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「誰が、夢を見るのか」発売記念インタビュー

2020.1.29

雑誌「Sports Graphic Number」で
水野良樹が担当している連載「Who is a dreamer?」。
これまでに綴ってきた35本のエッセイと、
特別企画としてプロボクサー村田諒太さんとの対談、
吉岡聖恵さん、高橋尚子さんとの鼎談を収録した
単行本「誰が、夢を見るのか」が1月30日に発売される。
自身初となるスポーツ・エッセイ集を手にして
語った思いをお届けします。

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夢を叶えたといいながら現実に向き合う

──2015年7月から連載がスタートしました。
もう4年半ですからね、本当に早いですね。そもそも文章を書くということを、この連載のお話をいただくまでほとんどしていなかったので、自分にできるのかなという思いからスタートしました。こうして実際に本を手にすると感慨深いですね。

この連載があることによって、文章を書くお仕事をいただけるようにもなりました。自分でも興味を持って、それまで歌詞しか書いてこなかった人間が長めの文章を書くようにもなって、それがHIROBAの活動にもつながっていると思います。そういう意味でも自分にとって思い入れの深いものになりましたね。

──どういった経緯で連載が始まったのでしょうか?
当時の松井(一晃)編集長が、僕のTwitterなどの言葉を見てくださっていたんです。Numberでコラム企画を立てるときに、スポーツライターや元スポーツ選手ではない、別分野の人が外から見たスポーツをテーマにしたいと考えて、そこでお声がけいただいたのがきっかけですね。ちょっとした外野枠というか(笑)。

最初は映画監督の西川美和さんと交互の連載でした。西川さんは作家としても活動されている方なので、交互にとはいえ一緒に書かせていただくのは荷が重いなと思ったのを覚えていますね(笑)。

──連載のタイトル「Who is a dreamer?」はどんな思いで付けたのですか?
これは僕が付けました。舞台に立たせていただく人間として、スポーツ選手の方々と何か共通点はないかなと考えて。いろんな方々に応援していただける立場になるとか、例えばプロ野球選手であれば「少年時代の夢が叶いましたね」「憧れの球場に立つことができましたね」と言われることが多いと思うんですね。

とはいえ、夢が叶って幸せという部分だけではないはずです。見えないところでの苦労や応援されることのプレッシャーというものはあって、夢を叶えたといいながら現実に向き合わなければならないというのは、おこがましいですけど、僕たちも近い部分がある。音楽の世界でご飯を食べさせてもらって、幸いなことに声援をいただいて、そこで考えることもたくさんある。

結局、誰が夢を見ているのか。僕らが夢を見ていないかというと、そんなことはなくて。ステージに立ったときに、憧れていた光景が広がっていると思う瞬間もあるし、そう思いながらこのステージをしっかり全うしなきゃと思い悩み苦しんでいる瞬間もある。一言で言い表せるわけではないけど、そういった問いはあってもいいのかなという思いで付けました。

夢を叶えることはもちろん素晴らしいことですけど、決して一面的な部分だけではない。いちスポーツファンという立場でありながら、一方で多くのお客さんの前に立ってどんな気持ちになるかとか、そういう部分を経験できたからこそ書けることもある。スポーツ選手とファンの間くらいにいて、どっちともつかないところで書けることがあるかなと思ったんですよね。

──あらためて本を読んでみて、「当時、こんなふうに感じていたんだな」と思うことはありますか?
ああ、それはあります。放牧前であったり、10周年記念の野外ライブイベントなど、その時々の心境も書いていますしね。2016年リオオリンピックの閉会式をテレビで見たときの感想も書いていて、それは4年後の自分たちに手紙を書くという体裁だったんです。もうその“4年後”が来るじゃないですか。でも何も答えを持っていないかもなとか。

この4年半の間に放牧含めていろんなことがあった。その間に引退する選手もいて、読者のみなさんにも、僕たち自身にも変化があって、たった数年でもいろんなことが動くんだなと思いましたね。

──歌詞だと自分に近いことはあまり出していないと思いますが、エッセイだと自然に出せるのかもしれないですね。
そうですね、すごく出ていますね。スポーツのことを書くとは言いながら、結局は自分の視点になるので、やっぱり自分のことを書いているという部分はありますね。

