあったんですけど、それは違うかもと思うようになって。

水野 うーん、面白いですね。僕は34歳くらいで、それがきましたね(笑)。

関取 わ!本当ですか?

水野 きましたね〜。

関取 水野さんが34歳のときはどんな時期だったんですか?

画像2

水野 結婚と、デビュー10周年がやってくる頃ですね。

関取 ああ。

水野 この仕事をしていると「もし音楽をやっていなかったら、何をしていたと思いますか?」といったことをよく聞かれるじゃないですか。

関取 聞かれますよね〜。

水野 まぁ、ラジオなどでは盛り上がるように面白く答えたりはしますけど。

関取 そうですよね。

水野 でも、そういう問いは無意味だなと思うようになって。

関取 はい。

水野 自分は音楽で食べていけるようになって、周りには真剣に向き合っている人ばかりで。そうなると「もし、こうだったら」と考えること自体が失礼だし、頑張っていかなきゃと。

関取 ああ。

水野 ただ、ある時期に「自分は音楽じゃなかったかも」と思って、生きることを広げなきゃと考えた瞬間があったんですよね。それこそHIROBAにもつながっていくんですけど。

関取 はい。

水野 そのときの感覚に近いのかなと思いました。例えばラジオで話したりとか、音楽以外のことも楽しいんですよね?もちろんラジオ番組も関取さんの存在を知ってもらう、ある種プロモーションという観点で大事なものだと思うんですけど、その観点を除いてもリスナーとの距離感であったり、番組で何を話すか考えることであったりが、関取さんが活動する上で重要というか。

関取 そうですね。プロモーション感がいい意味でなくなってきて。もちろん、音楽があるからこそ、そのお仕事をいただいているということはありますが、前作を経てちょっと肩の力が抜けたのかもしれないですね。

水野 ああ、なるほど。

画像7

「自分を語ろう」ではない作詞家モードで書けるようになった

関取 「自分には音楽しかない!」と思い詰めて曲が書けなくなったときに、音楽を仕事にする前に聴いていたTOKIOとRAG FAIRとW-inds.と浜崎あゆみさんが入ったMDを実家に帰ったときに見つけて。

水野 ハハハ(笑)。

関取 「花 CDミックス」っていうタイトルで。

水野 いやぁ、かわいらしいですね。

関取 当時は「聴かなきゃ」っていうテンションじゃなく、もっとライトな感じで聴いていて。

水野 そうですよね。

関取 でも、そのころに初めてギターを持ってつくった曲でも、ちゃんといいし、ちゃんと詩的だし、メロディもよくて、決して今聴いて黒歴史と思うようなものはないんですよね。

水野 はい。

関取 いろんなことに囚われすぎていたなと思う部分はありますね。

水野 なるほどね。

関取 それもあって今回はバンドサウンドにしたんですよね。「音楽でごはん食べていこう」と思う前に初めて聴いて「あ、いいかも!」と思ったオアシスやシガーロスといった音楽をあらためて聴き直したりもしました。

水野 そうやって新しい扉を開いて葛藤しながらも、歌詞の内容であったり、自分が出ているなと感じるのは面白いですよね。自分の得意なところを前面に出す作品も大事だと思うんですけど、「自分の好き」を優先するとより自分らしさが出てくるという感じなのかなぁ。

関取 私らしさと言っても「対外的にわかりやすい私」ではないんですよね。「自分を語ろう」ではない作詞家モードで書けるようになったというか。

水野 おお。

関取 自分に曲提供をするような感覚というか。曲提供だとわりと早く書ける傾向があって。それはきっと自分で歌わなくていいので、すごくホッとして肩の力が抜けるんです。そういう感覚で書けたので今の私がすごく出ているなと感じられるんですよね。

水野 なるほど。

関取 そういう意味での私らしさなので、もしかしたら過去の作品を聴いてくださっている方からすると「どこが花ちゃんらしいの?」「自分の葛藤を歌うのが花ちゃんでしょ」ってなるかもしれないですね。

水野 そうですね。

関取 でも…そんなに自分を語れることもないので。

画像3

水野 (笑)

関取 無理して出す必要はないし、また今度書けるときに出せばいいなと。

水野 相手が見ているものとこちらが思っているものが違うときがありますからね。

関取 そうですね。

水野 広げていったものが今後さらに循環していくんだろうなという期待がありますね。

関取 そんな気もしますね。「頑張ってみたけど…やっぱり無理だった」って曲ができても面白いですよね。

水野 無理ってことはないでしょ(笑)。

関取 でも、なんか疲れちゃったみたいな。学校とか会社で元気に振る舞っている人が聴いたときに「そうだよね」って涙する音楽になるかもしれないですし。そう考えると、もしかしたら社会経験のひとつというか…。

