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読む『対談Q』 水野良樹×柴田聡子 第4回:小さいものを、反転させたら、広い。

HIROBA



HIROBAの公式YouTubeチャンネルで公開されている『対談Q』。こちらを未公開トークも含めて、テキスト化した”読む”対談Qです。

今回のゲストはシンガーソングライターの柴田聡子さんです。

前回はこちら


誰にもなれないけど、あっちも私になれない。


柴田:どんどん自分が小さくなっていく感じはしませんか? 歴史のなかの点にも満たない、すーごいチリ。

水野:それはどういう感覚なんですか?

柴田:すごーい小さい点だから、まぁ土の一個として、ちょっと役に立てばいいかなぐらいの抜け方というか。そうなると、生きていることとかも本当にこだわりがなくなってくるというか。

水野:はいはいはい。

柴田:今、自分に家族とかもいなくて、自由気ままにやっている。そうなると、この短い一生を、音楽なら音楽とか、ひとつそういうものでやってもいいか!って気持ちが芽生えて。いい感じだなーって。

水野:めっちゃ思春期じゃないですか。思春期の少年少女たちの言葉。

柴田:そうなんですよー。どうしよう、恥ずかしい(笑)。

水野:でも一周まわって、今から同じこと言うので(笑)。急に僕も青臭くなっているんですよ。「好きなことをやればいいじゃない?」って。あと、「小さい」ってところで、僕が共通点だと思うのは、僕の場合、30代に入って家族ができたんですね。で、息子が生まれて、そこが考えに大きく影響してきて。生活も変わるし。

柴田:そうですね。

水野:僕がどういう人間であれ、彼が生まれてきたってことのかなり決定的な要因じゃないですか。

柴田:もちろん、もちろん。

水野:父親だから当たり前なんだけど。それがひとりの人間として、かなり大きな肯定に繋がっちゃうんですよ。

柴田:へぇー!

水野:よくも悪くも、この子が生まれてきたことに関わっちゃっている。それがビックリするくらい大きいことで。今まで勝手に、「死んだら終わっちゃうから、たくさん作らなきゃ」とか、「自己肯定感ほしいから、褒められたい」とか思っていて。その欲がうまくドライブしたこともあるけど。でもそれが、どんどん小さくなっていって、「まぁ彼がうまく育ってくれればいいな」って。

柴田:うんうん、そうですよね。

水野:で、父親であろうとか、家庭で頑張ろうとか思うけど、うまくできないことばかり。全然やれてない。だけど、音楽の仕事も頑張らなきゃいけない。バランス取れない。大変だー、みたいな感じになるわけですよ。

柴田:そりゃそうです…!

水野:それはそれとして。小さなひとつの家族で、「うちの両親もそんなふうに考えて、俺を育ててくれたんだなぁ」とか思って。それが教科書に書いてあることじゃなくて、実感としてわかるようになると、どんどん自分の存在が小さくなっていったというか。

柴田:へぇー!おもしろいですねぇ。

水野:でもその小さいことが、とくに家族ができた方とか、同じように思う普遍的なことなのかもって。家族を作らない方も、それぞれ暮らしのなかで感じるものがあって…。意外と個人に向いていくと、万人受けに近いみたいな。

柴田:そうですね、そうですね。小さいものを、反転させたら、広い。本当に物事ってそうですよね。

水野:柴田さんが書かれるような言葉を、僕は書けないし、作品に書かれているような経験を僕はしてないと思うんですよね。もちろん性別も違うし、暮らしも違うし、生きてきた家庭も違うから。でも、柴田さんが個人的な目や肉体で見てきたものを見せられても、やっぱり同じものがあるんですよね。どこか通ずる。

柴田:うんうん、本当に。

水野:意外と個人のことを書いているのに、ひらけている。それが不思議だなって。

柴田:そうですね。私は徹底的に個人的なことをやってきたと思うんですけど、それが誰かと理解し合うというか、分かり合う唯一のすべだなって感じます。それをやっていれば、音楽をやっているひとだけじゃなく、いろんな界隈のひとたちと話ができる感じがして。音楽のひととしか話ができないって悲しいことだと思うから。

