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HIROBAという「場」をつくったことは大正解だった

HIROBA 水野良樹インタビュー
2019.10.7

今年4月にHIROBAがスタートして、半年が経過。
その間にふたつの音楽作品をリリースし、
さまざまなジャンルの方々とも言葉を交わしてきました。
そのなかで生まれた思いや、今感じている課題など、
「HIROBAのいま」を水野良樹のインタビューで届けます。

もう少ししたらエンジンをかけるタイミングが来る

──今年4月にHIROBAがスタートして、早いもので半年が経ちました。
そうですね、「まだ半年」という感覚でもあり、「もっと前から」のような気もします。

──実際、半年といっても、その前から楽曲制作や準備は始まっていましたからね。
そうか、そう考えるともう1年以上は経っていますもんね。
まずは、小さいながらも継続できていることがうれしいですね。あとは、関わってくれているスタッフのみんなが「今日の対談、おもしろかったね!」とか、「あの人の話が聞けてよかった」という空気になることがうれしくて。自分がやりたくてやっていることだけど、仲間ができていき、関わってくれるみんなもウキウキしている感じというのは、僕自身も望んでいたことなので。いい空気感のなかでやれていますね。

HIROBAのコンセプトも、これから半年、1年と時間をかけて、かたちになっていくと思うので、そういう意味ではまだ準備段階で、これから育てていくものという気がしています。

8月にトークショーに登壇させてもらったNHKの「ドキュメント72時間」のスタッフの方々のように、サイトを見て反応してくれる人も増えてきて、HIROBAをきっかけに水野良樹に興味を持ってくれたり、そこから仕事に発展したりということが少しずつ出てきたので、アンテナを張っている人には届きはじめているという感覚があります。

参照:街角のドラマ、海をわたる。 ~NHK「ドキュメント72時間」海外版 上映&トークショー~ 絶対に破らない3つのルール

でも…長い道のりではありますね。

──前回、HIROBAを立ち上げて1カ月半が経過したタイミングでも、同様のインタビューを行いました。そのときは、まだ模索しているというか、「自分たちが進んでいる道は正しいのだろうか?」といった迷いがあったような気がします。そこから時間を経て、いろいろな経験を通して、少しずつ手応えや確信も生まれてきているのではないでしょうか?

参照:HIROBA TALK 水野良樹 何か表現活動をして世の中に届けるというフォーマットは、ひとつだけではない

今は、いい意味で「ああ、もっとできるのに」ということが多々あります。それは資金面もそうだし、時間の面もそうだし、関わるみんなが「もっとコミットできたら、もっといろいろなことができるのに」という気持ちになっているのはいいことですよね。

立ち上げのときは「何をしたらいいかわからない」「どこにボールを投げようか」というところから始めて、今はボールを投げられそうなところはいくつか見えている。でも、HIROBAの体力的に全部はできないから、ひとつずつ、少しずつという状況です。そういった物理的な課題になってきたことは、すごくいいことで、次の段階に進みつつあると思います。

資金の面でいえば、見ていただいている人や関わる人に運営を支えていただくようなシステムを構築したり、音源での収入が増えていけば、さらにこのチームを大きくして、より多くの人との対談や、さまざまな記事を掲載できるようになると、よりいっそうの広がりが生まれるだろうなということが見えています。

もう少ししたらエンジンをかけるタイミングが来るだろうなという気がしています。現時点ではまだ出せないですが、動いている企画や制作しているコンテンツもたくさんある。今はどれだけ体力をつけて、体制を整えていけるか、それが大事ですね。

──やりたいことがたくさんあって、クリアすべき物理的な課題も見えている。次の段階に進んでいる感覚はスタッフも同様に感じています。
HIROBAを通しての気づきが本当に多いですよね。前川さん、糸井さんとの鼎談を行なって、HIROBAと「ほぼ日」の両方で掲載されましたけど、「ほぼ日」の記事は、会話の温度感、言葉の区切り方、テーマ設定、どれを取っても、僕らが言語化できていないことができていて。それを肌で感じさせてもらったことは本当に財産になりました。もちろん、「ほぼ日」と同じようにやる必要はないし、僕らのやり方を見つけていけばいいと思うけど、同じインタビューを違う媒体で掲載して、その違いを体感できて、勉強させてもらえたというのは、HIROBAをやっていたからこそだと思います。