水野 真面目なんですね(笑)。

関取 でも、この仕事をしているといわゆる上司や同僚もいないじゃないですか。

水野 いや、ほんとに。

関取 経験できないじゃないですか。お局様が…とか、後輩のエンターキーを押す音がうるさいとか。

水野 その通り。

関取 でも、私たちの音楽を聴いてくださっているのは、そういう環境で日々揉まれている方々じゃないですか。

水野 そうなんですよ!大学の友達に久しぶりに会って、ひとつの仕事をするのにハンコを10個くらいもらわないといけないって聞いて。

関取 うわ!

水野 「大変だねぇ」みたいな。一般社会という言い方も変ですけど、会社勤めをされている方々が聴いてくださるんですもんね。

関取 そこに届けられるアプローチはしたいと思っています。

水野 考え方としてはすごく真っ当ですよね。聴いてくださる方々について、よく知ろうとしているということですもんね。

関取 はい。

水野 どうしても音楽の世界って浮世離れを求めるような雰囲気もあるじゃないですか。

関取 ありますよね(笑)。

水野 ちょっと違う部分も、もちろん大事だけど。作品に落とし込むときに、世の中の人がどんなことを感じているのかをわかっている必要はあって。

関取 そうですよね。

水野 例えば満員電車の空間で感じることであるとか。

関取 そうですよね。私も同じことを思って、この前あえて朝のラッシュの時間に乗ったんですよ。経験したことのない空気感で…朝からお酒臭い人、張り切って香水付けたのかなという人、いろんな匂いが入り混じって。

水野 (笑)

関取 あとはお昼時にオフィス街のランチを食べに行ってみたり。どんな会話をしているんだろうと。

水野 みんな首からパスをぶら下げて。

関取 そうなんです。みんな食べるのが早くて。

水野 早いですよね。

関取 仕事の話をしている人もいれば、家族の話をしている人もいて。この感じを知らないまま「みんなに聴いてほしい」って言いながら音楽はしたくないし、できないなと思って。

水野 いやぁ、まったく同感ですね。でも…自分にはわからないだろうなとも思うし。

関取 本当のところはわからないですよね。

水野 そうなんですよね。

画像4

関取 水野さんは楽曲制作もたくさん依頼されるじゃないですか。

水野 はい。

関取 そのテーマ設定はある程度決まっていてオファーされるものですか?

水野 いろいろですね。具体的にリクエストされる場合もあれば、僕が曲をつくること自体が企画のひとつで自由につくってくださいということもありますね。

関取 そうなんですね。

水野 でも、その出口というか、誰が歌うのかによって景色が違う気がします。

関取 そうですよね。

水野 例えば男性アイドルであれば、恋愛の曲を歌うにしてもファンの方々との疑似恋愛というか、そのアイドルを思い浮かべて聴けるようなものであったりとか。

関取 ああ、なるほど。私は関取花の名前で曲を出しているから、自分が街で見たいろんな人の話を書けたりするんですけど、水野さんくらい幅広く書かれていると…。

水野 いやいや。

関取 どうしてネタが尽きないのかなと。

水野 ネタ、ないない。全然ない!スッカラカン(笑)。

関取 (笑)

水野 でも…街を歩いていたほうがいいですよね。

関取 いやぁ、そうですよね。

水野 あとは、主人公が浮かんできて勝手に動き出すというか。その主人公の気持ちが歌になっていくような。

関取 そこに入っちゃうと楽ですよね。早く書けるというか。

水野 あれは…なんなんでしょうね。

関取 でも、「このメロディすっごくいい!これだ!」と思う曲ほど、力が入っちゃうのか歌詞が書けないんですよね。

水野 ああ、歌詞のゾーンに入らない。

関取 なぜか…。ちょっと休もうと思って、サラッとピアノで弾いた曲はすぐにできるのに、いわゆるタイトル曲を書こうと思うとダメなんですよね。

水野 そうなんですね。街に出るのも大事だけど、普通に生きているのが一番いいなと最近すごく思いますね。息子を見ているといろいろな驚きがあって、いろんな感情のベクトルが見えると書きやすいんですけどね。感情のベクトルがまったく見えないと、ただ書いているだけになってしまって難しいんですよね。

関取 そうですよね。

画像8

流行に寄せて、少しでも自分の声の良さが消えてしまうのなら、やりたくない

関取 私、サウンドのことでお聞きしたいことがあって。

水野 はい。

関取 歌詞は葛藤もありつつ、自分に曲提供するような感覚で書きました。サウンドはわかりやすく入ってくるほうがいいのかなと思ったりもしてプロデューサーにも相談したり、セルフプロデュースのものは自分が好きなようにしました。いきものがかりの場合、水野さんはアレンジはしていないんですよね?