水野:わかります、わかります。

柴田:みんなそこはなんかあるんですよね、多分。響き合うために、私も自分のことを一生懸命に見つめるというか。考えている。「誰にもなれないな」っていうのは、私も思います。

水野:そうなの。なれないの。

柴田:誰にもなれないけど、あっちも私になれない。って思うのは簡単なんですけど…。

水野:そこに素直になるのが難しいですねー。

柴田:難しいし、自分がそれなりの成果をあげないと、素直になれなかったりしますね。やっぱりすごいなって思うひとはいっぱいいます。すごい、みんなすごい…。

水野:なんか最終的に…。

柴田:これ大丈夫かな。「みんなすごい…」って終わっていく。


ネガティブな歌もいっぱい書きたい。


水野:焚火を囲む会(笑)。でもご覧の方も同じように、「自分は何者にもなれない」って思っている気がするんですよね。だけど、「相手も私にはなれないんだ」って開き直ったり、受け入れたりすると、表現の道がひらけたり。もうちょっとポジティブに生きられたり。

柴田:それだけで全然。

水野:柴田さんの音楽は結構、肯定の歌なのかなって、今聞いていて思いました。

柴田:それは嬉しいです。ひねくれているとか、意地悪とか、すごく言われる。否定はできないんですけど。

水野:僕、あえて言えば、「みんな意地悪じゃん」って。意地悪な部分を持ったり、ちぇっとか言ったり、悪態をついたり。僕はよく腹黒いって言われましたけど。まぁ腹黒いところもあるんでしょうけど。

柴田:あります、みんなあります。

水野:そこを含めて肯定したいというか、人間っぽいというか。

柴田:いいひとにならなきゃとか、ポジティブがいいことだって、前は考えていたんです。でも、隠すだけではおもしろくない気が最近していて。だからネガティブな歌もいっぱい書きたいなと思って。

水野:求めているひとは多いと思います。この詩集のなかに、すっごい長い詩がありません?

柴田:はいはいはい。

水野:あれこそ肯定されている気がしたんですよ。バーッって情報量が入って来るじゃないですか。言い方が失礼かもしれないけど、バーッて文字が並んでいて、意味を読み取れないというか。要は論理で繋がっていなくて、映像が押し寄せてくるように言葉が流れているところを見たときに、俺が生きている世界もそうだなって。景色が流れて行ったり。そんなに理路整然としてないじゃないですか。混濁しているっていうか。

柴田:はい、はい。

水野:それが目の前に詩として現れてきたとき、ちょっとホッとするというか。みんな作品にすると綺麗になっちゃうじゃないですか。本当はもっとぐじゅぐじゅしていたり、はみ出しているものがあったり、滲んでいるものがあったり。「完璧な青じゃない。もうちょっと群青色になっているところがあったり、群青色とも言えないところがあったり…」みたいな感じが人間で。でも、作品にしちゃうと綺麗なカラーになっちゃう。

柴田:うんうん。

水野:そこで、「あ、やっぱり俺の歌じゃない」って思っちゃうときがあるんだけど。

柴田:へぇー!

水野:僕はわりとそのはっきりしているほうを書いている人間だと思われるから、悩みがあるんですけど。柴田さんの作品は、そこを肯定しているというか。そういうものなんだよって提示してくれている気がして。そこに惹かれていると思うんですよ。だから、ネガティブなことをシンプルにするってわけじゃなくて、「ちゃんと全部出しますよ」ってことだと僕は受け取っていて。それは素晴らしいと思います!って言いたかった。


柴田:私は逆に、本意ではないかもしれないですけど、水野さんのようにちゃんと形をがっちり作ってポップスを届けることは本当にすごいと思ってしまいます。私はわりとナチュラルなアプローチで、そのまま行くんですけど。水野さんは、ナチュラルさもありながらも、ちゃんと形を作る。そこの、「なんとしてでも!」って感じ。両方あることが、素晴らしいなと思って。伝わるひとには伝わるというか。