参照:HIROBA TALK 水野良樹×前川清×糸井重里 与えられたものを歌って、僕自身を変えてもらう
参照:ほぼ日刊イトイ新聞 前川清×水野良樹×糸井重里 
歌手、いったいなんの仕事だろう。

まだまだやるべきことはたくさんあって、細かい点ですけど、サイトのデザインやフォントのサイズなんかも、より見やすくできると思っているので、微修正しながら進めていきたいです。

「センセーショナルなものにはしたくない」ということは最初から言っているので、派手なことや過激なことで注目を集めることはこれからもしません。とはいえ、そこからただ逃げるのではなく、より遠くの人にも、わかりやすく、しっかり届ける。それは僕らがやるべきことだと思っているので、それを踏まえて、対談企画はどういう内容がいいのか、タイトルのつけ方や、拡散の仕方にしても、それぞれに工夫できる点がある。

他のメディアとの企画でも、他のメディアで掲載したコンテンツを単に転載するだけではなく、より企画性を持たせていくということができるようになっていくと思います。今まではメディアの人たちから「そもそもHIROBAって何ですか?」と言われることが多かったですけど、対談相手のみなさんが持たれている信用や経験のおかげで、HIROBAという「場」に対しての信用も少しずつ深まってきている感覚があります。

音楽面では、より多くの作品を出していきたいと思っています。これは一朝一夕では進まないものですし、時間的な要因での難しさもありますが、精力的に進めていきたいと考えています。

新しいことを言う前に今できる微調整をしないといけない

──前回のインタビューでも、楽曲制作をいちばんに考えていきたいとおっしゃっていました。

参照:HIROBA TALK 水野良樹 基準値を変える作業というのもHIROBAがやるべきものだと思う

そうですね。やはり僕は曲をつくる人間ですからね。そこは変わらないですね。8月には高橋優さんとのコラボ作品で「僕は君を問わない/凪」もリリースしました。こちらは小田和正さんとコラボした「YOU」や、僕ひとりでつくった「I」とは、また違う雰囲気の曲になっているので、より跳躍して、広がっていけるといいと思っています。

音楽の伝え方という点では、前回のインタビューでも「既存のフォーマットに囚われずに」ということを言ったのですが、現実は難しくて…ものすごく壁にぶつかっていますね。それはジャケットひとつをつくるにしても、プロモーションでメディアに向き合うにしても、壁は大きいですね。何か些細な変更をするにしても、大変な時間がかかったり、多くの人の許可を得ないといけないんですよね。「既存のフォーマットに囚われずに」という自分の言葉と行動が一致しない状況にあるので、そこはとても苦しいですけど、やれるところからクリアしていきたいと思っています。

参照:HIROBA TALK 水野良樹 理想とする活動は、自分のレギュレーションでなければ、実現することはできない

──今の音楽の伝え方は、多くの人が関わっていて、多くのルートを通った上で、リスナーに届きます。既存のフォーマットではない、新しい音楽の伝え方になった場合も、多くの人が関わること自体は変わらないんでしょうか?
変わらないと思いますね。ただ、意思決定者がミニマムになるので、そこが大事な点ですね。今、僕が言っていることは何も新しいことではなくて、厳しい言い方をすると当たり前のことをしようとしているだけです。その当たり前のことがなかなかできない。

今の時代のタイム感に合わせていくときに、もっと自由度があっていいと思うんです。でも音源を扱うときには権利が問題になるし、プロモーションの部分でもさまざまなメディアとの関係性がある。作品の魅力を伝える上で、必要のない部分に体力を使わざるを得ないことがもったいないですよね。でも、今の時代、今のスピード感に合わせた適合がいくらでもできるとは思っています。

ビッグネームのアーティストがサブスクを解禁したというニュースが出たときに、新たな時代が開けているようなニュアンスが伝わってくるけど、正直めちゃくちゃ遅いし、これまで保守的なことを業界に強いてきたということを認識しなければいけないですし、新しいことを言う前に今できる微調整をしないといけないですよね。