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それは幸せであり、同時に過酷でもある

──特に印象深いエッセイはありますか?
そうですね、実は後日談があるようなものがけっこう多いんですよ。

「強く、美しく。」
2015年の紅白歌合戦で総合司会を務められた有働由美子アナウンサーについて書かせていただきました。錚々たる歌手のみなさんと観客のみなさんがいるなかで、有働さんはひとりで仕切らなければならない。すごいプレッシャーだろうなと思って舞台上から拝見していた立ち姿が本当に美しくて。後日、有働さんから「読みました」とお手紙をいただいて、ご本人にも届くんだなと勇気づけられたんですよね。

「夢をあきらめて。」
まえがきにも少し書きましたが、僕は中学校のときに野球部の顧問の先生と衝突してしまって野球をやめてしまったんです。思春期で好きなことをやめたということはわりと大きなことだった。そのことを書いて、オチとしてはそのあと音楽にのめり込んでいって、今も音楽をあきらめていないと。そうしたら当時、グラウンドの隣で練習していたラグビー部の顧問の先生がコラムを読んだらしくて「何もしてあげられなくてごめんね」といった内容の手紙をくださったんです。当時の僕の状況もその先生は知っていたけど、直接関わっている生徒ではなかったから踏み込むこともできなかったと。当時見ていてくれた人もいたんだなと救われたというか。この連載でお手紙をいただいて、こちらの思いが届くんだなと感じましたね。

「Who is a dreamer?」
「HERO。」
イチロー選手がメジャーリーグ通算3,000本安打の記録を達成されたとき(「Who is a dreamer?」、引退されたとき(HERO。」も、そのことについて書くことができました。そう考えると…ある種の時間経過というかスパンがあるのかもしれませんね。時間軸を共有できるのは、スポーツの楽しみ方のひとつでもありますよね。

「終わりという始まり。」
サッカーの大迫(勇也)選手のことを書いた「終わりという始まり。」というエッセイがあります。第87回全国高校サッカー選手権大会で、大迫選手が一大会での最多得点記録をつくったときに、いきものがかりが大会応援歌を担当していたんです。決勝の舞台で大迫選手のゴールシーンも見ましたし、その後の海外移籍、ワールドカップでの大活躍という10年くらいの時間経過をファンとして見てきたんですよね。

やっぱりスポーツ選手って永遠ではない。どんなに天才的な選手でも肉体的な衰えはある。その点では、ハンマー投げの室伏(広治)選手が印象的でしたね。

「4年の物語。」
室伏選手の投てきを生で観戦したことが2回あります。1回はロンドンオリンピック本大会。もう1回はロンドンオリンピック出場を懸けた日本選手権。大阪の長居陸上競技場で行われた大会でしたが、国内では敵なしという強さで勝つのは当たり前という状況。素人目に見ても、まるでトレーニングの一環のような雰囲気で圧勝して、18連覇を達成された。でも、そんな選手も引退する。無双を誇った日本選手権でさえ勝てなくなって。あれだけすごい選手でも衰えはあって次の世代に譲り渡さないといけないときがくる。

「同い年の英雄。」
北島康介選手が引退したときのことも書いています。北島選手は同い年。彼が登場したときは「すごい人が現れたな」と勇気づけられたことを覚えています。僕たちの世代は、凶悪犯罪を起こしてしまった少年がいたり、どこか暗い影があったんですね。それが北島選手の登場によって一気に明るくなったというか。ただ、若者の代表だった人も当然ながら年を重ねて、後輩が出てくる。後輩が彼を追いかけて、さらに引っ張るようになるという世代交代が行われていく。同世代としては刺激も受けたし、「自分も年齢も重ねてきたな」という指標になりました。

