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関取花 連載第25回「結界を張った日」

先日、一人でふらりと出かけた時のことである。その街は私の最寄り駅から電車で10分もしないで行けるところなのだが、服屋、雑貨屋、家電量販店、映画館など、一通りの店や施設が揃っている。大きすぎず小さすぎず、規模感がちょうどいい。その感じが逆にお洒落な雰囲気を醸し出していて、雑誌などでもよく特集される結構有名な街である。

その日は自宅での原稿仕事が思いの外はかどったので、たまのご褒美に晩ご飯でも食べに行こうかと思い夕方過ぎに家を出た。電車の中で何を食べようかあれこれ考えたが、なかなか決まらないまま私は駅に到着してしまった。

お腹は結構空いていたが、とりあえず駅構内のショッピング施設に入ることにした。今日は一人だし何も急いで何を食べるか決める必要はない、まずはのんびりウィンドーショッピングでもしよう。とはいえ家を出た時からすでに我慢していたこともあり、まずはトイレに行くことにした。しかし、鏡に映った自分の姿を見て私は驚愕した。

……なんというか、枯れている。これが噂の干物女というやつか。

化粧もしていなければ髪もボサボサ、一応眉毛だけは描いてきたつもりだったが、よく見たらガタガタだし半分くらいしかない。天気が悪い日だったのでアホ毛はぴょんぴょん躍り散らかしているし、服も上半身は普段部屋着で着ているしわくちゃのロンT(映画『STAND BY ME』で少年たちが死体を発見した瞬間の写真がプリントされている)。そして背負っているリュックサックには、ショルダーストラップのところにキーホルダー付きの結構デカめのアルコールジェルをぶら下げた状態だった。

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ものすごく変かと言われたらそうではないかもしれない。今のご時世アルコールジェルだってあるに越したことはない。でもまがりなりにもちょっとお洒落な街のショッピング施設である。周りをみると、他のお客さんたちはみんなもっと小綺麗な格好をしていた。

施設の中には某有名セレクトショップやデパートコスメの店なんかもたくさん入っていて、なんならこれから自分も見に行こうとしているというのに、私は家から徒歩3分のコンビニに毎朝R-1ヨーグルトを買いに行くのと何も変わらない服装でそこに来てしまっていた。

マスクをしているのが唯一の救いだったが、やっぱりなんだか恥ずかしくなってきた私は、とりあえず気配を消したいと思った。しかしもう服装を変えることはできないし、もちろん髪にアイロンをすることもできない。どうすればいいか迷った挙句、私はなぜか爆音で音楽を聴くことにした。外界をシャットアウトすることにより、何かしらの見えない結界を張れると思ったのだ。

そしてグリーン・デイの『American Idiot』を聴きながら(久々に聴いたけどキャッチーでやっぱ良いよね)、私はトイレを出て再び歩き出した。ちなみにこのアルバムは中学か高校の時によく聴いていたのだが、あの頃の私はでかいヘッドホンをしながら爆音で音楽を聴いているところを周りに見せることで、「あいつには触れない方が良い」と思わせたいみたいなところがちょっとあった。アイタタタ。

そして私は、そのまま某ジャーナルでスタンダードなセレクトショップへ向かった。お洒落なショップ店員さんやお客さんが所々にいて少し弱気になりかけたが、緊張感を忘れずパンク・ロックの結界を張ったまま私は突き進んだ。

すると、進もうとする私の前に立っている一際お洒落で美しい女性が、こちらをじーっと見たまま一歩も動かないのである。でも完全に外界をシャットアウトしている私は、頑なに顔を上げずに衣服の棚と棚の間の狭い道をそのまま突き進もうとした。

しかしその女性、私が右に行こうとすれば右に、左に行こうとすれば左に動いて、進ませてくれないのである。まるでバスケのディフェンスのように。こやつ、只者ではない。しかしいきなり目が合うのも怖いので、私はとりあえずイヤフォンを外した。

すると、「……ちゃん? 花ちゃん?」という声が聞こえた。まさか関取花とバレていたとは。終わった。もはや抗うことはできない。私はそっと顔を上げた。するとそこには、思いっきり友人でありミュージシャン仲間のYちゃんが立っていたのである。

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私は「うわああああYちゃんじゃあああああん!」と思わず大声を出してしまった。あんなに気配を消し去りたいと願っていたはずなのに、誰よりもでかい声で、店中、いやフロアの四分の一中くらいにその存在をアピールしてしまったのである。本当に私ってそういうとこある。

「ずっと呼んでたんだけど、花ちゃん絶対こっち見てくれないからさ〜」とYちゃんは笑ってくれた。そして私のリュックサックのショルダーストラップにぶら下がったでかいアルコールジェルを見て、「それかわいいね」とも言ってくれた。なんだよ。天使かよ。好きだわ。あといい匂いしたわ。

しばらく立ち話をした後、Yちゃんとは別れた。私は一人になり、あらためてあそこで会ったのがYちゃんで本当によかったとつくづく思った。万が一普段ライブを見に来てくれているお客さんだったりしたら、嫌われてしまっていたかもしれない。「あ、花ちゃんって普段こういう感じね。なるほどね」って。違います、もう少し気を使ってます普段は。多分。

そしてなんだかんだとテンパったりほっとしたりしているうちに、気付くと私の空腹はマックスに達していた。その日、私は結局ラーメン屋に行った。ラーメン屋はこういう日には一番いいのだ。食券を渡すだけだし、目なんて誰とも合わないし、みんななんか結界張ってるし。

関取花アー写メイン今をください軽

関取花(せきとり・はな)
愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けているミュージシャン。NHK「みんなのうた」への楽曲書き下ろしやフジロック等多くの夏フェス出演、初のホールワンマンライブの成功を経て、2019年5月にユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。
ちなみに歌っている時以外は、寝るか食べるか飲んでるか、らしい。
関取花オフィシャルサイト
関取花Twitter

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ソングライター水野良樹が主宰するHIROBAの公式noteです。 『考えること、つながること、つくること』 その3つを豊かに楽しむための広場=HIROBAをつくっていく試みです。 定期購読マガジン『HIROBA公式マガジン』のご購読もよろしくお願いします。

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