読む『対談Q』 水野良樹×松尾潔 第3回:ラブソングこそ政治の意味合いのはじまり。
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読む『対談Q』 水野良樹×松尾潔 第3回:ラブソングこそ政治の意味合いのはじまり。

HIROBA

HIROBAの公式YouTubeチャンネルで公開されている『対談Q』。こちらを未公開トークも含めて、テキスト化した”読む”対談Qです。

今回のゲストは音楽プロデューサーの松尾潔さんです。


前回はこちら


人畜無害なものを作るのがどれだけ難しいか。


松尾:水野さんと最初に会ったのって、なんかイヤな感じですけど、某ラグジュアリーなホテルで。

水野:共通の知人の方がいて。その方が繋げてくださって。

松尾:素敵なランチの時間を(笑)

水野:僕は緊張しましたよ。でも松尾さんはすごく慣れていらっしゃるから(笑)

松尾:いやいやいやいや。

水野:まだ震災が起きてからそんなに時間が経ってない時期だったと思います。で、震災の頃にSNSで僕が政治や原発に関わる発言をして、いろんな声をいただいたとき、僕らを揶揄する言葉として、「毒にも薬にもならない、人畜無害な音楽をやっている」とおっしゃった方がいて。それに対して僕が、ちょっと若気の至りで、「人畜無害なものを作るのがどれだけ難しいか」って噛みついたんですよね。そうしたら、松尾さんにお会いしたとき、そのことをすごく肯定してくださった。

松尾:そうです。


水野
:「人畜無害のものを作るのがどれだけ難しいかって、まさにそのとおりですね」みたいなことを、松尾さんがおっしゃってくれて。嬉しくて。もちろん政治のことはそれぞれ意見が違うから、分かれて当然なんだけど。ポップスってものが人畜無害で”あろうとすること”の難しさを松尾さんが慮ってくれて、声をかけていただいたのを覚えていて。

松尾:これは完全に趣味の問題なんですけど。僕が作る音楽は、あまり強いイデオロギーを感じさせない、耳当たりのよい、好きな言葉で言うと「メロウ」なもの。そういうものと、エッジな社会意識を持つことを両立させたいと常に思っている。だけど「松尾はいろいろ言うけど、作っている音楽はラブソングばっかじゃねーか」みたいなね。そこに対して、わかってないなぁ…って思っていたのを、水野さんがスパッと言ってくれた気がしたの。


「ライフ」っていろんなことを含んでいるし、含んでなきゃ嘘ですよ。


水野:僕はポップスって、”見えない政治性”がいちばん強いものだと思っていて。だからこそ、ロマンを感じているというか。松尾さんが「ラブソングばっかじゃねーか」っていろんなひとに言われるときの、「ラブソング」ってすごく政治的なものだと思うんですよ。

松尾:ホントだよね。

水野:ひとの愛し方とか、愛の作り方とか。分かり合えない他者たちが、どう共同生活を送るのか。利害関係が一致しないひとたちが、どう一緒に生活していくのか。そこから、法律や倫理が生まれたりするから。ラブソングは、政治そのもので、そのおおもとにある。

松尾:僕はポップミュージックって「ラブソング」と「ライフミュージック」のふたつしかないと思っていて。それをずっといろんなところで言ってきたんです。でも最近はね、そのふたつも一緒だなって。

水野:ああー。

松尾:それぐらい「ライフ」っていろんなことを含んでいるし、含んでなきゃ嘘ですよ。ラブソングこそ政治の意味合いのはじまりって、僕はすごく賛同しますね。政治の概念を政治用語だけで語るんじゃなくて、平易な言葉で一筆書きのように語るラブソングを作れたらとずっと思っている。ジェーン・スーさんも対談Qでおっしゃっていたけれど、とくにいきものがかりって、“みなさまのいきものがかり”みたいな、公序良俗から外れないイメージがあるけど。

水野:はい。

松尾:逆にそこを担保しながら、いろんなことにチャレンジしているように僕には見える。作品にストレートに表現するというより、作品を含めた活動全体で。数年前になりますけど、僕が水野さんと対話したいなって気持ちが強くなったのは、NHK『SWITCHインタビュー 達人達』の西川美和さんとの対談を観たときで。

松尾:あの番組のなかでさえ、そんなに舌鋒鋭くお話されていたわけでもないけど。そこのまなざしを支える、視点の確かさっていうのかな。

水野:今日はたくさん褒めていただいて(笑)。


僕の場合の軸は、「物語」です。


松尾:今の30代以下、とくに20代やティーンエイジャーは、息をするように自分の動画とかをSNSで発信できるじゃないですか。発信とも考えてない、ウケ狙いぐらいの軽い気持ちかもしれないんだけど。

水野:うん。

松尾:だけど僕らぐらいだと、SNSに限らず、何回もチェックするひとが多いわけですよ。これは体感として語るけど、水野さんぐらいの世代のひとは、やるひともいればやらないひともいるぐらいのところじゃないかな。そして、水野さんはやる側としてこういう番組とかを、しかもずっと続けておられる。これは音楽業界全員、感謝しなきゃいけないなって僕は思いますよ。

水野:ははは。

松尾:だって、言わないでおこうと思ったら、言わないことも責められないまま、人気を保てる仕組みもあるんです、この国に。僕のまわりだって、ほとんどのひとは言わない。で、この「プロデューサーとクリエイター」、という話に戻るのであれば、どこから裏方の仕事で、どこから表っていうのは、水平な等高線みたいなことで語れることじゃない。自分のなかでも、100・0でやっていることじゃないと思うんですよ。

水野:なるほど。

松尾:ただ、そのひとが、「自分にとっての軸はこれ」っていうのがあればいいんじゃないかな。僕の場合の軸は、「物語」です。物語性っていうのは、短いテキストを書くにしても、長尺で語るにしても、アルバムにしても、シングルにしてもそう。そこにストーリーがないと、自分が関わった体感が得られない。ストーリー性を排除して仕事をしている方もいるだろうから、いろんな方法があっていいと思うんですけどね。

水野:先ほどの、「どれだけ発信するか・露出するかは、世代によって感覚が違う」ってお話。今の時代、これだけ情報が溢れていて、正解っぽく見えることがありすぎて、声の大きいひともたくさんいる。そのひとたちが目立つ状況もできていて。そのなかで、自分の物語を立ち上げるのが難しくなっている、と思うんです。

松尾:ああー、なるほどね。

水野:でも、ものづくりをしている人間だけじゃなくて、普通に生活しているみなさんこそ、自分の物語を立ち上げなきゃいけない。僕はそういう問題意識を持っているんです。だからこそ人見知りだけど、いろんな方を呼んで、対談してお話を聞いたり、自分なりに考えて発信していて。

松尾:うん。

水野:で、最初の問いに戻ったとき、やっぱり松尾さんはたとえば、プロデュースするときはクリエイターの物語が、彼らが愛そうとしているリスナーたちにどうしたら伝わるか考えていらっしゃる。あるいは自分自身がどういう物語をこのプロジェクトのなかで感じるか、常に意識していらっしゃる。それが、松尾さんが長くキャリアを続けていらっしゃることの理由というか。どんなに時代の価値観が変わったり、背景とするブラックミュージックの歴史が長いものであっても、古くならない。現代性があることの理由なんじゃないかなと思います。

松尾:だと、いいですけどねぇ。


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