──これまでの慣習もありますし、大きな業界、大きな組織だと、変えるということは、やはり簡単なことではないんでしょうね。
その通りですね。CDジャケットの様式ひとつを変えるにも大変な手続きが必要で、現場スタッフにかかる負担も大きいんですよね。これだけ個別にエンタメを楽しむ時代に、それぞれのアーティストが表現様式を変えることは当たり前のこと。それを何十組もいるアーティストに標準フォーマットを強いるということが非常に時代にあっていない。フォーマットを自由にしたほうが、アーティストの利益は最大化すると思うんですよね。でも、これまでのルールや慣習がある。それを変えることはひとつのアーティストだけではできない。そうすると「じゃあ自分でやるわ」と力のあるアーティストは去っていってしまいますよね。アーティストも現場のスタッフもそれぞれの立場で頑張っているのに、大きなルールに負けて、悲しい連鎖が生まれてしまう。それは変えるべきことだし、もっとうまくできると思って、頑張ってやろうとしたんですけど…なかなか難しいですね。

HIROBAは何の影響力もない、ずぶの新人なので、難しいですけど、この経験は生きると思います。ずぶの新人だからこそ自由が利くという部分もあるので、うまくやりたいですよね。

大事なことは、工夫をしているという目新しさや仕組みでではなく、本質的な作品の魅力を伝えることです。よりわかりやすく、より遠くまで、伝えるという工夫を今の時代にあったやり方でできないだろうかと。それをアーティストが考えているということです。仕組みをつくることが最大の目的ではなくて、作品の魅力を最大限に伝えるスムーズな流れをいかにして生むか。それを考えていかないといけないですよね。仕組みは、目的を達成するための手段でしかないですから。

既存のプロモーション記事にしても、もちろん信頼できるメディアやライターさんもたくさんいます。一方で、自分たちから語り出す言葉、自分たちだからこそ踏み込んでいける場所があって、それを記事化していく。それは作品の魅力を伝えるためのシンプルなアクションをしているだけなんですよね。

自分という存在を開いて、自分のなかに他者を入れる

──高橋優さんとの楽曲制作を通じて、「矛盾するものをどう成立させるか」ということに、楽しさを感じるようになったとおっしゃっていました。

参照:HIROBA TALK 水野良樹 「凪」という表現が、高橋さんの個性。僕では絶対に出てこない。

そこは変わらずにありますね。矛盾を成立させることはすごく大事な視点だと思っています。

もうひとつ、最近思うのは、「自分という存在を開くこと」。今までは、自分という存在と、他者という存在が、それぞれ分断されていて、はっきりと分かれていました。違った考えを持つ他者とどう向き合うか、ある面では矛盾していることがあって、他者とは相容れない考え方があったり、その相容れない部分をどう成立させるかによって、作品が生まれたり、新しい答えが生まれていくことが大事だと言っていました。

今は、自分という存在を開いて、自分のなかに他者を入れるという考え方、そういうイメージも大事だなと思っているんですね。

というのは、いろいろな方々との対談のなかで、そのイメージにつながる言葉が数多くあったんです。

例えば小杉幸一さんはアートディレクターとして、簡単に言うと、「誰かが頭のなかでイメージしていることを具現化する」ということをされています。他者がイメージしていることを、小杉さんは自分のなかに入れて、それを自分の技術やアイデアで整理してデザインに落とし込む。それは相手の思考を自分のなかに入れているということですよね。ただ、相手のイメージそのままかというとそうではなくて、小杉さんの視点が加えられてデザインとして成立させている。他者のストーリーを自分のなかに内包させて、自分の血肉にしていくことは人間としてすごく正しいことなのかもしれないと思ったんです。人間の表現というのは、今まで出会ったり、経験したすべての物語が、自分というフィルターを通って出ていくことなのかもしれないと、最近思い始めているんです。

参照:HIROBA TALK 水野良樹×小杉幸一 デザイナーというよりは翻訳家

そうするとHIROBAをつくったことの意味にもつながっていきます。「場」というのは、それぞれの人の人生や背景を受け入れていきますよね。HIROBAもいろんな人が集まってきて、それぞれの人の人生や背景を受け入れて、そこに新たな物語が生まれる。HIROBAにいろんな人の物語が内包されていく。それがHIROBAの表現になっていく。どれだけ他者のストーリーを自分のなかに入れることができるかが、大事なポイントだと思っています。それが気づきとしてあって、今、創作をする上でのヒントにもなっているんですよね。

僕は「曲は器なんです」ということをずっと言ってきました。例えば「ありがとう」であれば、結婚式でご両親への感謝の気持ちを伝えるときの器になって、そこにみなさんの感情を入れてもらえたらと。その構図こそ、まさに他者のストーリーを受け入れることだなと。