水野 まったくしてないですね。いきものがかりは特に。

関取 それは、あえてなんですか。

水野 あえてというより、できないからそうなっただけですね。

関取 最初からですか?

水野 最初から。諦めちゃおうと。

関取 そうなんですね。本当はできるけど、いろんな葛藤があって「この先は人に任せたほうが」という感じなのかと。

水野 いやいや、全然そんなカッコいい感じじゃないです(笑)。ずっとコンプレックスを持ちつづけてこの世界にいるんです。

関取 ええ!

水野 それがいい方向に作用したんでしょうね。

関取 ああ。

水野 インディーズのころは高校の同級生にサポートメンバーになってもらって、わからないなりにも自分たちでサウンドをつくっていたんだけど、デビューとなると当然そうではなくなりますよね。

関取 はい。

水野 デビューを控えて、いきものがかりというグループを誰も知らないなかで、アニメのタイアップを取らないととなって。路上ライブ出身の木訥としたグループなのに、ディストーションギターが6本くらい重ねられているようなアレンジで…最初はもうぐっちゃぐちゃです(笑)。

関取 へえ〜!

水野 そこで初めて「これは自分たちじゃない」となって。そこからいろんなことを経て、「どのアレンジでも負けない曲をつくればいいんだ」「それしか生きる道はない」と。

関取 ああ〜!

水野 アレンジに関しては何もできないんだから、どのアレンジになっても大丈夫なメロディと歌をつくろうと。最初のころは特にそう思うようにしたんですよね。ミュージシャンの方々とコミュニケーションも取れるようになってだんだんと変わっていったんですけど。

関取 はい。

水野 今でもいきものがかりをサポートしてくれている安達(貴史)くんっていうベーシストがいて19歳くらいから一緒にやっていますが、初めて同い年のプロの子に出会って本当に驚いたんですよ。地元のライブハウスにはこんなに上手い子はいないし、音楽のプロとしてごはんを食べていくのはこういうレベルなのかと。

関取 なるほど。

水野 それを知ったときに、勝とうと思うのはやめようと。自分にできるのは曲だなと当時考えて。それがうまく作用したんですよね。でも、だんだん変わっていきますね。うん、今…変わってるな。アレンジャーにはいろいろと生意気なことを言ってますね(笑)。

関取 (笑)そうなんですね。いやぁ、そこが気になっていて。

水野 この曲はこんな感じのサウンドにしたいとか、この楽器を入れたいなとかはありますよね。

関取 私はギター弾き語りの裸のデモで「お願いします!」という感じでお渡しします。リズムやベースなんかもやろうと思えばできるんですが、あえて弾き語りで。自分にはない引き出しをアレンジャーに見せてもらって、違うなと思ったらそのときに出そうと。

水野 はい。

関取 ありがたいことに常にいいアレンジをしてもらっているので、出したことはないんですよ。基本的にはメロディと歌詞が一番よく聴こえて、自分の声がよく聴こえるアレンジであればとOKだと考えています。音楽的に流行のサウンドやビートに寄せて、少しでも自分の声の良さが消えてしまうのなら、やりたくないですね。

水野 なるほど。正しい判断だと思います。

関取 メジャーになって、インディーズのときとは違う予算があるじゃないですか。

水野 大事です。

関取 今までは物理的にできなかったことができるとなったときに、お金をかけて自分のやりたかったことをやるのか、もしくは高いお金をかけて経験値を買うのかという考えになって。今は経験値がほしいなと思ってストリングス入れてみたり、エレキ入れてみたりしています。やってみて、あ、これは…。

水野 違うなと。

関取 思ったりもしますし、「こういうのが私には合うんだ」という発見もあります。自分が葛藤している最中なので、水野さんはどうだったのかなと。

水野 「これで勝負しなきゃ!」というものがあったほうがいいとは思っています。僕の場合は歌をつくることでしかないから。

関取 私、さっきの言葉が超刺さって!

水野 ん、なんですか?