水野:はい、はい。

柴田:本当にもう感覚の話ばかりでアレですけど。


ぐじゅぐじゅ。一生渇かず。


水野:今おっしゃってくださったみたいに、「形を作る」みたいなことを、自分なりにやってきたつもりではいるんです。その意図をいうと、ポップスって、骨組みみたいなもの、道みたいなもので。よく「器」とかカッコつけて言っていたんだけど。その内容物とか肉とか血になる部分は、聴いてくださる方が乗っけてくださるものにしようと思っていたんですよ。頭のなかではそう考えていて。

柴田:はい、はい。

水野:曲に血が通うのは、聴いたひとがそこにリアルな空気や感情を乗せたとき、とか思っていて。だけどあるとき、やっぱり骨組みだけだと伝わっていかないんだな、みたいな。

柴田:それは本当に残念ながら…。いや、残念ながらではないですね。それが大事なんです、やっぱり。

水野:一方で、逆のアプローチで柴田さんみたいに、空気とか内容を書いたひとも、逆に骨組みみたいなものがないと、本当に伝わるかどうかってまた違う気もしていて。

柴田:うん、うん。

水野:そこでの悩みみたいなのが今、「やっぱり私からのメッセージを」って軸を作ろうみたいな。

柴田:そうですねぇ。

水野:意外と同じ課題意識で。

柴田:やっているのかもしれないですね。本当に伝わってほしいと思うと、そうせざるを得ない気がします。

水野:永六輔さんが作詞されている、「上を向いて歩こう」あるじゃないですか。それをある番組で、ナオト・インティライミさんが、旅をされているなかで、アラファト議長の前で歌ったことがあるんです。

柴田:へぇー。

水野:で、その映像を観て、永さんが泣かれるってシーンがあったんですよ。政治的にはいろんな考えがあるから、どっちがいいとかそういう話じゃないですよ。たまたま永さんはご自身の政治的な信条であるとか、ご自身が考えていたことがあって、何かを思って涙されたと思うんですけど。

柴田:うん。

水野:それってめっちゃ個人的な考えじゃないですか。いちばん濃いところ。政治の話とか、個人的な願いとか、自分が出るところ。一方で「上を向いて歩こう」ほど普遍的になった曲って、あんまりないじゃないですか。

柴田:そうですね。

水野:誰でも聴けるし、歌える。そこに個人的な、しかも、他人と分かり合えない部分もあるような感情が反映されていた。それって、ロマンもあるし、リスクもある。おもしろいなって思っちゃったんですよ。ポップスって、奥深いなぁみたいな。個人の濃いところが入ったり、そこが希薄化されてみんなに届いたり。一筋縄ではいかない話なんだなって。

柴田:本当にそうですね。

水野:お互い、近いところもあるし、違うアプローチをしているかもしれないけど、ぐじゅぐじゅこれからも葛藤していく。

柴田:そうですねぇ。ぐじゅぐじゅやっていくしかないかなぁ。

水野:「やっぱ違うかな?」みたいな。

柴田:そう思えるのは、幸福かなぁとも思います。常に行きつくものがなくて、考えることがあるのは。謎を求めてやっているひとはみんな、そういう気持ちをずっと抱えるのかなぁと思うし。ぐじゅぐじゅ。一生渇かず。

水野:解けない問題を与えられたのは、たしかに幸せかもしれないですね。さぁ、ちょっとまたぜひ、続きをお話できる機会があればなと思っております。

柴田:私も願っております。

水野:毎回ここでこういうこと言うんですけど。いつか一緒に何か作る機会をいただけたら。

柴田:それはもう!私は嬉しい。よろしくお願いします。

水野:ということで、今日のゲストは柴田聡子さんにお越しいただきました。ありがとうございました。

柴田:ありがとうございました。



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