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【前編】二極化の先にある可能性

「TOKYO NIGHT PARK」柴那典さん対談 HIROBA編集版  

音楽ジャーナリストの柴那典さんを迎えたJ-WAVE「TOKYO NIGHT PARK」の対談。取材する側、される側として、これまでに幾度となく言葉を交わしてきた二人が語る“今、音楽にできること”、そしてビジネス、カルチャーとしての“音楽の可能性”。前後編のHIROBA編集版としてお届けします。

水野 こういった形で対談するのは初めてなので少し緊張しますね。

 そうですね。よろしくお願いします。

水野 最初に柴さんとお話をしたのは、2014年4月に開催された宇野常寛さんのイベントでしたね。

 意外と不思議な出会いですよね。僕はアーティストの方とは基本的にインタビューでお会いすることがほとんどですが、水野さんとはそうではなかったんですよね。

水野 トークイベントの登壇者として。あのとき、僕はすごく緊張していて。柴さんにインタビューしていただいたことがないのもありましたし、もしかしたら考えていることに距離があるかもしれないとドキドキしていたんです。

 うんうん。

水野 肩肘張って挑んだことを覚えています(笑)。柴さんからご覧になって僕やいきものがかりはどうのように見えていましたか?

 僕はインタビューをさせていただいて打ち解けて、そこからライブに行って関係を深めていくタイプなんですよね。

水野 はい。

 いきものがかりとはそういう関係を持っていなかったので、最初に出会ったときはかしこまる感じでしたね。いきものがかりはJ-POP代表というイメージもありましたし。トークイベントで出会って、その後何度もインタビューさせていただき、僕の書籍「ヒットの崩壊」のタイミングでガッツリ取材させてもらって。

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https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000210885

水野 そうでしたね。

 水野さんは自分たちのグループだけではなく日本の音楽シーンの過去と未来までも考えていらっしゃるなと思って。そこからご一緒する機会が増えましたよね。

水野 本当にありがとうございます。

2016年に柴さんが「ヒットの崩壊」という著書を出されて、そのときに日本の音楽シーンに関わるいろんな方々に取材されて、僕もインタビューをしていただきました。あれから4年経って2016年の段階では想像できなかったことがたくさん起こっています。あの頃からの変化をどう感じていらっしゃいますか?

 半分は予想通りで、半分は予期せぬことが起こったという感じですね。

水野 まず、予想通りというのはどういった部分でしょうか?

 2016年は日本でSpotifyがスタートしたり、その前にApple Musicが始まったり、ストリーミングサービスが始まった時期です。これから先はストリーミングが主流になって「ストリーミング発のヒット」が出てくるはずだと言っていたのが、4年経ってその通りになってきている。

水野 はい。

 もうひとつは、音源というものがなかなかビジネスにならない中で、ミュージシャンはライブを軸にして長く活動していくようになる。そこに関しては今、暗雲が立ち込めてしまっている。

水野 そうですね。

 この大きな変化は…全く予期していなかった。

水野 僕らの想像力が脆弱だったわけではないと思いますが、感染症の拡大という、僕らが生きてきた中では経験したことがない、あまりにも想像を超えた状況が生まれてしまいました。

 はい。

水野 特にライブやイベントといった「会場に集まるエンタメ」に対する視線が非常に厳しいものがある。その中で音源もしくは配信でどうやってエンタメビジネスのシステムを維持していくか、いろんな議論が起きています。柴さんはどうお考えですか?

 そうですね。感染が広がって最初に思ったのは東日本大震災の時との比較ですよね。3.11の時も「音楽の力」「音楽に何ができるのか」が問われた。でも今は集まることができない。

水野 はい。

 震災のときは、アーティスト自身が被災地にボランティアとして行ったり、それぞれが思うことをやったり、実際に体を動かすことで支援につなげることができた。音楽は勇気づける側、力づける側、寄り添う側でいられたんですよね。大変な中でも音楽は人を助けることができる、役に立つことができるというポジティブな役割を見つけられた。

ところが、今回はライブやイベントができないことでアーティスト自身はもちろん、ライブに関わる多くのスタッフの方々が壊滅的な被害を受けた。エンタメは人を楽しませるもの、力づけるものなのに、一番苦しい状況に立ってしまった。

水野 はい。「音楽の力」という言葉が震災の時よりもさらに願っていない軽さを持ってしまうという難しい状況になっています。

 「ひとつになろう」「手を取り合おう」というメッセージももちろん大事で有効だと思いますが、こういう状況ではどうすれば心の距離を近づけることができるのか、人と人が離れた中でも心に響くメッセージを届けることができるのか。どのアーティストにとっても、ものすごく高いハードルですよね。

