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関取花 連載第29回「どすこい VS 無人レジ」

技術の進歩と時代の流れが合わさって、いよいよレジの無人化が本格的に進んできている。私がよく行くスーパーには、計6台の無人レジがある。それでもスペースは有人レジ2台分くらいだし、お店的には人件費もかからない。会計の流れもいたってスムーズだ。何かあれば無人レジの担当スタッフさんが駆けつけてくれるし、なるべく人と接触せずに過ごしたい昨今の状況を考えても、ありがたいなと思う点はたしかに多い。世の中に導入されたばかりの頃は若干の寂しさも覚えたが、こうやってうまい具合に共存できるのならなかなか便利で良いものだなと最近は思う。

しかしそうは言ってもやはり無人レジは無人レジ、あくまでも機械である。融通が効かないのが難点だ。ゆえに、「お願いだからちょっとだけ待って」と言いたくなる時がある。

私の頭の中には小さいどすこいちゃんがたくさんいる。これだけだとちょっと何言ってるかわからないって感じだと思うのだが、要するに頭の中がすぐにあっちこっち行ってしまうということだ。よく言えば好奇心旺盛、小さい頃、あれも欲しいこれも欲しいで頭がいっぱいだった時の感じに似ている。

ついこの前も、ペットボトルのコーラを飲もうと思いキャップに手をかけたと同時に「ドレッシング買わなきゃ」ということを思い出し、なぜかペットボトルを上下に振ってしまった。脳内が「ドレッシング」に瞬時に支配されて、「ドレッシングか、とりあえず振らなきゃ」という変換になったのだろう。そしてそのあとは「いやこれコーラじゃん」「そうだ今私はコーラを飲もうとしていたんだ」と立て続けに思い出し、それに引っ張られてそのままキャップを開けてしまった。そのあとコーラが噴水の如く溢れ出たことはもはや言うまでもない。

そんな私みたいな人間は、機械との相性がなかなかに悪い。「カゴを指定の場所に置いてください」「袋を準備してください」「バーコードをスキャンしてください」など、無人レジは一定のリズムで一つ一つ丁寧に指示を出してくれる。本当にありがたいのだが、なにぶん頭の中のどすこいちゃんたちは自由人だ。時々指示通りに動いてくれない子がいたりもする。

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特に困るのがお金を入れる時である。無人レジといっても担っている役割はかなり重要で、当然お金を扱うポジションにいる。いわばスーパーの最後の砦、門番みたいなものだ。だからなのか何なのか、無人レジは特にお金を払う時になると厳しくなる(気のせいかもしれないが)。

先日無人レジを利用していた時、例によって私は違うことを考えていた。スーパーに行ったあとにパン屋さんに行くかどうか悩んでいたのである。行ってもいいけどパンまではエコバッグに入らないから一旦家に帰ろうかな、などとぼんやりしていたら、「お金を投入してください」という音声が流れてきた。ああそうだった。パン屋さんに行く前にまずはここでお会計を済ませないと。財布を出してお札を入れようとしたら、今度は「お金は小銭から入れてください」と言われた。偶然だとは思うのだが、私の行動を見ていたとしか思えないような絶妙に食い気味で挑発的なタイミングだったので、若干へこんだ。

小銭小銭……と思いながら財布を開けると、失くしたと思っていたギターのピックがなぜか出てきた。予期せぬ発見で私の頭の中は瞬時にピック一色になった。忘れないうちにポーチの中にでもしまっておこうとカバンをゴソゴソしていたら、無人レジから少し殺気立った感じで「投入金が不足しています」という音声が流れた。語気を強めたような言い方に聞こえたので、これは申し訳ない、早くしなければと私は支払う分の小銭をせっせとかき集めた。そうしている間にも再度たたみかけてくる「投入金が不足しています」の音声。明らかに次を発するまでのタイムが短くなっている。やばい、無人レジ完全にイライラしてるぞ。

焦り始める私。なんでもいいから早く入れてあげねばと、とりあえず掌に小銭を全部出した。そのまま投入しようかと思ったのだが、今度はよく見たらタイの硬貨が数枚混じっていることに気付いた。もしこれで機械が故障なんてことになったら大変だ。私はタイの硬貨を急いで取り除き、もう決して混ざらないようにとズボンのポケットにしまった。そうしている間にもまた響き渡る「投入金が不足しています」の音声。これで同じことを言われるのは3回目だ。仏の顔も三度まで、もう次はないと思ったので、私はすぐに小銭を投入した。吸い込まれていく小銭、止んだ音声、流れる静寂の時。安心すると同時に、なんだかどっと疲れてしまった。どすこいちゃんたちが急に同時にフル回転したことにより、頭が熱暴走してしまったのだろう。

人間が相手だったら会話の流れや空気感といったものがあるから意外と大丈夫なのだが、相手が機械だとそうも行かない。もちろん、うしろに並んでいる人が一人でもいればさすがにここまでモタモタしたりしないのだが、たまたまその日は人が少なく、自分が使っている以外の無人レジに誰もいなかったこともあり、つい気が緩んで頭の中のどすこいちゃんたちを野放しにしすぎてしまった。

もしあの時レジが混んでいたらと思うと恐ろしい。あたふたして財布を落として小銭をばら撒いていたと思うし、その間もずっと「投入金が不足しています」の音声が結構な音量で流れ続けていたと想像すると、頭の中のどすこいちゃんたちがわけもわからず暴走しはじめて、私は泡を噴いて倒れてしまっていたかもしれない。

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無人レジにももう少しだけ愛らしさとか人間味があればいいのにと時々思う。ただ同じ言葉を連呼するのではなく、たとえばほら、プリクラの落書きコーナーみたいに「次の“投入金が不足しています”まで、あと30秒だよ☆」「あと20秒☆」「あと10秒、ラストスパート☆」って言ってくれるとか。言い方がほんの少し変わるだけでだいぶ気持ちが楽になるし、それだけで結構頭の中もクリアになる気がするのだが、みなさんどうだろうか。

そうはいっても、さすがに無人レジのそんな新機種が登場するまでにはきっとまだまだ時間がかかる(というかそもそも需要があるか不明)。冷静に考えて、私が日頃の行動を改める方が断然手っ取り早いし、人に迷惑をかける可能性も低くなる。やろうと思えばすぐに行動に移せるのは生身の人間のいいところだ。

実際に私はこの原稿を書きながら、途中の休憩時間で早速財布の中身を整理した。とりあえず明日あたりまた買い出しに行こうと思っているので、その時は「投入金が不足しています」を一度も言わせることなく会計を済ませたいと思う。待ってろよ、無人レジ。

関取花「新しい花」アー写軽

関取花(せきとり・はな)
愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けているミュージシャン。NHK「みんなのうた」への楽曲書き下ろしやフジロック等多くの夏フェス出演、初のホールワンマンライブの成功を経て、2019年5月にユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。
ちなみに歌っている時以外は、寝るか食べるか飲んでるか、らしい。
関取花オフィシャルサイト
関取花Twitter

<最新情報>
メジャー1stフルアルバム「新しい花」を3/3(水)にリリース。
詳細はこちら。
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ソングライター水野良樹が主宰するHIROBAの公式noteです。 『考えること、つながること、つくること』 その3つを豊かに楽しむための広場=HIROBAをつくっていく試みです。 定期購読マガジン『HIROBA公式マガジン』のご購読もよろしくお願いします。