関取花 連載 最終回「はなちゃんちゃん」
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関取花 連載 最終回「はなちゃんちゃん」

ラジオに出演させていただくと、初めてお会いするパーソナリティの方から「なんてお呼びしたらいいですか?」と聞かれたりする。普通だったら名字にさん付けで呼ぶのが一般的なのだそうだが、関取も花もどちらも同じくらいインパクトがあるため迷うそうだ。もちろん私はどちらでも大丈夫と答えるのだが、そうすると大抵の方は「花さん」と呼んでくれる。これだけでもだいぶ嬉しいのだが、さらに嬉しいのは、二回目の出演があった時、自然とむこうから「花ちゃん」と呼んでくれた時である。

私は花ちゃんと呼ばれるのが好きだ。ラジオの時に限らず、歳上の方からも、同級生からも、歳下の子からも、できればみんなにそう呼ばれたい。距離が近付いたような気がして嬉しいし、自分としてもありのままで接しやすくなるからだ。そうは言っても年齢と共になんとなく「ちゃん付け」は減っていってしまうものなのかなと思っていたが、そんなことはなかった。むしろ増えている。ラジオで言うと二回目以降の出演が増えたというのもあるが、そうじゃないところでもだ。明らかにここ1年で、初対面から花ちゃんと呼んでくれる人が増えた。そうじゃなくても、たとえば撮影などで一日中一緒に過ごしているうちに、自然とどこかのタイミングで花ちゃん呼びに変わっていたりする。

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名前のキャッチーさのおかげはもちろんあるが、私の中で変化があったのも事実だ。ここ1年で私は「やっぱり人が好きだな」と思うことが増えた。その前までは、極端に言うと「人は好き、でも心から信頼している人に限る」という感じだったのだが、最近はそうじゃない。全然知らない人とも話してみたいと思うし、心から興味を抱けるようになった。接してみた上で、もっと仲良くなりたいと思ったりそうは思わなかったりというのは人間なのでもちろんあるが、基本的に入り口から遮断するということはなくなった。もっと自分から相手に飛び込んでみよう、身を委ねてみよう、そう思えるようになったのだ。簡単に言えば、よりオープンになった。

ではなぜ「人が好きだな」と思えるようになったかというと、単純に自分のことが好きになれたからだと思う。今思い返せば、私は自分と向き合うことをずっと避けてきた。自分がどう在りたいか、いざ向き合って考えたらその答えが出てこない気がして怖かったのだ。だから来た球をとりあえず打ち返し続けることで自我を保っていたのである。「何がしたいか」より「何をすべきか」ばかりを優先して自分を追い詰めていたので、本当の自分の正体がよくわからないままでいたのだ。時間も自信も余裕もなくて、上っ面だけで、きちんと人に興味を持てないでいた。

でも、コロナ禍により家で過ごす時間が増えて、必然的に自分と向き合う時間が増えた。そしたらいろんなことに気が付いたのだ。家から出なくても事件は起こるし、一歩外に出れば毎日発見は尽きない。見慣れた街並みにも日々微妙な変化はあるし、一本路地に入れば見慣れない景色が広がっていたりする。雲の形をぼんやり眺めながら思い出すいくつもの顔があって、会いたい人がたくさんいて、その人たちとやりたいこともまだまだたくさんある。そして、そういうことを考えている時の自分は好きだなと思えた。「何がしたいか」が自然と湧いてくるのはなんだか久しぶりな感覚で、とても嬉しかった。

そのあたりから、文章の書き方も変わった。前までは「話のネタを探しに行かなきゃ」と思っていたが、今は「探しに行かなくてもそこらへんに落ちているから大丈夫」と思えるようになった。探しに行くと、話のネタになりやすそうなものにしか目が行かなくなる。でも本当に面白いこと、自然と文章にできることは、そうやって見つけられるものじゃない。わざわざ花見に行って見る桜より、散歩の途中で偶然見つけた一本の桜の木によっぽど心を奪われたりするように、何も考えていない時にふと目に入ったこと、気が付いたことの中に物事の本質というのはあったりするのだ。

HIROBAでの連載を見返していても、その変化に気付く。連載開始当初は、頭から最後のオチ目掛けて文章を組み立てていっているのがわかる。こうしなきゃ、ああしなきゃと考えながらそうやって外に出した文章は、その時の満足度はすごいのだが、あとから自分で見返すかと言われたらちょっと小っ恥ずかしくてできない。「頑張って関取花してる」感じがするのだ。でもここ1年くらいの文章を読んでいると、もう少し自由度が増した印象を受ける。もしかしたらその分インパクトは減ったかもしれないが、本来の自分らしさで言うとこっちだよなと思う。肩に力の入った「花さん」の文章から、ありのままの「花ちゃん」の文章になってきた気がする。

そんなこんなで最近ようやく「花ちゃん」でいられるようになった私。まさにこれからという時なのだが、なんとこの連載『はなさんさん』、今回で終了なのである。とても寂しいし、まだまだ続けていきたい気持ちは山々なのだが、別れというのは突然やってくるものだ。

最初にこの広場に飛び込んできたときは、何もない場所でどうやって楽しんだらいいか、どうやったらお友達ができるかがわからなくて、「私はこんな人ですよ、だからみんな仲良くしてよ」というわかりやすい何かが欲しくて、あれこれいろんなものを自分で持ち込んでいた。それは話のネタだったり、明確なオチだったり。でも、月日が経つにつれそんなものがなくてもこの広場ではいくらでも楽しめることがわかった。何も持たずに手放しで、目に入った景色を、触れた感触を、今話したいことを、思うがままに伝えてみればいい。それだけで物語は生まれるし、自然と仲間も増えていくのだと気付いた。

そうこうしているうちに私も30歳、連載も今回で30回目を迎えた。この広場も新しい春を迎える。良いタイミングなので私も勇気を出して、一歩外に飛び出してみようと思う。きっと今ならどこに行っても楽しめるはずだ。何事も自分らしく楽しむことができたなら、そこはいつしか大切なホームグラウンドになる。この広場が私に教えてくれたことだ。

というわけで、『はなさんさん』はこれにて終了です。この広場の仲間に入れさせてもらえて最高に幸せでした。読んでくださった皆さん、本当ありがとうございました。そして水野さん。この広場で遊ぼうと誘ってくれて、本当にありがとうございました。またいつか、この広場でも他のどこかでも、何か一緒に楽しいことができたら嬉しいです。あ、ちなみにこちらは『はなちゃんちゃん』でリニューアルして連載再開する準備はいつでもできておりますので、気が向いたらいつでもお声がけくださいね!(笑)

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関取花「新しい花」アー写軽

関取花(せきとり・はな)
愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けているミュージシャン。NHK「みんなのうた」への楽曲書き下ろしやフジロック等多くの夏フェス出演、初のホールワンマンライブの成功を経て、2019年5月にユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。
ちなみに歌っている時以外は、寝るか食べるか飲んでるか、らしい。
関取花オフィシャルサイト
関取花Twitter

<最新情報>
メジャー1stフルアルバム「新しい花」を3/3(水)にリリース。
詳細はこちら
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ソングライター水野良樹が主宰するHIROBAの公式noteです。 『考えること、つながること、つくること』 その3つを豊かに楽しむための広場=HIROBAをつくっていく試みです。 定期購読マガジン『HIROBA公式マガジン』のご購読もよろしくお願いします。