『ステラ2021』ができあがるまで
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『ステラ2021』ができあがるまで

HIROBA『OTOGIBANASHI』が10月28日講談社より、刊行されました。水野良樹(いきものがかり)が2019年から始めた実験的プロジェクトHIROBA。

そのHIROBAに5人の作家が集い、5つの歌と、5つの小説が生み出されました。5つの歌がどのようにつくられていったのか。その創作ストーリーを、作曲を担当した水野良樹が1曲ずつ語っていきます。

『ステラ2021』

『ステラ2021』
作詞:重松清 唄:柄本佑 編曲:トオミヨウ 作曲:水野良樹

作詞:重松清さん(小説『星野先生の宿題』)


重松さんに頂いた歌詞は、なんと7番、8番…までありました。

不特定多数のひとに、広く聴いてもらいたいという意図をもってポップスを書いていると、どうしても”端的に”とか、”メリハリよく”とか、要素を削いだり、逆にわかりやすく誇張したりという方向に偏りがちです。それ自体は、決して全面的に悪いことではないと思うのですが、バランス感覚を要求されることではあって、しくじれば、本当は失ってはならないものをこぼし落としてしまうこともあります。

頂いたこの長い物語を、飽きさせることなく聞かせることができるだろうか。歌詞をみつめながら、そんな風に最初は思ったのですが、アコースティックギターを抱えて、いざ、つくってみれば、それは”心配しなくてもいいこと”だったと思わされました。

重松さんの手によって、歌詞の主人公はずっと”語り続けていて”、物語はゆるやかに、でも確かに前に進んでいて、まるで誰かと星を眺めながら語り合っているような時間が、この歌詞のなかでは流れているのでした。この”語り”を邪魔することだけをしなければ、聴き手は友人の言葉に耳を傾けるように、曲をずっと聴いていられるはずだ。そう信じられました。

4_重松清

重松清
1963年岡山県生まれ。早稲田大学教育学部卒業。出版社勤務を経て、執筆活動に入る。1991年『ビフォア・ラン』でデビュー。1999年『ナイフ』で坪田譲治文学賞、『エイジ』で山本周五郎賞、2001年『ビタミンF』で直木賞、2010年『十字架』で吉川英治文学賞、2014年『ゼツメツ少年』で毎日出版文化賞をそれぞれ受賞。

数々の名作を今にわたるまで書き続けてこられた重松さん。ドラマや映画となった作品との接触も含めれば、重松さんの作品に、間接的にであれ、一度も触れていないというひとは少ないと思います。

そんな人気小説家としての重松さんの側面は、もう多くの方が知るところで、わざわざ自分などが語るまでもないところですが、一方で今回の『OTOGIBANASHI』につながるという意味においては、僕にとって印象深い重松清作品との邂逅は、あるノンフィクション作品でした。

『星をつくった男 -阿久悠と、その時代-』重松清

歌謡曲の巨星。阿久悠
その存在を重松さんが丹念に追いかけたこのノンフィクションを、自分は夢中になって読みました。「僕たちはJ-POPの音楽グループです」と宣言して、世に出てきたにもかかわらず、そのルーツでもある歌謡曲について、自分はあまりに知識が薄弱でした。もう一度、勉強しなおそうと考えて、数年前のある時期、当時の楽曲を聴き込むのはもちろん、関連の書物を読み漁っていたことがありました。

そのなかで出会ったのが、重松さんが書かれたこの『星をつくった男 -阿久悠と、その時代』で、そこで阿久悠というひとに対する自分の興味は決定的なものになりました。やがて、番組スタッフとの縁にも恵まれて、自分自身もNHKのドキュメンタリー番組で阿久さんの軌跡を追いかける経験をすることになります。

阿久さんの未発表詞を作品化するという機会にも恵まれました。山本彩さんに歌っていただき、亀田誠治さんにプロデュースしてもらった『愛せよ』という楽曲がその作品です。

山本彩「愛せよ」(2017)
作詞:阿久悠 作曲:水野良樹 編曲:亀田誠治


これらのきっかけを生んでくれたのは、重松さんの『星をつくった男 -阿久悠と、その時代』との出会いだったと思います。今回の『OTOGIBANASHI』のプロジェクトを始めるときも、自分の好奇心のスタートラインに戻るような気持ちで、重松さんとご一緒させて頂けないかと考えていました。今、楽曲が完成して、あらためて、阿久さんがつないでくださったご縁なのかもしれないと、静かに思ったりもしています。


サウンドプロデュース(編曲):トオミヨウさん


『ステラ2021』のサウンドプロデュースをお願いしたのは、音楽プロデューサーのトオミヨウさんです。

重松さんが歌詞に施した語りの展開によって、”物語の時間”は流れていくとはいえ、出来上がってみれば7分にも及ぶ長尺です。バースとなるセクションが何度も繰り返され、それをダイナミクスを自然につけながら聴かせることは、そう簡単ではありません。