──スポーツは肉体的な衰えがあって引退という道を選ぶときが訪れますが、音楽には引退がありません。むしろ年を重ねたからこそ、経験を積んだからこそできることが増えますよね。
その通りですね。小田(和正)さんのことも書かせていただきました(「夢のマッチメイク。」)。小田さんは70歳を超えても最前線で試合をしている。本当にすごいことですよね。例えば、往年の名選手が始球式に出たとしても、それはデモンストレーションじゃないですか。昔みたいに速いボールを投げられるわけはない、それは当然のことです。でも、音楽の世界だといまだに140キロ出て、なんなら球種が増えているなんてこともありますからね。そう考えると幸せな世界ですよね。オールスターゲームに出て、長嶋(茂雄)選手や王(貞治)選手と一緒にプレーしたとしても、それはあくまでデモンストレーションです。僕らの場合は本当に真剣勝負で、同じグラウンドに小田さんや(根本)要さんといった何十年も活躍している選手がいて、一緒にプレーすることができる。それは幸せであり、同時に過酷でもある。そこは肉体的な限界が表れやすいスポーツとの差かもしれませんね。一方では引退ができるってうらやましいなって思うこともあります。僕らの場合は区切りが付くようで付かない。その難しさがあるかもしれないですね。

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書くことで救われた

──この本には水野さんをはじめ、いろんな人の時間経過が刻まれている。ある種の定点観測のような感じもありますね。
かもしれないですね。面白いですね。わりと本音に近いところが出ていますし、肩肘張って…初めての連載なので当然ですが一生懸命書いてきましたしね。まだスポーツと腐れ縁が続いているというか、こんなにスポーツに救われると思っていなかったですからね。

連載でも書きましたが、いきものがかりというグループもデビュー曲の「SAKURA」がWBC中継の合間にCMで流れたことが、多くの人に知っていただくきっかけになりましたし、ロンドンオリンピック・パラリンピックの放送テーマソングも担当させていただきました。節目節目でそういう縁があるんですよね。スポーツ雑誌で連載を持たせていただけたことは…不思議ですよね。

そのおかげで普段ならお会いする機会がないであろう村田諒太さんや高橋尚子さんにもお話を伺えましたからね。

──村田さんは「他者満足と自己満足について」といった非常に深いお話をされていました。
クレバーな方でしたね。自分の価値がどのようにしてつくられてきたか。そこに対して周囲の人への感謝をしっかり持っている。自分ひとりの努力ではなくチームプレーによって成立していることへの意識の高さ。そこは本当に学ばせていただく部分ですよね。その上で、「きれいごとだけではない」とはっきりおっしゃる。自分に対して厳しい視線を投げかけて、自分にも欲望があることを踏まえてリングに立っている。だからこそ結果を出しつづけていると思うんですよね。

村田選手はボクシングをやめようとしたタイミングが何度かあるけど、その時々の理由によってリングに戻ってきている。それはご自身の意志によって戦いつづけているということ。そこに勇気づけられるんですよね。天才的な選手や偉大な選手はそのスポーツと運命づけられていて、計り知れない縁で結びついているように思いがちですけど、村田選手の経緯を知ると、そこには意志があってその上で結果を残している。僕らも自分たちの仕事や好きなことに向き合うときに、意志を持って挑めば何かしらの結果がついてくるかもしれないという勇気をもらえますよね。

──「他者との関わりのなかでの自分」というお話も、水野さんが考えていることと通じていて印象的でした。
そうですね。やっぱり聴いてくれる人がいなかったら、感覚は変わってくるでしょうね。そこに他者の視点があるかどうかというのは共感できますよね。「この曲、誰にも聴かれないものだけど」と言われたら何をヒントにどこからつくったらいいか、わからないですもんね。曲をつくること自体が楽しいとはいっても、分かち難いものとして、その先にいる他者を意識しているということかもしれないですね。他のアーティストに曲を提供して、気に入っていただけたと知っただけでもかなり救われますからね。喜んでもらえたということは大きなものなんですね。

──高橋尚子さんは本当に明るくて、太陽のような方でしたね。
いやぁ、本当に。高橋さんがいるだけで、そこにいるみんながニコニコしちゃうというか。グループとしては聖恵にも一緒に話を聞いてもらえてよかったと思っています。高橋さんと聖恵を比べるのもおこがましいですが、聖恵も同じような部分があって、いるだけでパッとその場が明るくなるんですよね。真ん中に立つ人、誰かに応援されるべき人、みんなの期待を背負う人は、少なからずそういう部分がないといけないと思っていて、それは誰もが持っているものでもない。じゃあ、頑張って培えるのかというとそんな気もしない。