関取 どんなアレンジにも負けない曲があればいいんだって。その発想があったはずなんですけど、つくっている途中に「あ、いまいちだな」と思いながらも「アレンジで化けそう〜」みたいな感覚が出てくるじゃないですか。

水野 わかります。

関取 なんか、人頼みになりたいときもあって。

水野 あるある!あるけど、その人を信じているときはいいのかなと思いますね。

関取 ああ!なるほど。

水野 僕の場合はそうかな。

関取 ああ!そうですね!

水野 このアレンジャーにお願いするとわかってつくることもあるからね。このメロディに対してどうアレンジしてくれるか考えながらキャッチボールをしているので、頼るというか、相手の引き出しを待つことはありますね。

関取 ああ。

水野 最近、僕は完全にネタ切れしていて…裏メロやリズムのアイデアを前提にメロディが出てくるというときもあるので。

関取 へぇ〜!

水野 それがないと成立しないときにはちゃんと入れてデモを渡すようにしています。

関取 ああ。

水野 最初のころは僕もギターの弾き語りでつくっていましたけど、曲をつくる入り口が増えてきたので、それもあって変わってきているのかもしれないですね。

関取 うわぁ、すごい。

水野 でも、やっぱり声があるのは羨ましいし、同時に大変だとは思うんですけど、自分という軸があるのはすごくいいなと思いますね。

関取 いやぁ。こんなことを言ったら本当に申し訳ないんですけど…お話していると「似てるなぁ」と思うところがすごくありすぎて。

水野 僕もそう思います。誕生日、一日違いじゃなくて同じなのかもしれない(笑)。

関取 (笑)

水野 近い道を通ってますよね。

関取 「そうだったんだ」って安心しちゃうというか。

画像5

水野 僕は今、すごく抑えてますよ。

関取 (笑)

水野 「その道、通ったよ」って言うのが恥ずかしくて。

関取 (爆笑)

水野 すごくよくわかるんですよ。

関取 安心しますね(笑)。

水野 う〜ん。やっぱり歌があるのは強いですよ。僕はデビューした段階で「ミュージシャンにはなれなかったな」って思ったんですよ。何が言いたいかというと、素晴らしいミュージシャンの方々を間近で見て、自分の人生においてミュージシャンとして称賛を受けることはないだろうなと。自分の職業を便宜上ミュージシャンと答えるときもありますけど、自分としてはソングライターだなと。

関取 水野さんのTwitterのプロフィールにソングライターと書かれていて、「水野さんっぽい!」と思ったんですよね。

水野 面倒くさい奴ですよね(笑)。

関取 いや、すごくわかりやすいですよ。私はかたくなにアーティストと言わないようにしています(笑)。

水野 アーティストね(笑)。

関取 私はそっちになれなかった人間なので。

水野 ミュージシャンの方々に対して憧れとリスペクトがあるんですよ。

関取 わかります。私はミュージシャンズミュージシャンに憧れていて今もなりたいと思っていますが、テレビのバラエティ番組に出させていただいたくらいのタイミングで「自分の強みはそっち(ミュージシャン)のほうではないな」と気づかされたんですよね。

水野 いやいや。でもね、関取さんみたいに喋れないですよ。

関取 全然ダメダメです。

水野 すごいなって思う。

関取 加減も難しくて。

水野 音楽につながればという思いでいろんなことを始めたなかで、それそのものが目的になっていくことは素晴らしいと思うんです。ミュージシャンであることも大事だけど、それ以上に関取花という人間が愛されること、関取花という人間がつくった作品が愛されることが大事なことで。そう考えると、もちろん音楽でもいいし、それ以外の表現方法でもいいんですよね。すごく真っ直ぐに当たり前のことをしているように見えるし、自分もそうでありたいので全力で肯定したいなと。

関取 うれしいです。

水野 バラエティ番組の出方は難しいだろうけど、他の人ができないことを喋ったり、そこでの経験が歌にもつながり、書き物にもつながる。その全部が関取花というある種のエンタメというか。

関取 ああ、そうですよね。人として興味を持ちつづけてもらえる人間になったほうが、いろんなことが気持ちよく、上手くいくなと思いますね。

水野 楽しいですね。選択肢も広がるだろうし。難しさもあるだろうけど。

関取 なんか…どこかで表に立たないことをしたがっている自分に気づいたんですよ。

水野 (深くうなずき)やっぱり…誕生日一緒なんじゃないかな。

関取 え!

水野 わかります。表に立つより、つくる人でいたいんですか?