トオミさま

トオミヨウ
1980年11月14日生まれ。幼少の頃習ったピアノをきっかけに音楽を作り始める。
プロデューサー・アレンジャー・ライブサポートとして、玉置浩二、槇原敬之、秦基博、石崎ひゅーいなどさまざまなアーティストを手がける。

トオミさんは、様々なアーティストのプロデュースをされていますが、たとえば石崎ひゅーいさんなど、歌詞にメッセージ性が色濃く漂うアーティストを多く手がけてこられました。

トオミさんなら、今回の『ステラ2021』の”語り”の空気感を崩すことなく、それに手を添えるようなかたちでサウンドを構築してもらえるのではないかと思って、お願いしました。楽曲全体の構成が、無理なく、自然と抑揚がつけられていて、それが大袈裟になることも、逆に寂しくなることもなく、必要十分で流れていく。アレンジの第一稿を頂いた段階で、もう何も言うことがありませんでした。

スタッフたちも含め、あとからこの楽曲を聴いたひとたちが、皆、口を揃えて、「そういえば、この曲、7分もあるんですね」と驚いてくれるのが、とても嬉しくて、それはサウンド面で言えば、まさにトオミさんの手腕のおかげだと思います。


唄:柄本佑さん


もう、何度となく繰り返してしまっていますが、この『ステラ2021』は歌であると同時に、”語り”でもあります。この”語り”の部分を表現できるのは、どんなひとだろう。それは俳優さんなのではないかと思って、思い浮かんだのが柄本佑さんでした。

柄本さん

柄本佑
映画『美しい夏キリシマ』でデビュー。近年の主な出演作にドラマ「心の傷を癒すということ」「知らなくていいコト」「天国と地獄 ーサイコな2人ー 」、映画『きみの鳥はうたえる』『素敵なダイナマイトスキャンダル』『痛くない死に方』『先生、私の隣に座っていただけませんか?』等がある。

柄本佑さんとは、以前、『チャギントン』というアニメにまつわる楽曲でご一緒しました。そのとき、レコーディングでの歌唱がほぼ初めてだったそうですが、その声質は、柄本さんにしか出せない優しさのある雰囲気を醸し出していて、とても素敵だなと感じていました。

チャギントン10周年記念楽曲「勇者のババババン」
唄 柄本佑 作詞・作曲 水野良樹 編曲 松本ジュン


それをきっかけに、後日、いきものがかりの番組にもゲストでご出演頂き、歌やお芝居についてざっくばらんに語り合って頂きました。このときのやりとりも、とても楽しくて、またいつか何かの作品でご一緒したいという気持ちを持っていたところで、『ステラ2021』の唄を引き受けてくださり、それが実現しました。

BSフジ『BSいきものがかり』ゲスト柄本佑(放送日:2021年03月06日)

ボーカルブースのなかの柄本さんと、声をかけあいながら続けるレコーディングは、ずっと会話がとまらなくて、この『ステラ2021』の主人公がどんなキャラクターなのかを、二人で探っていくような時間でした。

テイクを重ねていくと、柄本さんのなかで主人公の像をつかんだ瞬間があったようで、あるタイミングから、いきなり声がたくましく、叫ぶようになるときがありました。そこからがすごかった。主人公が、ありありとそこで喋っているような感覚になって。歌っているのは柄本さんなんですが、柄本さんではない、物語の主人公の声が聴こえてくるような、そんな感覚にコントロールルームにいた僕もなって、とても素晴らしい”芝居”を目の前で味合わせてもらったような、貴重な体験でした。

「何度も歌っていると、歌詞のメッセージは強いんですけれど、この主人公はずっと”笑って”歌っているように思えたんですよね」

レコーディングのあとの柄本さんの言葉が『ステラ2021』がちゃんと”語られた”ことを物語っていました。

OTOGIBANASHI 04 / ステラ2021

作詞:重松清 (小説「星野先生の宿題」)
編曲:トオミヨウ
唄:柄本佑
作曲:水野良樹
Drums & Percussion 朝倉真司
E.Bass 隅倉弘至
E.Guitar 山本タカシ
Acoustic Piano,E.Piano & All other instruments トオミヨウ
Recorded & Mixed by 甲斐俊郎
Vocal Recorded by 熊谷邑太
Mastered by 阿部充泰



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『哀歌』(作詞:皆川博子さん、唄:吉澤嘉代子さん、編曲:世武裕子さん、作曲:水野良樹)のご紹介を以下に続けます。ぜひお読みください。

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