高橋さんも誰かに愛されて、「高橋尚子という選手のためなら頑張れる」とみんなが思わないと、あれだけの結果は出せないと思うんですよ。トレーニングに対して厳しい要求をしなくてはならないということも重々わかるけど、実際にやるとなったらスタッフの方々は大変だろうなと。彼女のために頑張ろうと思えるのは、それだけの魅力がないとやっぱり難しいですよね。撮影とインタビューで2、3時間一緒にいただけでもなんか惹かれてしまうというか、不思議な引力がありましたね。家に帰ってからも家族に「すごく素敵な人だったよ」と話したくなってしまうし。

ああいった人間的な魅力って誰もが持っているわけではないから、仮に同じくらいの実力を持った選手がいたとして、あの眩しさに勝てなくて悔しい思いをした人もたくさんいたと思うんですよね。プロ選手の競争の細部までは僕らは見えないですけど、あそこまですごいレベルになると「あとどれだけ周りの力を巻き込めるか」といった競争になるような気がします。最後にはそこが勝負を分ける。

同じチームにいても聖恵の人間的な魅力に惹かれて認められることもあります。僕は聖恵の隣にいるからこそ、影の部分もわかるというか。

例えば大迫選手くらいの実力がある選手もいろんな世代にいたと思うんですけど、純粋なプレーの実力だけでは培えない部分もあって、そこで悔しい思いをした人もいただろうなと。それもスポーツのドラマのひとつですよね。トップレベルで敗れていった選手もたくさんいる。とてつもない努力を積み重ねて舞台に立ったけど、スポットライトを浴びることなく、その道をあきらめて違う道に進むという人がほとんどですよね。そういうことも、真ん中にいない僕だからこそ書けることかなと思います。

──連載の書籍化は「小躍りしたいくらいうれしい」とTweetしていましたが、「いきものがたり」が書籍になったときとは違う感覚ですか?
違う感覚ですね。4年半という年数もありますしね。この連載があったからこその出会いもありますし、思わぬところで「連載を読んでいます」と言っていただけるのは本当にうれしいですね。

もちろん、「いきものがたり」を読んでいただけることもうれしいですし、書籍になったときの喜びもありました。いきものがかりのメンバー3人、さらに関わってくださるスタッフのみなさんがいて、あの壮大な物語は自分たちの物語のようで自分たちの物語ではないというか。いろんな方々がいたおかげなので、自分のものではないという感覚があって。

この「誰が、夢を見るのか」もスポーツ選手のことを書かせていただいているので、自分の物語ではないですが、もう少し自分に近い部分ということで、違った喜びがありますね。文章を書かせていただくきっかけにもなっていますし、本当に感謝しています。

ちょうどこの連載を始めたころは、グループとして10周年を迎えるタイミングだったんです。もちろん外には出していないですけど、このまま同じことを繰り返していいのかと自分のなかで思い悩みはじめた時期でもあったので、この連載を書くことで救われた部分がすごくあるんですよね。違った部分に視野を向けるというか。書くという作業で救われましたね。新しい刺激をいただける、自分の本音に近い部分を書かせていただける場所をもらって、何か新しい扉を開かせてもらえた。グループの放牧(活動休止)中に自分ひとりで、違う場所で、違うことをやったということでは、この連載と、J-WAVEの「SONAR MUSIC」という番組に救われましたね。

──救われるというのは、かなり大きな存在ですね。
そうですね。感謝は強いですね。やっと形になったのは感慨深いですし、そういう意味で小躍りというか。ひとつの区切りが付きましたね。

──そして、連載は続いていきます。
そうですね。書けるかな(笑)。今年は東京オリンピック・パラリンピックもありますし、グループも変化していっていますしね。

──これからの変化も含めて楽しみじゃないですか。
そうですね。いい時期に連載のお話をいただいたのかもしれないです。子どもが生まれたり、グループにもいろんな動きがあったり、自分の人生が変化していく繊細な時期にやらせていただいたので。そう考えると、これからもいろいろな変化がスポーツというフィルターを通して投影されていくかもしれないですね。まずは、なんとか1回くらいは増版できるように頑張りたいな(笑)。多くの人に届いて、新しい出会いのきっかけになったらうれしいですね。

(おわり)


誰が、夢を見るのか
定価:本体1,400円+税
発売日:2020年01月30日
発行:文藝春秋


Photo/Manabu Numata
Text/Go Tatsuwa

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