関取 たぶん、そうなんだと思います。ライブのときは「自分が憧れる自分」でいられるんですけど…どこかで整合性が取れなくなることが怖いのかな…。

水野 真面目だなぁ(笑)。

関取 もちろん、曲を書くのは好きなんですよ。憧れられるタイプのミュージシャンじゃないなというのはわかっていて公言もしてるんですよ。

水野 はい。

関取 表に立つ人間じゃなくても、誰かの希望になることはできるかなと。飽き性なので、飽きるのが怖いのかもしれないですね。

水野 飽きるんだ。

関取 自分に飽きるときがある…(笑)。

水野 (笑)もう怖いな。デビュー当時からお世話になっているディレクターの岡田(宣)さんという僕の師匠のような人がいるんですよ。「違うことしたいんですよ」って言ったら「自分に飽きるの早すぎ。10年早いよ!」って怒られたことがあります(笑)。

画像6

関取 私、水野ロード爆走中ですね(笑)。

水野 でも、関取さんは真ん中に立って歌って届けているというところが僕とは大きく違う。

関取 うーん。

水野 僕はグループの名前を背負ってステージ上には立っているけど、歌っているのは吉岡(聖恵)で。客席にいるわけでもなく、バックミュージシャンというほど離れてもいない。すごく中途半端な距離にいるんですよ。

関取 いやいやいや(笑)。

水野 曲は僕がつくっているけど、それを全然違う人格の人が歌っている。お客さんの視線は吉岡に向いていて、僕は声援を浴びながら浴びていない。すごく矛盾のあるところにいるんですよね。関取さんはその全てをステージ上で受け止めているじゃないですか。

関取 ああ。今すごくスッとした気がします。自分の憧れる自分がライブをしているのを見ているんですよ。

水野 出た!

関取 たぶん。

水野 北野武さんも同じことをおっしゃってました。一度だけお会いしたことがあって。

関取 ええ!

水野 客観的に見ているってことですね。

関取 「わぁ、みんなライブをしている花ちゃんを見てこんなに喜んでくれている」「うれしいな、ありがたいな」という視点がどこかにあるんですよね。

水野 だんだん、占い師みたいになってきた(笑)。

関取 それがライブだけではなくて、歌詞を書くときにも作詞家の目線で書けるようになってきて。「この曲は、このプロデューサーにお願いしたら絶対に化けるから大丈夫」というようにいろんな場面で俯瞰して見ている自分がいて。だから「表に立つ人間にならなくてもいいかな」と思うのかもしれないです。

水野 ああ、なるほどね。ステージ上の自分と俯瞰して見ている実際の自分にはギャップがあると思うんですけど、そのギャップに苦しくなったりはしないですか?

関取 余裕があれば大丈夫なんですけど、難しいときもありますね。

水野 ああ。

関取 お客さんのリアクションに「今の笑うところじゃない!」って我に返ってしまったり…。

水野 ありますね(笑)。

関取 「ダメダメ、見せちゃいけない」と言い聞かせて。

水野 やっぱりプロデューサー視点なんですね。でも、表に立つ人の気持ちがわからないプロデューサーって嫌じゃないですか。だからこそ、関取さんは表に立つべきなんでしょうね。

関取 ああ、そうですね。

水野 プロデューサーの本間(昭光)さんに「ステージ上に一緒に立ってて、立ち位置は1〜2メートルくらいの差しかないけど、君たちが見ている景色と僕たち(サポートメンバー)が見ている景色は違うからね」って言われて。

関取 う〜ん。

水野 「だから、ちゃんと見て大事にするんだよ」と。支えてくださる本間さんの優しさですよね。

関取 すごい。

水野 表に立つって、実力と運がないとなかなかできないじゃないですか。関取さんは表に立って、しかもプロデューサー視点も持っている。関取さんじゃないと成立しない視点ですよ、これは。うん、いいですね。

関取 いやぁ、そうですね。

水野 確かに、似てますね。

関取 (笑)

水野 ありがとうございました!

関取 こちらこそ、ありがとうございました!

(おわり)

関取花(せきとり・はな)
愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けているミュージシャン。NHK「みんなのうた」への楽曲書き下ろしやフジロック等多くの夏フェス出演、初のホールワンマンライブの成功を経て、2019年5月にユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。
ちなみに歌っている時以外は、寝るか食べるか飲んでるか、らしい。
関取花オフィシャルサイト

Photo/Kayoko Yamamoto
Text/Go Tatsuwa

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
5
ソングライター水野良樹が主宰するHIROBAの公式noteです。 『考えること、つながること、つくること』 その3つを豊かに楽しむための広場=HIROBAをつくっていく試みです。 定期購読マガジン『HIROBA公式マガジン』のご購読もよろしくお願いします。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。