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そして歌を書きながら ほんとうに、みじかい、時の手紙。

2019.07.22

2019年春から、共同通信社より各地方新聞社へ配信される水野良樹の連載コラム「そして歌を書きながら」(月1回)。こちらではそのコラムに加筆修正を加えたHIROBA編集版を、お届けします。

ほんとうに、みじかい、時の手紙。

少しばかり過去から、皆さんがいる未来に向けて、この原稿を書いている。
不思議な書き出しで始まってしまったが、何のことはない。原稿を書いてから実際に文章が紙面(共同通信配信の記事)に掲載されるまでには当然「少しばかりの」時間差がある。だからこの記事は少しだけ昔に書いた文章ですよと、ただそれだけのことだ。

それぞれ時間の幅に差はあっても、書籍や雑誌、新聞やウェブ、ほとんどの文字メディアにおいて文章の作成と掲載とのあいだには時間差があって、それはこの文章に限ったことではない。

だが、この文章には2つの特別な点がある。

ひとつは連載が始まったばかりで事務的な理由で通常より早めに原稿を用意せねばならず、時間差が少し長くなってしまったこと。

そしてもうひとつ。

その時間差のあいだに「元号が変わる」ことだ。

そう、僕はこの原稿を読んでくださっている皆さんが知っているであろうことをまだ知らない。未来から教えてもらえるのなら、尋ねたい。

「新元号は、何になりましたか?」

当然のことではあるけれど何とも滑稽だ。その時が来れば日本中の誰もが知る新元号。今、記事を読むあなたも知っているのだろう。読者は答えを知っているのに筆者だけが未知のなかにいる。格好をつけて言えばこの文章は、時を越えた手紙だ。

何事もなければ菅義偉官房長官が会見で新元号を発表するのだろうか。新元号の発表といえば、当時の小渕恵三官房長官が平成と書かれた額縁を掲げるあのシーンを思い出す。しかしその印象も塗り替えられているのかもしれない。

菅さんがその時どんな表情をするのかわからないが、そのシーンはこの記事が読まれる頃にはすでにテレビのニュースなどで繰り返し放送されているのだろう。

「新元号が発表される」という言葉で思い浮かべられる映像も、小渕さんの穏やかな表情から、菅さんの唇を締めた緊張感のある表情に変わっているのかもしれない。

くどいがこれも過去にいる自分はまだ見ていない。

読者の皆さんは「いやそれが意外にも、あの菅さんが笑ったんだよ!」とこの文章を読みながら今得意げに呟いているのか。もはや想像するしかない。

新しい時代の始まりを迎えた街の空気はどんなものなのか。
願わくば、わずかでも希望を感じる風が吹いていてほしい。

自分がいる過去と、読者の皆さんがいる未来との時間差はそれほど長くはない。たった数カ月だ。そんなわずかな時間では何も変わらないのかもしれない。しかし、たった数カ月どころか、たった1日で世界が変わってしまう出来事があまりにも多かったのが平成という時代でもあった。

自分は小学生になる頃に平成の改元を迎えた。青春時代と呼ぶ日々のすべてが平成だ。世界が変わるいくつもの「1日」を同時代の人間として見てきた。思えばその「1日」の多くは悲劇だった。そして、それらを経ても時代が決して止まってはくれないことも、もう知っている。

いくつもの常識が変わり、いくつもの常識が変われなかった。不満を覚えるのか、希望を見出すのか。

いずれにしても明日は未知であり未知の明日は必ず来る。まだ見ぬ新しい時代に、向き合わねばならない。最後に未来の自分に伝えたい。新しい時代に期待と苛立ち、希望と不安を抱えて臨む今の気持ちを君は、忘れないでくれ。

(共同通信社の記事で発表されたのはここまで)

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