水野 とんでもない分断の時代ですよね。「助けよう」「支えよう」という動きの中でも、誰を助けられるのか、誰を助けられないのかということも出てくる。同時に、助ける行動が取れる人、取れない人もいる。そこから生まれる疑心暗鬼によって雰囲気も殺伐とする。

視野を広げれば政治は混乱の状況にあって、震災のとき以上にぶつかり合っている。「一つになる」「連帯する」ということが叶わない。歌のメッセージとして、あまりにも弱々しい。その中でどうやってつくるかは、難しい課題ですよね。

 突きつけられているものの大きさを感じます。特にここ数年の日本は、経済的にも文化的にもオリンピック・パラリンピックに向けていろんな準備してきた。そこで歌われるべきメッセージはまさに「みんなで一つになろう」「盛り上がろう」という世界線に進んでいくはずで、今の我々との状況差が大きすぎる。

多くの人はその大きな差に対応できず、右往左往している。今何をすべきか、正解がない状況が続いている。しかも日本だけではなく、全ての国を巻き込んで世界全体で何が正解かわからない。

水野 精神的にも物質的にも分断されて孤独になってしまいがちな状況に置かれている。その点においてだけは共通している。共通点をこんなにも持てる時代はなくて、音楽のヒントになる可能性、次への突破口になる可能性はあると思いますが…難しいなぁ。

この間にアーティストによる興味深い動きはありましたか?

 最も大掛かりで「すごいことをやったな!」と思うのは4月にオンラインチャリティイベント「One World: Together At Home」を開催してレディー・ガガですよね。


https://youtu.be/nTd5Trp1pbg

外出禁止のいちばん厳しい状況でみんながステイホームしている時期というのもあるし、ポール・マッカートニー、ザ・ローリング・ストーンズ、スティービー・ワンダー、エルトン・ジョンといった大御所の面々を巻き込んだこともすごい。あとは、TVはもちろんYouTube、Netflix、Amazonといった数多くのプラットフォームを巻き込んだこと。

あれだけのタイミングで大きなことをして、ちゃんとお金を生む。そういう意味では経済面の貢献も含めて「偉いな!」というのがひとつ。

水野 はい。

 そして「One World: Together At Home」というのは物理的な距離は離れている中で心を重ねられる数少ないメッセージだなと思いました。

水野 まさにインターネット的世界の構図ですよね。一人ひとりのデバイスから大きな世界に接続している。それはコロナの影響でいっそう如実に表れた。インターネットがなかったらどうなっていたんだ!という話ですからね。

 本当にそうですね。僕自身もここ数カ月の取材の99%はリモートになっていて、コミュニケーションとしても「意外にできるぞ」という感覚です。おそらく、ラジオを聞いていらっしゃる方も、リモートワークやオンライン会議なんかはやってみたら意外とできると思った方が多いと思います。

水野 実際に対面で聞く取材との違いは何かありますか?

 大きな違いとしては、メンバーそれぞれが別窓になるパターンがあるので、そうなるとグループであっても結局は全員に同じことを1回ずつ聞く「1対1×3とか4(メンバーの人数)」みたいなことになりがちですね。

水野 ああ、なるほど。

 対談や鼎談って「そうだ、そうだ」という具合に話が盛り上がって、脱線するじゃないですか。

水野 はい。

 リモート取材は1対1でしっかり話し合いができるスペースにはなるけど、雑談のような感じにはならないですね。

水野 これは、よく言われますよね。

 会議や打ち合わせもそうですが、終わった後に「ありがとうございました!」ってすぐ切って余韻がない。「雑談したいな…」みたいな。

水野 (笑)ホントそうですよね。でも僕は打ち合わせには適していると思っていて、みんな論理的に喋ろうとするし、物事を前に進める上で無駄な議論がないというか。でも、柴さんのおっしゃる通り、予想外の展開がないですよね。クリエイティブかどうかで考えると違うかもとも思う。

 そうですよね。あとは、ここ最近になってオンラインライブがグッと増えてきていますよね。

水野 はい。

 現場のスタッフにも仕事があるということを考えると、無料ではなく有料で広がっていることは素晴らしいことだと思います。いろんなアーティストがオンラインならではの楽しみ方を模索したり、実験している。例えば、ステージだけではなく、フロア(本来の客席)にわざわざ照明を置いたり。

水野 はい。

 そこも正解がないからアイデアが試される部分だなと思いながら楽しんでいます。

水野 オンラインライブができる人たちは、客層がある程度つかめている人たちじゃないですか。ライブを見たいと思ってくれるファンがいるアーティストじゃないと成立しない難しさがある。その解決策は何かありますか?

