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関取花 連載第26回「拝啓、グラノーラ様」

フルーツグラノーラにハマっている。ここ数カ月はレコーディングやそれに伴う作業や打ち合わせ、初のエッセイ本発売など、ありがたいことに色々とやることが多く、正直あまりゆっくりご飯を食べている時間がない。しかし私は朝ご飯だけは絶対に食べたい派である。さてどうしようかと悩んでいたある日、スーパーのシリアルコーナーへ立ち寄った。

すると、そこには結構な数のフルーツグラノーラが並んでいた。実家にいた時はよく食べていたのだが、ここ数年はあまり食べていなかったので、久しぶりに見たらその種類の多さに驚いた。出しているメーカーも味付けも原材料も様々で、シリアルコーナーはすっかりフルーツグラノーラ帝国と化し、コーンフレークなどかつてその界隈を牛耳っていた者たちはすっかり隅に追いやられていた。間違いない、現代のシリアル界のトップを走っているのはフルーツグラノーラだ。そう確信した私は、迷うことなくフルーツグラノーラの袋をカゴに入れた。

久しぶりに食べてあらためて思ったのだが、フルーツグラーノーラの醍醐味はなんといってもその名の通りフルーツである。しかし何種類も入っているドライフルーツは、皿に出した時にいつも均等に入っているとは限らない。ある日はレーズン多め、ある日はベリー多めといった具合に、朝からこちらの気持ちを結構揺さぶってくる小悪魔なところがある。

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はじめのうちはこの気まぐれさもそれなりに楽しめていたのだが、何日も食べ続けて大体中身を把握してくるにつれ、どうせならお気に入りの具材を多く食べたいと思うようになった。ちなみに私はベリーが好きである。なんならもう全部のドライフルーツがベリー系でも構わないくらいだ。しかしそんな都合よく出てきてくれないのがフルーツグラノーラである。まったく、人気があるからってお高くとまりやがって。

そこで私は考えた。出てきてくれないのなら自分から探し出せばいい。相手が変わってくれないのなら自分が変わればいい。それから私は小さじのスプーンを片手に、毎朝食べる前に大好きなベリーをサルベージすることにした。来る日も来る日もグラノーラの海をかき分けてはベリーを探し、ありったけの夢をかき集めた。ワンピースかよ。

しかし、夢とは儚いものである。徐々に雲行きは怪しくなっていった。そりゃそうである、ベリーは無限に入っているわけではない。数日もすると、掘っても掘ってもベリーは姿を現してくれなくなった。袋の中を覗くと、残されたレーズンや何か種的なものばかりがこちらを見ていた。なんだか申し訳ない気持ちになりながら、その急にアースカラーになったグラノーラをその後何日かに分けて食べた。それだけでももちろん充分美味しかったのだが、食べるたびにやはり思ってしまった。欲しい、ベリーが欲しくてたまらない。ベリー my love, so sweet である。ベリーがないフルーツグラノーラなんて、原坊のいないサザンと一緒だ。そんなのダメだ、絶対にあってはならないことだ。

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その日の夜、我慢できなくなった私はスーパーに新たなフルーツグラノーラを買いに行った。そして翌朝、買い足したグラノーラからベリーをサルベージし、それをベリーのいなくなってしまったグラノーラに追加しながら食べた。反則技だとわかっていながらも、やっぱり美味しかった。グラノーラの中で輝く紅一点のあの赤の色味、噛み締めるたびに染み渡る甘酸っぱさ。最高だと思った。そう、それはまさにあの『真夏の果実』の原坊のコーラスのようだった。

しかしそれも束の間の幸せ、数日も経つと今度は買い足した方のグラノーラからベリーがなくなった。よく考えればわかることである。いや、よく考えなくてもわかることである。あっちに足せばこっちが減る、ただそれだけのことだ。しかし目の前のベリーに目が眩んだ私は完全にそのことが頭から抜け落ちてしまっていたのだ。自分の間抜けさにさすがに呆れた。

それでもなお、私は後日さらに新しいグラノーラを買い足した。はじめのうちはまた同じ過ちを犯してベリーサルベージをしたりもしたが、なんとなくこのままいくと永遠にこのループから抜け出せなくなりそうだったので、しばらくしてやめた。ある朝、きっとこうやって人は借金地獄にハマっていくんだなとふと思い、なんだか急に怖くなったのだ。

はじめのうちは禁断のベリー多めフルーツグラノーラの味を身体が覚えてしまっていたため我慢するのが苦しかったが、一週間もすれば慣れた。むしろ今では偶然ベリーが多めに出てきた時のラッキー感の方がよっぽど強いし、やっぱり元から入っているあのさり気ない量のベリーが一番美味しいんだなと思う。それぞれの具材の存在感はちゃんとありながら、互いが互いを引き立てる計算され尽くされた絶妙なバランスでフルーツグラノーラは作られている。まあ、どうしても食べたいという時にはベリーだけ2、3カケラ探し出したりはするけれども。

この経験を通して、フルーツグラノーラは私に教えてくれた。目先の利益ばかりに目を眩ませてはダメだということ、多少の我慢をしてこそ幸せの価値はわかるということ、そして何事もバランスが大切だということ。手軽に美味しくいただけるだけでなくこんな哲学的なことまで教えてくれるなんて、やはり天下のフルーツグラノーラである。そりゃあシリアル界のトップに立てるのも納得である。

そんな感じで、最近の私はすっかりフルーツグラノーラの虜だ。まだまだしばらく忙しい日々は続きそうなので、引き続きお世話になります、グラノーラ様。あとよかったらCM曲のオファーもお待ちしております。

関取花アー写メイン今をください軽

関取花(せきとり・はな)
愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けているミュージシャン。NHK「みんなのうた」への楽曲書き下ろしやフジロック等多くの夏フェス出演、初のホールワンマンライブの成功を経て、2019年5月にユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。
ちなみに歌っている時以外は、寝るか食べるか飲んでるか、らしい。
関取花オフィシャルサイト
関取花Twitter

<最新情報>
11/11(水)に自身初の書籍となるエッセイ集「どすこいな日々」を発売。
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ソングライター水野良樹が主宰するHIROBAの公式noteです。 『考えること、つながること、つくること』 その3つを豊かに楽しむための広場=HIROBAをつくっていく試みです。 定期購読マガジン『HIROBA公式マガジン』のご購読もよろしくお願いします。

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