「上を向いて歩こう」なんかは、まさにそうで、何十年にもわたって膨大な数の人の物語を受け入れていったわけですよね。そして受け入れていった歴史が、あの曲の歴史になっていった。スタンダードになる曲は、どれだけ多くの人の物語を受け入れる包容力を持っているかが大事で、それこそが歌というものが大衆的であったり、多くの人の物語を受け入れるキャパシティーを持っている表現だということだと思います。僕が書いた曲が、出会うことのない人、僕が死んでから生まれる人にもつながっていく、その人の物語を受け入れる存在になる可能性があるというのはものすごくロマンがありますよね。

そう考えると、HIROBAという「場」をつくったことは大正解だったと思います。「人」にフォーカスして、水野良樹のソロプロジェクトという形をとっていたら、僕が死んだら終わってしまう。でも「場」であれば、僕がいなくなっても残りますからね。そこに常にいろんな人が入ってきて、HIROBAが形づくられる。

「僕が死んでも曲は残る」と僕はよく言っていますが、それと同じことです。

まだまだ言語化できないことはたくさんあるけど、言語化できなくても思っていたからこそ、今この「場」にたどり着いていると思うんです。さまざまな経験を経て、ようやく言語化できるようになってきたことが増えてきた。それが楽しいですよね。

──そして、その言語化できてきたことを、多くの人もその“共感のかけら”を持っているんだと、いろんな場面で感じられることが多くなってきましたよね。
本当にその通りですね。うれしいですよね。

「ドキュメント72時間」のトークショーにしてみても、ドキュメンタリー番組という音楽とはまったく違うものをつくっている人たちとつながるとは、正直思っていなかったですからね。でも、実際にお話してみると根幹的な姿勢は同じなのかもしれないと思う部分が多くて。

4月に始めた頃は「何をしようとしているんだろう」という状況で、予感はずっとあるけど、「どう進めよう」といった感じでした。今は、その危機感や怖さは通り越して、見えているけど実行できないという、いい意味での「もどかしさ」がある。もう少し時間があったら、もっといいものにできるということが、いくつも見えてきている。つまり、「やればできる」という現実的な課題に変わってきている。何も見えないという苦しさから、もどかしさに変わっていて、それはものすごい進歩だと思います。それを繰り返して、さまざまなことを経験して、成長していく。対談していると気づきがあって、それはHIROBAだけではなく、自分の創作のエンジンにもなる。それはすごく大きなことですね。

──他者と「向き合う」のではなく、他者を「受け入れる」というイメージで、人との接し方も変わっていきそうですね。
他者とのそういう向き合い方があるということに気づけたのは大きいですね。

そう考えると、今、自分が好きになったものも説明ができるというか。講談師の神田松之丞さんが好きなんですけど、講談の知識なんてまったくなかったのに、どうして自分はこの人にこんなに興味を持つんだろうと思っているんですね。松之丞さんの講談が素晴らしくて面白いからなのは当たり前ですけれど、それ以上に惹かれる理由はなんだろうと。

彼の講談の背景には、歴史に埋もれていってしまう話がいくつもあるなかで、それを伝えるという彼の使命があるわけですよね。彼の口から話されることでよみがえっていく物語がたくさんある。その使命を感じている。

神田松之丞さんのインタビュー本で読んだんですが、彼は大学生の頃に膨大な数の落語や古典芸能を、客として観たと。古典芸能の素養を自分のなかに入れ込んで、弟子入りした瞬間に客としての自分を終えて、それまでに観て勉強したものを、今ふんだんに使っているという。それこそ、物語を自分のなかに受け入れて、自分のフィルターを通して表現するということにつながりますよね。

僕らの時代は、ひとりの人間が自分の言いたいことを表現して、唯一無二のものをつくるみたいなところがあるけど、誰かがつくったものを、秘伝のタレを足していくように、自分のものにしながら、ちゃんと次の世代にもつないでいく。他者を内包するということを、歴史と呼べちゃうくらいの長い時間軸や、膨大な数の人間がつないできた技術伝承のなかで体現されている。だから、魅力を感じているんだと思うんですよね。松之丞さんの口を通して、聞き手はもっと大きなものに触れさせてもらっている。それがヒリヒリするというか。

──ということは、今、いちばん会いたい人ということですよね。
そうですね。でも、ただの知識の浅いファンなので、好きすぎて…ちゃんと話せるかどうか…(笑)。

とにかく、他者を受け入れるということが、これからの自分のひとつのテーマになりそうな気がします。

(おわり)

Text/Go Tatsuwa

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