 そこが本当に大事だなと思います。フェスにしてもイベントやサーキットライブにしても、ビール片手にフラッと見て、「なんかこれいいじゃん」という貴重な出会いがあった。それは音楽的に豊かな体験ですよね。オンラインだとちょっとつまらないなと思うと席を立ってしまう。

水野 そうですよね。離脱が早い。

 興味あることだけに特化してしまう。そこは解決策が見つかっていないですよね。

水野 音楽が好きな人たちでさえも、好きなアーティストしか見ない状況になりがちじゃないですか。本来ならば新しいリスナーを獲得していくことが重要ですが、音楽に興味を持ってもらう機会自体をつくりにくい状況になっています。

 そうですね。

水野 僕はフェスが苦手なんですけど(笑)、フェスがすごくいいのは、ある種レジャー的な部分がある。レジャーとしての入り口、友達と遊びに行くという入り口から音楽の深い魅力に触れていくという新規開拓の場になっていた。今はそういった状況をつくることが難しいので、どうしても縮小していってしまう。流れとしては厳しいですよね。

 そうですね。オンラインフェスって、いくつか始まっていますが、具体的にどんなことができるのか、もっというとフェスっぽさって何だろうとか。オンラインライブとは違った空間、楽しさをどうやってつくるか。そこはチャレンジだと思います。オンラインはどうしたって、生の代わりにはならないですから。

水野 はい。

 ライブができるようになったときに、例えば地方にいる方や子育て中で外に出られない方は配信で見られるとか、全国ツアーのファイナルはバーチャルステージで開催するとか。そういうどっちもありという状態になるといいなと思います。

水野 新たな選択肢が増えるという感じですよね。

 ライブに行けなかった人は今までもいる。それぞれの生活のリズムがあって、時間的に対応できない人はいるわけですから。

水野 そうですね。多様化に対応する大事な視点として、オンラインライブは充実していくと思います。

サザンオールスターズの新たな試み(横浜アリーナで開催された無観客ライブ)をものすごく多くの人たちが見ていたじゃないですか。

 はい。

水野 収益的にはけっこうな額になる。ポジティブに捉えれば収益を得てさまざまなビジネスに発展して関係者を助けることができる。一方で「ヒットの崩壊」にもつながる話で、すさまじい利益を得られるアーティストとオンラインではビジネスにならないアーティストの二極化が進む。ここはすごく難しいなと思います。

 それは本当に危惧するところだと思います。

ひとつ面白いと思ったのは、サザンが6月25日にライブをやりましたが、その前日にも僕はオンラインライブを見ていて。KREVAさんが新しいプラットフォーム「Thumva」でこけら落としライブをやったんですよ。そのサービスが面白い!友達8人くらいまで誘って、Zoomのビデオ通話のように話しながらライブを見られるんですよ。


水野 なるほど!

 アーティストTシャツを着て、タオルマフラーを持って、でも誰も見ていなかったら虚しいじゃないですか。

水野 (笑)そうですね。

 でも、ビデオチャットでライブを見られる。チケットを買ったファン同士が一緒に集まって盛り上がることができる。

水野 面白い!

 これは新しいなと思いました。アーティストサイドとしてもオーディエンスの数を絞って、例えばファンクラブ限定や地域限定など、すごく絞る代わりにチャットでしっかりコメントを拾ってコミュニケーションを取ってライブをすることもできる。しかも配信ライブなので、終わった瞬間に最初から再生できる。

水野 おお!そうか。

 ライブ後に打ち上げ会場に移動して、KREVAさん本人が終わったばかりのライブの解説をしているのも見られる。打ち上げ配信は普通のオンラインライブの2倍のお得感がありましたね。

水野 なるほど、将棋の感想戦みたいな(笑)。

 そうそうそう!好きなアーティストがライブ後に「ここの演奏がちょっとさ…」とか「ここは上手くいったよね」という話をしているのを見るのはすごく楽しいですよね。

水野 アーティストと観客のコミュニケーション自体がエンタメになるんですね。しかも表に出る以外の舞台裏も含めて物語化するというか。今後はそういった見せ方が、より活発になっていくのかもしれませんね。

 サザンの十何万人が見たライブとKREVAのライブはまさに二極化ですが、どちらも楽しいなと思いました。

水野 そうか。どちらも違う可能性を持っているということですよね。面白いな。

(つづきます)

<プロフィール>
柴那典(しば とものり)
1976年神奈川県生まれ。
ライター/編集者/音楽ジャーナリスト。
a.k.a シバナテン。
雑誌「ロッキング・オン」の編集者を経て独立し、
雑誌やWebを中心にインタビューなど幅広く活動。
著書に『ヒットの崩壊』(講談社)、
『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、
共著に『渋谷音楽図鑑』(太田出版)。

柴那典 Twitter
https://twitter.com/shiba710
柴那典 note
https://note.com/shiba710

Text/Go Tatsuwa

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